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TS☆ふぁなてぃっく!  作者: 烏丸
第四章
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振り返らない過去

 明日香はいなくなった奏と凛音を探すために奔走していた。


「そう遠くには行ってないとは思うんだけど……」


 そう言いながら、明日香は走りながら周りを見渡す。呼吸も激しくなり、明日香の体力もそろそろ限界に近づいてきた時、上から凛音の高笑いが聞こえた。

 明日香はすぐに止まって上を見る。凛音は大木の枝の上に乗っかっていた。不敵な笑みをして余裕を魅せつける凛音を、明日香は眉を潜めて鞭を構えた。


「りん姉……! かな姉をどこにやったんだ!」


「ああ。その名前は親友の現世の名前だったか」


「何を言ってるんだ!?」


「フフフ、お見せしよう。これが本当の奏。僕の親友だ」


「え……?」


 凛音が指を弾けば、大木の茂みをかき分けて、奏が飛び上がってきた。奏は地面に着地して、ゆらりと立ち上がる。彼女の表情は前髪によって明日香には分からなかった。


「か、かな姉……嘘だよね?」


「嘘じゃないさ。お前が奏と言っている人物は前世の記憶に目覚めた。そして、僕の親友に戻ったのさ!」


「かな姉! ねえ、返事をしてよ! 僕、またかな姉と戦うの嫌だよ!」


 しかし、奏は口を開くことがない。ただ佇んで明日香の方向をジッと眺めていた。

 明日香の絶望的な表情を見て、凛音はさらに高笑いをする。もはや、自分が勝利しているとでも言ったように、表情にも緩みが出てきていた。


「フハハハ! 明日香とか言ったか。お前も前世の記憶に目覚めるがいいさ。そうすれば、僕達の仲間になれる」


「……違う。絶対に違うよ」


 明日香は震える声で凛音に反抗する。年上に意見することもあってか、明日香は目に涙を溜めながら顔を赤くしていた。


「僕は……かな姉を信じてる。お前の力なんかに、負けたりするもんか!」


「だが、現実はどうだ? そこにいるのは奏じゃない。僕の親友さ。さあ親友、明日香をやっつけるんだ」


「……はい」


 ここで初めて、奏が凛音の声に反応した。奏は竹刀を創りだして、明日香ににじり寄ってくる。表情の読めない奏にも、明日香は必死に呼びかける。


「違うよね? かな姉は操られてないんだよね?」


「…………」


 奏は無言で明日香に向かって竹刀を振りかざす。竹刀は明日香の体にぶつかり、明日香は痛みで目を閉じて地面に倒れこんでしまった。


「うう……かな姉……」


「……凛音、これはどういうことだ」


 未来の肩を借りて、遅れてやって来た真琴が呆然とこの景色を眺めていた。未来も同じく、倒れる明日香と竹刀を持っている奏を見ていた。


「これはこれはプリンセス。紹介します、僕の親友です。今は奏と呼ばれているようですが……」


「嘘でしょ……?」


 未来は奏を怯えるような眼差しで見つめている。

 また、奏ちゃんが敵になっちゃうなんて……。そんなの、嫌……。

 そんな未来の言葉を反対するように、真琴は否定の言葉を吐き捨てた。


「嘘に決まってんだろ……」


「え?」


「あいつが、転生の能力ごときにやられるわけがない。……俺は奏を信じてる」


「でも、奏ちゃんは今までにも……」


「だからこそだろ。どんなに失敗を重ねても、俺は奏を信じる。あいつを信じてやれないで、何が仲間だ。……だろ? 奏」


 奏は一瞬だけ口元を三日月のように釣り上げてニヤリと笑った。その変化を真琴は見逃さなかった。

 凛音は枝から奏の横に降り立つ。すっかり信頼しきっているようで、凛音は奏の前に立ってご高説を始めた。


「無駄だよ。僕の能力は最強だ。これから君たちを未来以外、戦闘不能にする。何故かって? 君たちにも前世の記憶に目覚めてもらいたいからさ」


「……やってみな。俺たちは――」


「――前に進む!!」


 奏の口から力強い声が発せられた瞬間、凛音は彼女の方向を見た。しかし、何もかも遅かった。奏は竹刀を一瞬にして真剣へと変化させると、凛音の腹部めがけて剣を薙ぎ払った。


「クッ!」


 凛音の体は奏の剣によって斬られ、血が噴き出る。奏の眼差しは虚ろな目ではなく、意志を感じさせる強いものだった。


「何故……僕の能力が……」


「能力はちゃんと効いているわ。勇者、あなたと一緒に旅をした記憶だって今はある」


「だったら何故!?」


「……未来を守るって決めたから。過去で立ち止まらない。前に進むって決めたから」


 ホッとした真琴は未来の肩から離れて自分一人で立つ。そして、凛音を挑発した。


「催眠術師との戦いの前だったら、俺達は前世の記憶に支配されてたかもしれないな」


「だけどあの後、最大のライバルで最高の親友の前で誓ったから。命を掛けても守ってみせるってね」


「奏ちゃん……」


 奏は未来に向かって、見た人誰もが優しくなれるような天使の笑みを向けた。

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