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山の中は、うっそうとしていた。

日差しを遮る、頭上遥かな大木の密生。腰の高さまで生い茂り、あたしの歩みを邪魔する野草。

上下左右、見渡す限りの緑一色。


山の入り口あたりは、まだ楽に通れるような道もあった。けど奥に進むにつれて、道幅がどんどん狭くなっていく。

これ、けもの道ってやつだわ。山のけものが何度も通るうちに、道のようになった箇所。

人間が通る道だと思って進んでいくと、大変なことになるって聞いた。

進むうちに、いつの間にか道は消え、山奥に迷い込んだまま二度と生きては戻れない。


怖いな。これ以上は先へ進まない方がいいかしら。でも奥まで隠れないと、バカだんなの追手が来るかもしれない。

あいつネチッこい性格してるんだもの。粘ついた目やにみたいに。


ロリ変態で、おまけに粘ついた目やに、か・・・。

おまけにヒステリー持ちで、贅沢好きな、わがまま夫人。

うわ、ほんと最低。どこまでも救いようのない組み合わせ。あんなのが屋敷の当主夫婦になったりしたら、ここいら全域、無法地帯になるわ。


大奥様が、根性を振り絞って長生きしてるのって、世のため人のためなのかも。

ごめんなさい、大奥様。命根性の汚い年寄りだなぁって思ってて。

意地でも、カメリア王国の長寿記録を塗り替えていってくださいね。お願い。


息を切らし、足早に奥へ奥へと進む。おでこに滲む汗を、風が少しだけ冷やしてくれた。

山の日暮れは早い。どこか一晩過ごせるような場所を見つけなきゃ。


・・・・・・

なんでこんなことになってしまったんだろう。なにかバチ当たるようなこと、したのかしら?

自分で言うのもなんだけど、わりと謙虚に、つつまし~く生きてたつもりよ?

文句も言わず、境遇にも負けず、雨にも負けず、風ニモマケズ。


つつましくって言うより、もういっそ、ビンボったらしく。ビンボったらしいって言うより・・・

そうよ! いっそみじめったらしく!


・・・なによ!

やっぱりバチが当たる要素なんか、あたしの人生において、一片もないじゃないの!

あぁ、なんか考えたら、どんっどんムカっ腹がたってきた!


ただでさえ悲惨な人生に、さらに濃い味付けなんてあんまりよ! 神様って趣味が悪いわ!

バチ当てるべき相手をミスったんじゃないの!? そうとしか思えない! ミスられたあたしの立場と人生はどうなるの!? 責任とってくれるんでしょうね!?


「いったいあたしが何したっつーのよ!! えぇっ!?」


天を見上げ、神様に思いっきり悪態をついた。

すると、空を睨み付けるあたしの視界に、なにかの大きな物体が飛び込んでくる。

・・・ん? あれは何?  なにかが空中に浮かんで・・・?


・・・と、考えるヒマすらなかった。その、なにかの大きな物体は・・・


あたし目掛けて空から、一気に落下してきた!

――ドサバサドサァッ!


「きゃああぁぁっ!?」

あたしはその大きな物体に、全身を包み込まれてしまった。うわっ!? 何これなに!?


とにかくもう、ビックリするやら怖いやら。悲鳴を上げながら、必死に両手両足をジタバタさせた。

すると、ますます全身に絡みつき、身動きがとれなくなっていく。


な、なんなのよこれ! これっていったい・・・!

・・・あ、あ、れ・・・? これって・・・


植物の、ツタ?


落ち着いてよく見ると、あたしの全身を包み込んでいるのは植物のツタ。何重にも縒り合されて、しっかりと太く頑丈につくられたツタのひも。

そのひもが、細かい網目に編み込まれている。これって、動物を捕獲するための仕掛けワナのアミじゃないの!

そう知って、ふと思い当った。

あぁそっか。ここって『タヌキ山』だったんだわ。


そう。このカメリア王国には、なんと・・・・・・


タヌキが生息している。


いや、「タヌキがいるのよ、すごいでしょ」って自慢するのも変かもしれないけど。

この山のタヌキは、ちょっと違う。そんじょそこらのタヌキとはワケが違うの。

ここのタヌキの毛皮は、んもう素晴らしく上等なのだ。その輝きの美しさと、手触りの極上感は他に比べ物がないほど。まさに至高の一品!

しかも、肉がまた美味いのよ~! 最高級の珍味!


あたしは一度も食べたことないけどね。

毛皮も肉も奴隷には生涯、手にするなんて叶わないお値段だから。


とにかく、この山のタヌキに限っては、我が国ご自慢の生物。

毛皮も肉も、すっごい高値で取り引きされるから、ここはタヌキ狩りが盛んだ。


じゃあ、あたしタヌキ狩りのワナに引っかかったってわけ?

・・・・・・うわあぁ~~・・・最っ悪。


ワナの中でガックリとため息をつく。

人間の身で、タヌキ狩りのワナに引っかかりましたってのも、十分に情けないけど。

ワナが仕掛けられてるってことは、成果を確認する人間が、そのうち現れるっことだ。

見つかったら、もうおしまい。この格好じゃ、逃亡奴隷だってのはすぐにバレる。


・・・なんか、どんどん状況が悪化してる気がするんだけど。あたしの人生、どうなってるの? ドツボじゃないの。

とにかく、一刻も早くワナから抜け出して逃げないと!


あたしは気を取り直して、再びジタバタし始めた。

でも、敵もさるもの。もがけばもがくほど全身に絡まって、抜け出せなくなっていく。

いやあ、良く出来てるもんなのねぇ、ワナって。


・・・って感心してる場合じゃない! いつ見つかってしまうか分からないんだから!


うおおぉ、こ、ここを持ち上げて、これを引っ張ってぇ。そして、ここを通して、こう、頭を通せば・・・・・・


・・・さらに、絡まってしまった・・・・・・。


ああ! 努力すれば努力するほど、自分の首を絞めていく!

神様! さっきの暴言は急いで撤回します! だからどうか、哀れな奴隷をそのミラクルパワーでお救いくださ・・・。


――ガサガサ・・・


突然小さな音がして、あたしはギクリと身を震わせる。

草を踏む足音? もう誰かが来てしまったの!? うわあ! 謝罪が間に合わなかった!? 

神様ごめんなさい! いま! いま謝罪がちゃんと届きますって! だからどうかあたしの命を助けてください!


死にもの狂いでアセッて暴れまくった。そうしている間にも、足音はどんどん近づいてくる。

いやだ! 捕まりたくない! バカだんなの生贄になりたくない! いやだいやだ! お願いだから助けて!

助けて助けて助けてたすけ・・・!


――ガサッ!


すぐ目の前の草が、ついに踏み分けられてしまった。

背中に冷や汗がドッと浮いた。

黒い何かが見えて、あたしはギュッと両目を閉じる。あぁ・・・見つかってしまった。

もう、ダメ。もうおしまいだ・・・・・・。


・・・

・・・・・・


・・・・・・ん?


なんの反応も、ない?


さぞかし、タヌキのワナにかかったバカな娘がいる!って騒がれると思ったのに。

あたしの耳には何も聞こえてこない。どうしたのかしら? 呆れすぎて声も出ない?

もしかして、あたしの姿が見えないとか? いやまさかね?


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