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TS☆ふぁなてぃっく!  作者: 烏丸
第四章
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諌見と凛音の対峙

 諫見は誰にも気付かれないだろう路地裏を選び、凛音の手を離した。ここは一方通行で、それ以外は外と完全に遮断している。周りのビルで光さえ届かないこの場所を、諫見は話の場として設けることに決めた。

 諫見は唯一の出入り口を自分の体で塞ぎながら、凛音に低い声で疑問をぶつけた。


「凛音先輩……まず、先に謝らせて下さい。実は記憶、戻ってないです」


「そ……うか。それは残念だ」


「そもそも、記憶とは何ですか? 私は私、諫見です。その記憶の意味ではないことは想像は付くんですけど……」


「僕たちの前世の記憶だよ。僕は勇者で、君は魔術師だったじゃないか」


「……凛音先輩。あなたは今、何らかのTSF能力のせいでおかしくなっています。それは未来先輩に聞けばいいことですけど――」


 未来という名前を口にした瞬間、凛音は諫見を睨みつけた。怒りの感情が湧き上がっていることは、誰の目を見ても明らかだった。


「待ってくれ魔術師。未来は僕たちの敵だ。呼び捨てにしてもいいくらいなんだ」


「未来先輩が敵? そんなバカな――」


「バカなことじゃない。僕にはその人の前世が見えるんだ。それによると、未来の前世は魔王。僕たちの世界を支配したやつじゃないか!」


「未来先輩が魔王?」


 ……前世に関係するTSF能力のことらしい。

 諫見は凛音に起こった出来事を大体把握することができた。彼女の予想では、自分たちと遊んでしまったがためにTSF能力を受け入れる器となってしまい、前世に関係するTSFに取り憑かれてしまった。


「魔術師。今からでも遅くない。記憶が戻らなくてもいい。僕と一緒にまた魔王を倒そう。今度は転生させないように、全てを破壊するようにね」


「待って下さい。未来先輩の前世が魔王だからなんだって言うんですか?」


「……何?」


「私たちは私たちです。真琴先輩は真琴先輩。奏先輩は奏先輩。未来先輩だって、未来先輩なんです。そこに前世は関係ないじゃないですか」


「……本気でそう思っているのか?」


「思ってます」


「……仕方ない。パーティは三人編成で行くしかないようだな」


 そう言って、凛音は手の平をジッと見つめた。

 諫見は構えて凛音の動向にチェックを入れる。すると、凛音の手のひらから炎が吹き出してきたではないか。


「勉強せず、記憶もない君に魔法が使えるのかな?」


「ま、魔法!?」


 ここはファンタジーの世界だっただろうか。そんな突拍子もない妄想をしなければ、諫見の目の前で起こっている出来事を現実で直視できない。

 凛音は何やらブツブツと呪文を唱えている。一瞬で身の危険を感じた諫見は何か武器になるようなものを探す。


「……鉄パイプ、か」


 これで人を殴ってしまえば痛いというだけでは済まない。

 しかし、身を守るにはこれしかなかったのだった。諫見はすかさず手を伸ばし、鉄パイプを手に入れた。彼女は鉄パイプに自分の意志を浸透させる。鉄パイプを手放した。

 諫見の手から離れた鉄パイプは諫見の精神を持ち、凛音の周りを動いている。


「ふむ、魔法以外にも戦える手段があるとは……。だけど、僕の力には敵わない」


 そう言うと、凛音は手のひらから生み出した炎の魔法を自分の周囲になぎ払うように投げつけた。ドーナツ型に自分を取り囲んだ炎は鉄パイプをいとも簡単に焼き払ったのだった。


「ああっ! ぐぅ……!!」


 鉄パイプが消失した瞬間、諫見は心臓を抑えて苦しみだした。全身が焼け爛れる感覚が諫見を襲い、息が詰まる。

 耐えられなくなった諫見はその場でうずくまってしまった。


「どうしたんだ? 君を傷つけていないのにどうして君が苦しむ?」


「うるさい。こっちの勝手でしょ……!」


 このままだとやられる……! どうすればいいの!?

 諫見は顔を歪ませながら周りの景色を見て使えそうな道具を探す。だが、鉄パイプよりも強力な物は見当たらなかった。路地裏で、しかも危険物の少ない日本で武器を探すのは一苦労だった。

 凛音は止めを刺そうとジリジリとにじり寄ってくる。

 地面に這いつくばりながら後ろに下がる諫見は、心の中で葛藤が生まれていた。

 ……やるしかない。凛音に、憑依するしか方法はない。


「これで終わりにしようか、魔術師。良い奴だったが、残念だよ」


「……まだ、私は終わらない!!」


 その掛け声と共に、諫見は体から抜け出た。意識が無くなった諫見の体は糸が切れたマリオネットのように地面に倒れ、彼女の魂は空に舞い上がった。

 凛音は倒れた諫見に疑惑の目を向けていたが、凛音には諫見の魂が見えない。

 諫見はすかさず凛音の体へと突撃し、彼女の中へと侵入した。


「――グッ! な、なんだ!」


(凛音先輩の体、私が使わせてもらいます。……行くよ、オーバードライブ!!)


 意識のある体、しかもTSFの能力を持っている人物への憑依は不可能だった。しかし、諫見はそれを強引に実現させようとする。要は、諫見の力が強ければ問題ない。

 諫見の力が最大限に発揮されること……それがオーバードライブ機能だった。

 諫見の体と精神に多大なる負担がかかる能力だったが、なりふり構わず行動したのは諫見がそれだけ必死になっている証拠だった。


「アグッ……! 何だこの気持ち悪さは! くっ、僕の体から出てけ!」


(出て行きませんよ。頑張らないで、凛音先輩。そうすれば早く凛音先輩からTSFの能力を出してあげられる)


 次第に、凛音の体の自由が利かなくなっていく。そして、凛音とは別の諫見の意志が支配し始めていた。諫見は凛音の指を動かすまで支配を高め、凛音が完全に支配されるのも時間の問題だった。


「僕は……まだ――くっ、ほ、ほら、もう、口も支配しましたよ……凛音先輩……!!」


「あらあら。勇者様がそんなので大丈夫なのですか?」


 その時、凛音と諫見の他に新たな人物が路地裏からやって来た。諫見は凛音の目から新たな人物を見て、驚愕した。


(や、八戸都……!? TSFを奪ったのに、記憶が……)


「ふふっ、驚いてビックリしているって顔ですね。私はイレギュラーなんですよ。神野未来と同じく、ね」


 八戸都が指を弾くと、空から女の子が二人飛んできた。二人は着地すると、虚ろな目で凛音を見た。


「諫見って言いましたか。憑依の能力の弱点はご存じですか?」


(――まさか!)


「ええ。そのまさかです」


 八戸都は女の子二人に目配せする。すると、女の子の一人が諫見の小さな体を片手で持ち上げた。魂がないので力なくダランとしている諫見の体を艶めかしく眺めた八戸都のその手には剣が握られていた。


「じゃあね、諫見」


(ま……待て――ガハッ!!)


 諫見の体から、赤く新鮮な血液が勢い良く吹き出される。心臓の部分を刺されたにもかかわらず、諫見の体は何の反応を示さない。心臓は血液が流出している影響かドクドクと波打って外へと排出している。

 諫見の体がやられたショックで精神の方にも影響が出て、諫見は凛音の体から這い出てしまった。精神は自動的に諫見の体へと戻っていく。それは、更なる痛みとの遭遇になった。


「――あ゛あ゛! ガボッ……!!」


 喉からも血液が出てくるため、思うように喋ることができない。さらに、自分の意志とは関係なく目が上下左右に回っていく。もはや指を動かす血液もなくなり、諫見の体は地面に倒れてしまった。

 諫見の支配から逃れた凛音は激しく咳き込みながらも八戸都に感謝の言葉を送る。


「すまない。君には色々とご迷惑を掛けてしまう」


「いいんですよ。勇者様のお力になれるのなら、私は本望ですわ。さ、こんなガキは放っておいて、早く未来を……」


「ああ……」


 そう言うと、凛音は諫見のことなどお構いなしに路地裏から出ていき、未来のいる高校へと足を運んだ。

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