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滅亡の国

・・・・・・・・・・・・。

う・・・・・・。


「ミアン! ミアンしっかりしろ!」

「ブラ・・・ン・・・?」

「気が付いたか! ああ良かった!」


ブランが心配そうに、横たわるあたしの顔を上から見下ろしている。

体の下の湿った地面。絶え間ない波の音が聞こえる。

うぅ・・・ダルい。

身を起こそうとしたけど、体の異様な重さにヘバッて、また倒れてしまった。


「無理して急に動くな」

「ここ・・・どこ・・・?」

「どうやらマスコール王国の海岸らしい」


そうか・・・あの嵐のような潮の流れに流されて、偶然ここにたどり着いたのか。

すごい幸運。もう完全にダメだ終わったと思ったのに。

あぁ、生きてて良かった! ・・・あたしって実はけっこう強運の持ち主なのかも?


ブランに助け起こされ、なんとか上半身を起こす。

すぐそばに、オルマさんとスエルツ王子も並んで倒れていた。


「オ、オルマさん! スエルツ王子!」


叫んだ拍子に、思い切り咳き込んでしまう。

ノ、ノドが・・・焼けるようにヒリヒリする・・・。海水をしこたま飲み込んだせいだろう。まともに声が出せない。


「うぅ・・・・・・」

「ここは・・・?」


やかましく咳き込んだせいか、ふたりが次々と目を覚ました。


「ゲホッ・・・ふ、ふたり共、無事で良かったよ」

「ここは? ボクたち、どこに流れ着いたんだろう?」

「みなさま、あれをご覧ください」


オルマさんが指さす方向を見ると、大きなお城がそびえ建っている。


「ひょっとしてあれが?」

「間違いございません。マスコール王国城でございますよ」


そうか、やっぱり。結果的に目的地に到着はできたわけだ。その代償は、かなり大きかったけど。


「・・・それで、オレたちはこれからどうすりゃいいんだ?」


ブランの言葉に、みんな黙り込んでしまった。探索隊は、ほぼ壊滅。

なんとか四人の命だけは助かったけど、はっきり言ってこの悲惨な遭難状態じゃ、秘宝探索どころじゃないし。

どうすればいいんだろうか。


「あのお城へ行ってみましょう」

オルマさんがそう提案した。

「とにかく、ここに居ても始まりません。生きて帰るための手段を探さなければ」


スエルツ王子がそれに同意する。


「そうだね。海の近くの城だし、きっと船もあるはずだよ」

「じゃあ日が落ちる前に行くぞ。ミアン、立てるか?」

「うん。大丈夫」


あたしたちは立ち上がり、城へ向かってゾロゾロと歩き出した。

空を見上げると、すでに日が傾き始めている。夜になる前に着かないと。

ダルくて重い体を叱咤しつつ、できるだけ急ぎ足で進んだ。


「助かったのはボクたちだけかな?」


スエルツ王子が辛そうな顔でつぶやいた。

自分のせいで臣下を死なせてしまったと、罪の意識を感じているんだろう。


父親である王さまは、当然のような顔をして、戦争で兵士や国民を大勢死なせているのに。

セルディオ王子は父親にソックリだけど、スエルツ王子って、本当にあのふたりとは正反対の性格なんだ。


「・・・王子のせいじゃないよ。だってまさかセイレーンが現れるなんて」


そんなこと誰も想像もできないよ。魔物さえ現れなければ、無事に航海ができたはずなんだから。


「だからあんまり自分を責めないで」

「ありがとう・・・男爵夫人」

「そうだな。オレたちだけでも助かったのは奇跡的だ」

「わたくしめは、この太った丸い体が、なんと樽のようにプカプカ浮いたんでございますよ!」

「え? ほんと?」

「はい! 太っていて本当によろしゅうございました!」


オルマさんがそう言って、恰幅の良いお腹をポーンと叩く。そのおどけた様子に、みんな少し笑った。


うん、元気だそう! 元気!

あたしたち、絶対に助かるよ! 大丈夫!


海岸から離れて、城を囲む森に足を踏み入れる。高い木々が空の日差しをさえぎり、さらに薄暗い。

そうして着々と歩みを進めるうちに、あたしは妙なことに気が付いた。


「ねえ・・・なんかさ、あちこち焼けてない?」


森の木々の色々な場所が、黒く焼け焦げている。まるで火事でもあったみたいに。


「戦禍で森も焼けたんだろ? 城のすぐそばなんだし」

「だって、戦争が終わってもう二十年近く経っているんでしょ?」


さすがにそれだけ時間が経てば、焼けた部分も再生するでしょ?

でもなんかこれって、つい最近に火事でもあったような・・・。


――パキッ・・・・・・


枯れ枝を踏むような小さな音が、木々の繁みの向こうから聞こえた。全員が足を止め、顔を見合わせる。

今の音って、野生動物? ・・・野生のオオカミの群れとか!?


「シッ。静かに・・・」

ブランが音のした方をジッと見つめながら、小声でつぶやいた。

「なにかが、いる・・・」

「なにかって、やだちょっと、怖いよぉ!」


やっぱりオオカミかなんか!? まさか熊とかじゃないでしょうね!?


「なにか、変なんだ。臭いがする。動物の・・・」

「そりゃそうでしょうよ。森に住む野生動物でしょう?」

「確かに野生動物の臭いだが、それと同時に・・・」


ブランは眉をよせ、ひどく不審な表情をした。


「とても、禍々しい匂いがするんだ」


まがまがしい?


――ガササッ


少し離れた繁みから突然、大きな動物が一頭、姿を現した。

あ、馬だ。野生の馬。

そう思った。・・・・・・最初は。


でも思った次の瞬間、あたしは自分の間違いに気が付いた。

こちらをじっと見つめているその動物には・・・


頭が、みっつ、あったから。


体躯は、確かに馬だ。長いたてがみと、逞しくてしなやかな背中。

頭部も馬の顔だ。


・・・・・・頭部の、ひとつだけは。


馬の頭の隣に、オオカミの頭がくっついて並んでいる。

鋭い牙をむき出しにして、低い威嚇の唸り声を上げながら。

そして四肢は、馬のそれではなく、犬類の脚。


オオカミの頭の隣には・・・ヘビの頭が。

細い舌をチロチロとのぞかせながら、こちらを見つめている。

馬の背中から生えているのは、尻尾ではなく、ウロコに覆われたヘビの体。


馬、オオカミ、ヘビ。

みっつの異なる生物の体が、完全に融合している。

そんな『モノ』があたしたち向かってジリジリと、近づいて来ていた。


・・・・・・・・・・・・。


全員、声もなく、瞬きもせず、その不気味な生き物を見ていた。ぼうっとその場に突っ立ったままで。

誰ひとりとして、動こうともしない。完璧に思考能力が停止してしまっている。

自分が何をすればいいのか、なにをすべきなのか、まったく考えることができない。


たぶんみんな、考えているのはあたしと同じこと。

ただひとつ。

おいおいおい。セイレーンの次は・・・


『キメラ』かよ。って。


馬の頭が高らかに天を仰ぎ、いなないた。

同時にバチーン! と耳を裂くような音が鳴って、あたしは悲鳴を上げる。

目もくらむほどの眩しい閃光が周囲に走り、とっさに手の平で両目を覆った。


すぐそばの高い木が、バリンと真っ二つに割れてボォッと燃え上がる。

二度、三度、続けて馬がいななくたびに激しい音と閃光が光った。

そして木が割れ、草が真っ赤に燃える。


あたしは両耳を押さえながら口をポカンと開け、その様子を見渡す。

地を揺さぶるこの音、目に突き刺さるこの閃光。これは・・・イナズマ。


この生き物、イナズマを呼び寄せているんだ!!


パチパチと炎の燃える音。立ち上る煙。植物の焼ける臭い。

視覚と聴覚と嗅覚が刺激され、ようやく頭が働き始める。


に・・・逃げた方が良くない!? もう、明らかに、その方が良くない!?

このままじゃ炎に巻かれてしまう! それにイナズマに直撃されたら黒焦げに・・・!


「みんな、バラバラに散って逃げるぞ」


あたしはハッとして、隣のブランを見上げた。

バラバラって、ひとりで逃げろってこと? そんなの嫌だよ!


「固まっていると狙われる。散った方がいいんだ」

「そんなの嫌だ! ひとりなんて怖いよ!」


ブランはあたしの耳に唇を寄せ、小声でささやく。

「大丈夫だ。おそらくコイツは、オレのケモノの臭いに惹かれてオレを追ってくる」


そんな・・・! ブラン、自分がおとりになるつもり!? だったらますますバラバラなんて嫌だ!


「王子やオルマに見られていると、変化魔法が使えない。オレはいいから逃げるんだ」


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