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「やめるわけには、いかないだろうが!」
ブランがヒラヒラと宙を舞い、何度も体当たりで攻撃を仕掛けている。
でも竜の体にはなんのダメージも感じられない。
「よせって! 地竜の体はこの世で一番硬ぇんだぞお! ムダだぁ!」
「そんなこと知ってる!」
「知ってんなら、よせー! おめえの体の方が、イカれっちまうぞー!」
――ズウゥゥーーーン!
イラついた地竜が、一歩、足踏みをした。
「うわあぁぁーーーっ!?」
あたしたちの体が飛び跳ね、地面に勢いよく尻もちをつく。
――ズウン! ズウン!
繰り返される足踏みに、あたしたちの体は小石のように翻弄される。
ついに洞窟の壁がガラガラと崩れ始めた。大きな岩がドサドサ上から落ちて、砕けていく。
周りのノームたちが悲鳴をあげて逃げ回った。
地竜の怒りは大地の怒り。
怒りの感情そのものを鎮まらせなければ、いずれは大地に甚大な悪影響が出るだろう。
このまま放置はできない。でも、どうやって鎮まらせるの!?
「オジサン! 竜神王の目を出して! 地竜に返そう!」
「だめだぁ! 仕返しとばかりに、おらたちノームが全滅させられっちまう!」
「事情を話せば分かってくれるよきっと!」
「そんなん、無理だぁ!」
「なんでよ!?」
あなたたちは、いってみれば同じ土の仲間なんでしょ!? なら大丈夫! 話せば分かる!
「だから、地竜は大地そのものなんだってばよぉ!」
「だから、それがどうしたの!?」
「おめえ、地面に向かって何かしゃべって、それが地面に通用すっと思うかぁ!?」
「思わない!」
あたしは即答した。
「そういうこった! 自然にゃ介入できねえ! おらたちは地竜の感情を、黙って受け入れるしかねぇ!」
そんなぁ! 竜って賢いんじゃなかったの!?
これじゃまるっきり、ヒステリー起こして夜泣きしてる赤ん坊と一緒じゃん!
ずうたいがデカイぶん、赤ん坊の1000倍タチが悪い!
「じゃ、どうすんのよこの状況!」
「それが分かりゃ苦労しねえよぉ!」
「おい、そこのノーム! 剣をよこせ!」
ブランがオジサンに叫んだ。
「ノームなら、剣を持ってるはずだ!」
え!? なに!? 剣?
「あ・・・・・・」
オジサンの表情がポカンと気抜けしたのを見て、あたしは勢い込んで聞く。
「なに!? 剣って、なに!?」
「おおぉ、そういやぁ、あったなあ! そんなもんがよぉ!」
「そんなもんってどんなもんなの!?」
「だからそりゃ、剣だぁ」
「・・・オジサンふざけてる!? まじめに答えて!」
あたしはオジサンに噛みつきそうになった。
頼むから、質問には的確に、正確に、そして手短に答えてちょうだい!
「大地の精気を集めて造った最強の剣だぁ。あれなら地竜を攻撃できる」
地竜を攻撃できる剣? ・・・でも地竜をぶっ倒しちゃったら、まずいんじゃないの?
「あの剣は地竜の分身みてえなもんだ。あれなら攻撃しても、地竜だったらほとんど傷付かねえよ」
「ほんと!? すごいじゃないの!」
まさに、今日のこの日のために造られたような剣。これぞ天の采配。世の中ってうまくできてる。
それ使いましょう! せっかくだから活用しましょう今すぐに!
「なんでそんな便利なもん、今まで忘れてたの?」
「なんせ特別な剣だから、使うヤツも特別なヤツじゃなきゃだめなんだぁ」
「特別な?」
「大地に選ばれたヤツでなきゃ、使えねえんだぁよ。今まで使えたやつぁ、ひとりもいなかった」
あたしはオジサンの言葉を、心の中で反芻した。
大地に選ばれた・・・特別な・・・。
「オジサン! その剣持ってきて!」
「へえ? いや、だからよぉ・・・」
「いーから持ってきて! 早く!」
ブランなら・・・使えるかもしれない!
大地の希少な金の精霊。中でも彼は、特別な・・・
「彼は、ブランは、伝説の白騎士なの!」
「はあ? なんだぁ? 伝説がどうしたってぇ?」
「説明は後でするから、とにかく持って来おぉいぃぃー!」
「おめえら早く持って来い! なんかこのねえちゃん、怖ぇぞぉ!」
オジサンの声に、ノームたちが弾かれたようにわらわらと駆け出す。
早く! 急いで・・・! 早く早く早くー!
ブランと地竜の様子を見守りながら、あたしはジリジリと焦燥感に苛まれた。
やがてノームの大集団が、「えっほ! えっほ!」と掛け声も勇ましく戻ってくる。
来た! 待ってたよ! さあ早く剣をブランに・・・。
目を輝かせて振り返ったあたしは、そこで固まってしまった。
な・・・・・・
「なにこの剣ーーー!?」
目にした剣の、想像を絶する巨大さに両目を見張る。
とにかくでかい! どんだけデカイのこの剣は!
幅、何メートル!? 長さも何十メートル!?
最初は、とても剣だとは思えなかった。
だってあたしの場所からは遠すぎて、柄も切っ先も、ぜんぜん見えないくらい大きいんだもん。
これほんとに剣? ・・・桁違いの巨大剣だ!
ノームの一族が全員総出で、頭の上に抱え上げ、顔を真っ赤にして懸命に支えている。
「こ、こ、これが・・・?」
「大地の精気を集めた剣だぁ。これっくらいのデカさは当然だぁよ」
そういうオジサンの言葉を聞きながら、あたしは軽く血の気が引いた。
ど・・・どーしよー。ブランなら大丈夫だと思って、太鼓判押しちゃったけど。
な、なんかちょっと、自信、なくなってきた、かも・・・。
だってこれじゃ、あんまりデカ過ぎるよぉ!
「心配すんなぁ! おらたちに任せろ!」
あたしの顔色を見たオジサンが、ドンっと自分の胸を叩いた。
「おめえらぁ、やるぞぉ!」
「おおーー! そーーれぇ!」
ノームたち全員が、息を合わせて大剣を放り投げる。
剣はズゥゥン! と大地を揺らし、地に落ちた。振動が足元から頭まで、ビリビリと痺れて抜けていく。
剣はその重みで、土にめり込んでしまっていた。
「いくぞぉ! ノームの底力を見せてやるぞぉ!」
オジサンの掛け声に、ノームの一族が威勢よく応える。
みんな揃ってハンマーを取り出し、クルリと構えた。
そして全員が剣を覆い尽くすように群がって、一斉に剣を鍛え始めた。
――キィンキィン! ガンガンガン!
金属を叩きつける凄まじい音が、洞窟中に反響して空気をビリビリ震わせる。
「うわーっ!?」
思わず悲鳴を上げて両手で耳を押さえた。ま、まるで音の力で耳の奥を殴られているみたい!
「よーし! 完成だぁ!」
オジサンの声に、ノームたちがパッと身を引いた。
見ると、剣が影も形もなくなってしまっている。・・・え!? どこいっちゃったの!?
「け、剣は!? まさか砕いちゃったの!?」
「よーく見ろぉ。ほれ、そこだぁ」
オジサンの指先に視線を向けると、そこにはごく普通の長剣が一本、あった。
なんの変哲も飾りもない、シンプルな柄。
豪華な剣にありがちな、ブレード部分の掘り込み模様もない。
一見、拍子抜けするぐらい貧相な、ただの剣なのに・・・。
なんなの? この威圧感。
目が離せない。近寄りがたいほどのオーラを感じてしまう。
ただの剣に向かって、思わず頭を垂れて敬服してしまいそうだ。
これまでに見たことのある、どんな立派な剣よりも威厳が漂っている。
「すごい・・・」
この剣も、ノームの力も。
いろんな意味をこめてオジサンに向かってつぶやいた。
「さあこれで準備は整った! 次は白タヌキ! おめえの番だぞぉ!」
「・・・おお!」
オジサンの声にブランの声が重なる。
地竜の顔のあたりをヒラヒラ舞っていたブランが、サァッとこっちへ向かって素早く飛行してきた。
そして剣の上でボンッと破裂音がして、白い煙がブランの体を包み込む。
煙が霧散して、変化したブランの姿が明らかになっていく。
あたしは祈るような思いで、あらわになっていくブランの姿を凝視していた。
スエルツ王子やオルマさんが、ゴクリとノドを鳴らす音が聞こえる。
そして
そこに現れたのは、白い・・・
白い・・・・・・
白銀に輝く鎧に身を包んだ・・・
剣をしっかりと手に構え、地竜を見据える剣士の姿をしたブランだった。




