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「ど、どうしてここに!?」
心底驚いているあたし達に、タヌキ達は明るく笑いかける。
「どうしてって、そんなの決まってるだろ?」
「白騎士がミアンを助けに行ったんなら、当然オレ達だって駆けつけるさ」
ブランは声も出ない。
みんなの顔を見回して、やっと、切れ切れに問いかける。
「で、も・・・オレ、一族を捨て・・・」
「なに言ってんだ? オレ達は仲間だろ? なあ、みんな」
「そうだよ。オレ達はみーんな、仲間だよ」
「そうだよ、そうだよ」
・・・・・・・・・・・・。
仲間。
仲間だと、言ってくれるの?
裏切っていたあたしを。一族を捨てたブランを。
つぶらな黒い純粋な瞳。あの日、山で初めて出会った時と変わらない。
何ひとつ変わらない、タヌキ達の瞳。
「オレ達も、みんな協力して地竜に同化するぞ!」
「そうすりゃ、地竜もパワーアップだ! 命を生み出す大地の力を取り戻す!」
「同化したオレ達も、また新たに生まれて来られる!」
新たに生まれてくる!?
あたしはブランとタヌキ達の顔を交互に見比べた。
それは、ブランやみんなが復活するってこと!?
この世界から消えてしまわないの!? またあたしの元へ戻って来てくれるの!?
「なるほどそうか! 確かにそうかもしれないな!」
ブランの表情がパッと輝いた。
タヌキ達もニコニコしてうなづいている。
あたしはブランに縋りついて懸命に確認した。明確な返事を聞かずにはいられない。
「ねぇ、どうなの!? 確実にブランは戻って来られるの!?」
「ああ!」
「ほんとに!?」
「たぶんな!」
「た・・・・・・!?」
たぶんって、なによそれっ!? 確実な話じゃないの!? はっきりしてよ!
「いや、だって初めての事だから、確実かどうかは分からないさ」
「でもきっと大丈夫さ!」
「そうだよ、きっとうまくいくよ!」
「大丈夫、大丈夫! 心配ないって!」
あっはっはっは。
ブランとタヌキ達が顔を見合わせ、揃って笑い出す。
「バカ! 笑いごとじゃ・・・!」
歯を剥いて怒鳴るあたしに、それでもみんなニコニコと笑顔を見せる。
あたしは、そんなみんなの笑顔を見比べているうちに・・・
思い出した。これまでのことを。
初めて出会った時から、いつもそうだった。
お気楽で、お人好しで、どこか必ず抜けてるタヌキ達。
深く考えもせず突っ走るのは、彼らの悪いクセ。
でも、いつも透き通るように純粋だった。それは・・・・・・
彼らの中には、いつも真実があるから。
「大丈夫だミアン。心配するな。オレは必ず戻って来られるさ。だって・・・」
ブランはニカッと満面の笑みを見せた。
「だって愛は世界を救うんだろ?」
「・・・・・・・・・・・・」
「なら絶対に大丈夫。オレ達はこんなに愛し合っている!」
・・・・・・・・・・・・。
ギュッと胸が痛んだ。
息ができないほどに熱く膨らむ感情を、押さえられない。
押さえきれずにあふれる想いが涙になる。
愛だとか、真実だとか、願いだとか。
あたしの中にある物が、次から次へとあふれ出て。
こんなに熱くて、強くて、苦しいほどで。
あふれて、あふれて、止まらない・・・・・・。
「きっと迎えに行くよ。すぐに迎えに行くから」
「・・・・・・うん」
「そしたら、一緒にずっと山で暮らそう」
「・・・うん」
「木の実を食べよう。夕日を見よう。一緒に眠ろう」
「うん」
「ミアン・・・・・・」
あたしの髪と頬に触れる手。この感触。温もり。
「こんなに、ミアンを愛しているよ・・・・・・」
・・・・・・・・・・・・。
うん。
「あたしも、こんなにブランを愛しているよ・・・」
溺れるほどの切ない想い。
ブランの顔がゆっくりと近づいて、そっと唇を寄せてくる。
あたしは目を閉じ、受け止めた。
唇に感じるブランの体温。
吐息が震える。
お互いの熱い感情が、唇を通して伝わり合う。
驚くほどに温かい。そしてこんなにも優しい。
生まれて初めての、愛する者とのキス。
「結婚式で、できなかった誓いのキスだ」
「ブラン・・・・・・」
「これでお前は本当にオレの嫁だ。誰にも文句は言わせない。たとえ、ミアン自身にも」
「バカね・・・」
文句なんて言うはずもない。
あたしはブランのお嫁さん。そしてタヌキ一族の仲間。
それがあたしの中の真実。
「戻って来てね」
「ああ。必ず戻ってくる」
「愛してる。ブラン」
「愛してる。ミアン」
こんなに、こんなに愛しているから・・・大丈夫。
愛は、世界を救うから・・・・・・。
そして。
あたしの頬からブランの手が離れて・・・
ブランが立ち上がる。
身を翻し、彼は走り出した。
タヌキ達が、次々とその後に続く。
・・・戻って来てね。戻って来てね。
戻って来てね。戻って来てね。戻って来てね。
一瞬だけ、ブランは振り返った。
あたしを見つめている。
彼は、笑っていた。とても幸せそうに笑っていた。
その笑顔が金色の光に包まれる。
ブランも、タヌキ達も、地竜も。
全部全部、大きな金の光に包まれて。
眩しくて眩しくて・・・・・・・
眩しくて、眩しすぎて、涙が出て・・・・・・
そして、ついになにも・・・
見えなく、なった・・・・・・。




