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3

あたしの名を呼ぶ声に、あたしはギクッと震えた。

とっさに視線をブランから逸らす。


「ミアン、どういうことだ?」

「・・・・・・・・・・・・」


あたしは、返事をすることができない。ただオロオロと視線を泳がせるだけ。

代わりにセルディオ王子が、丁寧に説明し始める。


「なに、この女が私に教えてくれたのだよ」

「なにを・・・だよ・・・?」

「この山の金脈の存在だ。自分の正体をあばかれて、とっさに言い逃れるためにな」

「違・・・!」


違う! そうじゃない!

そうじゃないんだ! あたしは、確かにしゃべっちゃったけど! 


「決して、そんな理由でしゃべったわけじゃない!」

「しゃべった・・・?」


あ・・・・・・!


あたしはバッと両手で自分の口を押えた。慌ててブランを見る。

違う! 違うんだよブラン! あたしは・・・!


そう言い訳をしようとした口が、止まってしまった。

そして、あたしの目には涙がにじむ。

背中からはジワジワと、嫌な汗が噴き出した。


あたしを見るブランの表情。彼の目がはっきりと言っている。

お前が、しゃべったのか? と・・・。


『なぜ、そんなひどいことを・・・? 』と・・・。


「豪華な衣装も招待状も、この山の金を売り捌いて用意したのだろう? この女のお蔭で、ただの金脈の噂に確証がもてた」

「・・・・・・・・・・・・」

「金脈を放っておく手はない。金は、全て我が国のものだ」


セルディオ王子は淡々と言葉を続ける。


「作業しやすいように、山は完全に切り開く。だがその前に、得られる利益は得ておかねば」

「利益・・・?」

「タヌキだ」


当然のように、王子は言った。


「山が開けば、どうせタヌキたちは全滅していく。生きているうちに、一匹残らず殺して売り捌けば、莫大な利益になる」


あ・・・・・・。


あまりの事実に、クラリと目まいがした。

王子の言葉があたしの胸に突き刺さる。まるで氷の刃を突き立てられたかのように、心がゾワリと冷えていく。


信じ・・・られない。

信じられない。本当に信じられない。


吐きそう・・・。セルディオ王子への嫌悪感から、今にも吐きそう・・・。


こんなことが許されるの? それが人間の、この行いの当然の理屈?

こんな非道なことが許される理由だと考えているの?


金脈があるからと、山を破壊して。

利益になるからと、タヌキたちを皆殺しにして。

貴重だからと、竜の目玉をくり抜いて。


そして奪われ、破壊され、追い詰められたものたちの悲鳴に対して、人間はこう言うんだ。


『だって欲しかったんだもの』


と・・・・・・。



これはあたしのせいだ。あたしがしゃべってしまったから。

なんと言おうと、どんなに目を逸らそうと、それが事実で現実なんだ。

なのに、この惨状を前にして、あたしは何を言い訳するの?


『だって、そんなつもりはなかったんだもの』


それでは・・・あたしはセルディオ王子と一緒だ。

この吐き気をもよおす男と、まるで変わらないじゃないか。

言い訳なんて・・・言い訳なんて、なんの理由にも・・・。


「しかし兄上が戻ったならば、急いで城へ戻らねばな。お前たち、城へ向かうぞ」


王子が兵士たちに声を掛ける。それを合図に、皆ゾロゾロとこの場を立ち去り始めた。

めいめい、タヌキの死体の山を担ぎながら。


「やめろ! どこへ連れていく気だ!」


ブランが叫んで、兵士のひとりに飛びついた。そしてタヌキを奪い返そうとする。

隣の兵士がそれを見て、剣の柄でブランの頭をガツッと殴りつけた。


「・・・・・・!」

声もなくブランは崩れ落ちる。

「ブラン!」

あたしはブランの元へ駆け寄り、彼の体に覆いかぶさった。

「やめて! これ以上ひどいことしないで!」


もう・・・これだけやれば、もう十分でしょう!?


「そんな男、放っておけ。それにしても奇妙なやつらだ。なにをそんなに憤っているのか」


セルディオ王子の怪訝そうな声。


「まあいい。皆、行くぞ」


あたしは唇をかみしめ、ただ、無言のままでいた。

ガクリと肩を落とし、兵士たちの立ち去る気配を感じる。


行って・・・。さっさとここから、いなくなって。

顔も見たくない。

同じ空気を吸いたくない。

あんたたちに、この山の空気を吸ってほしくない。


さっさと・・・さっさと消えてよおぉぉ!!


「あぁ・・・そういえば・・・」


王子が立ち止まる。

なによ!? まだなにかあるっていうの!?


「お前が執着していた、下賜の件だが」


クルリとこちらへ向き直り、王子は無表情で言った。


「お望み通りの下賜を与えよう。お前の奴隷身分を解消してやる。お前はそれを必死に訴えていたからな」


・・・・・・・・・・・・!!


ギクリと息が、止まった。

体中から一気に血の気が引く。代わりに、冷たいものが全身を駆け巡った。


ブランが王子の言葉に敏感に反応する。身を起こし、苦しそうな声で王子に問いただす。


「待て・・・それは・・・どういう意味だ?」


あ・・・あ・・・。


バクバクと心臓が鳴り、冷たい何かが恐ろしい勢いで全身を巡っていく。

指先まで冷えているのに、あたしはジットリ汗をかいていた。


「嘘をつくな。ミアンの、願いは・・・タヌキの保護だろう?」

「タヌキの保護? なんだそれは?」


王子は胡散臭そうな目で答えた。


「タヌキのことなど、その女はひと言も言っていないぞ。その女の望みは、自分の身の保身だけだよ」


それを聞いたブランの表情が、一変した。


・・・・・・・・・・・・。


あ、あ、あぁぁ、あ・・・。


グラグラと激しい目まい。血の気が一滴残らず引いていく。

なんてこと・・・なんて、報い・・・。


消滅してしまいたい。今すぐ、この場から消滅したい。

頭の中がメチャクチャに混乱している。


どうしよう、とか。

バレてしまった、とか。

違う、そうじゃないの、とか。

いいえ違わない、あたしは確かにそれを望んだ、とか。


ブランの白い髪。白い肌。

その肌が、白を通り越し・・・青くなる。

そして、あたしを見た、その目。


今まで、一度も見たこと無かった。

こんなブランの顔、こんなブランの目。


まるで異質な『モノ』を見る目をして・・・あたしを見つめる、ブランの顔を。


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