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「ああぁ! うわあーーー!!」

どうして!? どうして!? なんでこんな!?


訳も分からず、あたしはただ悲鳴を上げ続ける。

あの黄金色をした美しい毛並み。あれはみんな、仲間のタヌキたちだ!


隣で石のように固まっているブラン。

ポカンと呆けていた顔が見る間にワナワナと歪んでいき・・・

その口から大絶叫が放たれた。


「やめろおぉぉぉーーーーー!!」


凄まじい表情で兵士たちに飛びかかって行く。

あたしも悲鳴を上げながら夢中で走り出した。


「やめて! やめてえぇぇーーー!」

「おや、これはシーロッタヌゥーキー男爵夫妻」


場違いな冷静な声がした。

聞き覚えのあるその声に、冷たい水を頭からかぶせられたようにあたしたちの足が止まる。

そして目の前にいる人物の名を叫んだ。


「セルディオ王子!」


長身の金髪。整った顔立ち。神職の衣装。

間違いなくそれは、第二王子のセルディオだった。


「戻って来たか。兄上はいかがされた?」


タヌキの死体の山を前にして、平然とそう問いかけてくる。その顔に向かってあたしは声を振り絞った。


「あんたが・・・!? なんでこんなことをするの!?」

「聞いているのはこちらだ」

「やめて! 今すぐこんなことやめてぇ!」

「答えろ。兄上はいかがされた?」


こっちの激情など、どこ吹く風のその様子に、あたしはもう頭が破裂しそうになる。

唇を震わせ、大声を吐き出して答えた。


「スエルツ王子なら無事よ! ついさっきオルマさんと一緒に城へ向かったから!」

「秘宝は? 竜神王の目は手に入れたのか?」

「秘宝は手に入らなかったけど、その件はもういいの!」


そう! あんたの大事なお兄さんは無事だし!

王子と姫は誤解を解いて、きっとすぐにも婚儀は行われるはず!


王子は、王さまに認められてちゃんと王位を継ぐから!

そしてあんたなんかより、偉大な王になるんだから!

この国は安泰よ! あんたの心配しているような諍いは起きない!

これであんたは満足なんでしょ!?


「それよりも、なんでこんな・・・!」

「なんと、兄上は無事に帰って来たのか。てっきり魔物にやられるだろうと思っていたが」

「・・・・・・え?」


・・・なに・・・? 

あんた、いま・・・なんて言った?


「愚鈍な兄だが、どうやら悪運だけは強いらしいな」

さも忌々しそうな顔で、セルディオ王子はそう吐き捨てた。

どうみても、大事な兄が無事に帰って来て喜んでいるようには見えない。


て、いうか・・・。

『魔物にやられる』って、あんた今、確かに言ったよね?


・・・なんで知ってるの?


マスコール王国が魔物に占拠されている状況を、なんであんたが知っているの?

あたしたちだって、現地に行くまで知らなかった事実なのに。


「どういうこと? あんたいったい・・・」

「オルマも無事に戻って来たのか?」

「・・・え?」

「あの女も一緒に戻って来たのかと聞いている」


あたしは、うなづいた。

セルディオ王子が冷めた表情で、フンッと鼻から息を出す。


「そんなことはどうでもいい! これは・・・これはいったい、どういうつもりだ!」


ブランが叫び、タヌキの死体の山へと駆け寄った。

そばに立っている兵士を「どけ!」と押しのけ、世にも悲惨な顔で、変わり果てた仲間の姿を見下ろす。


人間につまみ上げられ、品物のように放り投げられ

無造作に積み重ねられ、グニャリと歪んだ・・・


共に生きた、大切な愛する仲間の死体の山を。


「あ、あぁぁぁ・・・」

うめき声をだし、必死の形相で片っ端からブランは確認していた。

誰か、だれか、生きてはいまいか? と。

生き残ってくれてはいまいか? と。


そんな一縷の望みにすがるブランの目に、次々と現実が映し出されていく。


年老いた死に顔。

あれは、あたしがこの山で初めて出会った、タヌキ・・・


若い、オスの死に顔。

あれは、精鋭部隊の、馬車であたしの手をとってくれた・・・


キレイなメスの死に顔。

あれは、あたしの花嫁衣裳をつくってくれた・・・


そして、

そして、


そのメスの隣に寄り添うように・・・・・・


まだ、小さな・・・


赤ちゃん、の・・・・・・



「あ・・・・・・」


もう耐えきれぬように、ブランはガクリと両膝から崩れ落ちた。

手が、土をギリギリと握りしめる。

両肩が、まるで痙攣するように大きく上下して、そして・・・


「う・・・う、あ、・・・」


吐息のような、小さなすすり泣く声。

それがどんどん大きくなる。


・・・やがて、耳をふさぎたくなるほどの哀しい慟哭となった。


「あ・・・ああぁぁぁーーー!!」



あたしも声にならない声を上げ、泣いた。

目の前の現実を拒否するように、首を横に振るたび、次々と涙があふれて零れ落ちていく。

みんなぁ・・・タヌキの、みんなぁ・・・。


黒くつぶらな、可愛い瞳。

金に輝く、生き生きとした美しい毛並み。

気が優しくて、穏やかで・・・あたしを、初めて『仲間だ』と認めてくれた存在。


ここにあるのは、その抜け殻。

もはや瞳からは完全に光が失せて、ただの空虚な石ころと化した。

命という、もっとも輝ける、価値あるものが抜け落ちてしまった・・・


いいえ。

無残に奪われてしまったもの。


なのに、それを奪った人間が一番欲望をむき出しにするもの。

金に輝く貴重な毛皮。

それだけは、無情にもいまだ、日の光を浴びて輝き続けていた・・・。


「ど・・・して・・・?」


涙でとても声が出ない。

それでも、なんとかあたしは、セルディオ王子に問いかけた。


聞かずにはいられない。

なぜ? どうして?

どうしてこんなことをするの?


しなければならない理由が、どこかにあるとでも、あなたは言うの?


なぜ・・・・・・


なぜ・・・・・・


なぜこんなことができるの!? 人間は!!


「どうして? なにを言うか。 その答えはお前が一番よく知っているはずだが?」


セルディオ王子が淡々と答えた。


「お前が私に教えたことだろう? この山に、豊富な金脈があると」



・・・・・・・・・・・・!!


あたしの全身が、硬直した。

記憶が頭の中に再現される。


あの時・・・出発前の、城の物陰で。

セルディオ王子に正体がバレて、強く追及された時。

意識が朦朧として、ボンヤリと無意識に口にした言葉。



『タヌキ・・・金、の・・・』


あ・・・・・・。



さあぁぁ・・・と、音を立てて血の気が引いていく。

一瞬で目の前が薄暗くなった。


あれが、あの言葉が、原因?

この惨劇の原因が、あ、あたしの・・・・・・?


涙に濡れたブランの青ざめた顔が、ゆっくりと、あたしを見た。


「ミアン・・・?」


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