表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/78

4

ゆっくりと波打つ体。規則正しい地響きのような呼吸。

息ひとつで理解できる。伝わってくる。


竜とは、まさに、神の領域。

目の前にして、ただそれだけを思った。


こんなものにはとてもじゃないけど近づけない。

マスコール王族のご先祖は、よくも近づけたものだ。しかもまぁ、目玉を盗むだなんて。

ある意味、称賛に値するほどの強欲ぶりだ。

本当に人間って、どこまで欲深くて・・・どこまで、愚かになれるのか。


そんなことを頭の片すみでボンヤリと考えながら、あたしは竜を見つめていた。


巨体のわりには、意外なほど小さな竜の目。

その片側が、確かに空洞のようにポカリと穴が開いている。

そして残された目が、いまにも火を噴きそうなほど、真っ赤な怒りに燃えあがっていた。

あたしを、射抜くように真っ直ぐ見据えながら。


もう、終わりだ。あたしも、王子も、オジサンも。

それを自覚しながら、ただこの場に立ちすくむだけ。


それ以外に・・・・・・なにができる?

怒りに燃えてなお神々しい、絶対的な存在を見上げる、ちっぽけなあたしたちが。


竜の巨大な手が、ブワリと浮いた。

あぁ・・・あれであたしたちを踏みつぶすつもりなんだろう。


隣のスエルツ王子が胸元のペンダントをギュッと握りしめる。

もう・・・どんな誓いも、決意も、想いも・・・叶わない。


あたしは目を閉じて、この世の最後に、静かにその名を呼ぶ。

呼んでも応えなど無いことを知っていても。

それでもあたしにとって、もっとも愛しい者の名を。


「・・・ブラン・・・」


「ミアンーーーーー!!」


・・・・・・・・・・・・。


はいっ!!?


あたしはガバッと両目を見開き、ブンブン周囲を見渡した。

いま・・・いま、応えがなかった!? あたしの声に、応えがなかった!?


スエルツ王子もオジサンも、同じように驚いた顔で周囲を見回している。

ということは、やっぱり幻聴じゃない!?

この声は・・・!!


「ブランーーーーー!?」

「ミアンーーーーー!!」


ほ、本当に聞こえるーーーーー!!

ブラン! ブラン! ブラン! ブランーー!


あたしは飛びあがって狂喜しながら、叫び続けた。

「ブラン! どこなのブラン!」


夢みたい! 信じられない! もうだめだと思ったのに! 二度と会えないと思ったのに!

あぁ神様ありがとう! ありがとうございます!


天を仰いで神に感謝するあたしの目に、キラリと白い小さな光が見える。

はるか彼方のあの白い光は、星?

いまのあたしの目には、まるで瞬く希望の星のように見える。その希望の星が・・・


・・・・・・え?


「ミアンーーー!!」


白いタヌキの姿で、すごい勢いで天から飛び降りてきた!?


あれってブラン!? 両手両足を大きく広げ、まるでモモンガみたい!


・・・ていうか・・・・・・。


あたしは目をパチクリさせた。

もろにモモンガだわ、あれ。ブランがモモンガに変化して、宙を滑空しているんだ!


前足と後ろ足の間の、薄い皮膜が風を切る。

白い体がフワリと竜の鼻っツラに降り立ち、ビタリと貼り付いた。

巨大な顔面に比べて、悲しいほど小さく見えるブランの体。


でも地竜は胴に比べて腕が短いせいで、爪がブランまで全然届かない。

ぶうん、ぶうんと大きく首を振る。

その動きに合わせて、ヒラリヒラリとブランモモンガが宙を舞った。

そして、常に竜の顔のあたりにうまく引っ付いている。


「タ・・・タヌキ? タヌキが空飛んでる?」

スエルツ王子が情けない声を出す。

無理もない。魔物には襲われるわ、竜には遭遇するわ、白い変形タヌキが空を飛ぶわ・・・。


「なんかさっき・・・キミの名前を呼んでなかった? あのタヌキ」

「いや! それは気のせいだから!」

「それになんだかボク、あの声にすごく聞き覚えが・・・」

「だからそれは、すごく気のせいだって!」


あたしは両手と首をブンブン横に振る。

まずい! バレる? まさかこのままバレちゃう?

お願い神様、どうかブランの正体を隠してくださ・・・


「ミアン! 待ってろ! いまオレが助けてやるからなー!」


うわあぁ! ブラン! タヌキの姿のまんまで人間の言語を叫ばないでぇー!


「スエルツ王子さま! 男爵夫人! ご無事でようございました!」

「オルマさん!?」


全身のふくよかなお肉をタプタプ揺らしながら、オルマさんが駆け寄ってくるのが見えた。

よかった! 彼女も無事だったんだ!

ゾンビの集団の中、ひとりで置き去りにしちゃって心配してたんだよー!


「オルマさん! どうやってここに!?」


あたしと王子も、オルマさんに飛びつかんばかりにして駆け寄った。

ゼエゼエ息を切らし、額の汗をぬぐいながらオルマさんがようやく声を出す。


「それが・・・あの白タヌキが突然、目の前に現れたのでございます!」

そしてブランを指さし、こう続けた。


「わたくしめの姿を見るなり、『ミアンはどこだ!? 』と叫んだのでございますよ! ・・・妙に聞き覚えのある声で!」


あたしはギクッと顔を強張らせる。

さ、叫んじゃったの? タヌキの姿のままオルマさんの目の前で?


「あそこの不思議なタヌキがかい!? オルマ!」

「さようでございます王子さま!」

「げ、幻聴だったんじゃないかなぁ!? ゾンビの幻術かなんかでさ!」


あたしは必死にさり気なさを装い、ふたりの間に入ってフォローを試みる。

内心ヤバイ汗がダラダラだけど。


「いくらなんでもタヌキがしゃべるわけないって!」

「ところが今度は『気配がする! ついて来いオルマ! 』とわたくしめの名前を呼んだのでございます!」

「い゛・・・!?」


あたしの顔は、さらに強張った。

ちょっとブランてば! いくらなんでもデカミス連発しすぎ!

フォローしきれないでしょうが!


「そしてさらに、なんと今度は・・・!」

「ま、まだなんかやったのアイツは!?」

「床の大穴を見つけた途端に、ボンッという破裂音と共に・・・」

「と、共に・・・?」

「白タヌキが、白モモンガに変身したのでございますよ! 『ミアン! いま行く! 』と叫びながら!」


あぁ・・・ブラン・・・・・・。

あたしはクラッと目まいがした。


明確な答えに向かって、導いちゃってるよ。あんた自身が。

順調にバレちゃってるよ~。


「ミアン! スエルツ! オルマ!」


目まいと冷や汗に襲われるあたしの耳に、しっかりとブランの叫び声が届く。


「オレが来たからには、もう大丈夫だ安心しろー!」


できねーよ!!!


心の中で激しくツッこんだ。

どうやってこれで安心すんのよ!? これをあたしに、どうフォローしろと?

頼むからもうこれ以上、ボロを出さな・・・!


「この地竜め! オレの大事な嫁に手を出すなー!」


ああぁぁぁ・・・・・・。


ひらひら飛んでるブランの姿を、スエルツ王子とオルマさんが無言で見つめている。

その視線があたしに向かって移動した。


「・・・彼、ひょっとして・・・・・・シーロッタ・ヌゥーキー男爵?」

「・・・・・・・・・・・・」


あたしはガックリと地面にヒザをつき、力無くうなづいた・・・。


ものすごく複雑な視線を、ふたりの沈黙からヒシヒシと感じる。

聞きたいことが山ほどあるんだろう。なにをどう聞けばいいのか分からないから、聞いてこないだけで。

それに今はとにかく、それどころじゃ・・・。


「おぉい! 白タヌキ! おめえ、やめろってー!」

オジサンがピョンピョン飛び跳ねながら、ブランに向かって大声で叫んでる。


「地竜にゃ、手を出しちゃなんねえ! 土中の精霊なら、そんなん知ってっだろーがぁ!」


両手をブンブン振り回しながら必死に訴えている。その血相を変えた様子に、あたしたちは顔を見合わせた。


「オジサン、それどういうこと?」

「竜ってのは、自然の具現なんだぁ! 地竜は大地そのものだぁ!」


オジサンは飛び跳ねながら、大きな身振り手振りで叫び続ける。


「地竜に手を出すっちゅーのは、大地を攻撃してるっちゅーこった! 大地が傷付いたら、世界の生き物ぜんぶが傷付いちまう!」


大地を攻撃すれば、大地の力が弱ってしまう。

土の活動は衰え、冷えて、作物が育たなくなる。

世界すべての植物の活動が止まってしまえば、人間も他の生き物も、生きてはいけない。


「ましてや、おらたちノームやタヌキは土の精霊! 地竜に手を出すっちゅーことは、自分を傷つけることと同じだぁ!」

「そんな・・・!」

「それが土中の精の掟だ! タヌキやめろー!」

「ブ、ブラン! 聞こえてるー!?」


あたしは慌ててブランに向かって呼びかける。

そんな事情があるなんて知らなかった! ブラン、やめてー!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ