表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/78

5

秘宝は、城の地下に保管されていた。

国王だけが入室する事を許されている、厳重に警備された「秘宝の間」に。

たとえ姫の身分でも入室は許されない。


自分が手に入れられる全ての財産を使って、関係する衛兵や侍女を買収し、密かにもぐり込んだ。

暗い室内を照らすのは自分が持ち込んだ明かりだけ。

その乏しい光でも、わたくしを驚かせるのは十分だった。


床一面、壁一面に不思議な文様が彫り込まれている。

さらに驚くことに、その文様自体が光りを帯びて輝いていた。


マスコールの一族は、初代の頃から呪術の知識や研究に長けていたと聞くけれど・・・。

これはいったい、何の目的の呪術なのだろうか?


そして何より一番、わたくしを驚かせたもの。室内の中央の大理石の台座にの上に置かれているもの。

これが・・・・・・


王家の秘宝、竜神王の目。


初めて見る秘宝の姿に、しばしの間我を忘れて見入ってしまった。


どんなにか大きな宝玉かと思っていた。

けれどそれは、手の平にスッポリと隠れてしまうほどに小さい。


でも球形のそれは・・・生きていた。

わたくしの目の前で、確かに生きて、眩い輝きを放っていた。


命の波動を感じる。鼓動の音が今にも聞こえてきそうなほどだ。

よく見れば・・・わずかに脈打っているような。

さすがは秘宝。これは本物だ。


どんな願いも全て叶えるという噂は本当だったのだ。

これならきっと、わたくしの願いも叶えられるはず!


迷い無くわたくしは秘宝を手に取り、部屋から飛び出した。

そしてそこに、愛する者の姿を見て思わず立ち止まる。


『まぁ、いつの間にいらしていたのですか!?』

『姫が本当に秘宝を手に入れられるかどうか、心配で』

『ご心配には及びません。ほら』


差し出す秘宝の神秘の輝きと存在感。愛する者の表情に喜びがあふれる。

わたくしも嬉しかった。


『さあ、急いでここを出ましょう。父王に見つかりでもしたら大変ですわ』

『そうだ。ここで見つかるわけにはいかない』

『こちらですわ』


そう言って、先導して数歩先に進んだ途端。


『・・・・・・!?』

背中に、不可思議な感触を感じた。


肩口から腰にかけて、上からの一直線。

なんとも表現しようのない感覚は一瞬後に、信じられない激痛に変わった。


『ーーーーーーー!!』


細い悲鳴を上げ、わたくしは倒れる。床の硬さと冷たさが身に染みて、さらに苦痛が増した。

痛い! 痛い! 体の内側から噴き出すようにギリギリと痛む!

せ・・・背中が・・・熱・・・いぃ!!


苦しむわたくしは愛する者に助けを求め、手を差し伸べる。そして・・・


愛する者が赤く染まった剣を手に、無表情でわたくしを見下ろす姿を見た。


わけが分からなかった。


これは・・・・・・なんなのだろうか?

なぜ、こんなに冷たい目でわたくしを見ているのだろう?

なぜ心配してくれないのだろう? なぜ助けてくれないのだろう?


ただ疑問ばかりが浮かぶ時間は、そう長くは続かなかった。

突如、凄まじい地震が起こり城が崩壊し始める。


驚く間も無く、わたくしが倒れている床が崩れた。

ポカリと大口を開け、地底に飲みこまれるほどの深い大穴が開く。


わたくしは落下する直前、とっさに床につかまり、両手でぶら下がった。

フラフラと支えの無い宙に揺らぐ両足が心底から頼りなく・・・心底から恐怖だった。


死ぬ。落ちて・・・死ぬ。


助けて。どうかわたくしを助けて。


お腹の子を・・・あなたの子を助けて!


恥も外聞もなくわぁわぁ泣き喚き、懇願した。

目と鼻からボタボタと水が垂れ、死の恐怖に顔は醜く歪む。


そんなわたくしを見つめていた愛する者は、無言で近づいて来た。

そして、ゆっくりとわたくしに向かい手を差し出す。


あぁ! やはり助けてくれるのだ! やはり愛は本当・・・・・・!


スッと伸びた手が、床の上の秘宝を拾った。

そして無情にも愛する者は背を向ける。


わたくしの歓喜は絶望に変わった。


『・・・待って! お待ちください!』

『待ってなどいられぬ。何が起こっているのかは分からぬが、急がねば私は生き埋めだ』

『どうかお助け下さい!』


命乞いの声など聞こえぬように、愛する者は恍惚と独り言をつぶやいた。


おぉ、この秘宝を手に入れる為に、どれだけ苦労したことか。

これがあれば我が国は戦争に勝てる。

マスコールは無条件で降伏してくるかもしれぬ。


その功労さえあれば、並み居る兄たち全員を押しのけ、私が王位につける。

カメリアの玉座は、ついに・・・ついに私の物だ。


信じられない言葉が、次々と愛する者の口から聞こえてくる。


『そんな・・・あなたは確かにわたくしを愛していると・・・』

『愛? ・・・・・・ふっ』


蔑むように、鼻で笑う。


『よくもまあ素直に信じたものだよ。さすがマスコールの女は愚かだ。お蔭で助かったがな』

『・・・・・・・・・・・・』

『よく働いてくれたな。その点は礼を言う。ではな』

『待って! お願いですからお助けを!』


無我夢中だった。

裏切りも、城の崩壊も、秘宝を奪われたことも。

それらは全て、確かにわたくしが愚かな行為のせいだろう。


ただ、ただそれでも・・・


『どうか命ばかりは・・・あなたの子どもの命だけは、お助け下さいませ!』


お腹の子はあなたの子です! あなたの子です! あなたの子なのです!


狂ったように泣き叫んだ。

どうか、人としての情がおありならば・・・子の命だけは、お助けを!


『わたしの子? ・・・ふん』


頬を歪ませ、吐き捨てる。


『敵国の穢れた血が、我がカメリアの王家に混じるなどもってのほかだ。そんな命を誰が助けると思うか? バカ者が』


・・・・・・・・・・・・。


全てが・・・・・・


断ち切れた。


その時


ひときわ恐ろしいほどの大揺れが襲った。

ヨロめいた男の手から、スルリと秘宝が滑り大穴へと落ちていく。


男は世にも哀れな悲鳴を上げた。


わたしの腕の力は、そこで尽きた。

ふぅっと身体が落下していく。奈落の底へ。


そして、最後に見たものは・・・・・・


愛していると心から信じていた、見知らぬ男の醜く歪んだ顔だった・・・・・・。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ