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それぞれの事情と思惑

――ピーーーーン・・・。

と空気が、音をたてて冷たく一気に張りつめた。


・・・・・・言った。確かに言った。空耳じゃない。

このお姫様、正々堂々と王様に向かってタンカ切ったよ!

ひええぇッ!? どーなるこれから!?


「・・・いま、何と申した?」


えらく気まずい雰囲気に静まり返ってしまった会場内に、王様の低い声が良く通る。

その声が、妙に冷静なのがまた・・・。余計に緊張感を盛り上げて、場の空気をマズくしてくれる。


でも姫はそんな空気をものともせず、ケロッと返答した。


「わたくしは申し上げました。国で『一番価値のある宝石』を身に着ける習わしだと」

「だから、この城には無いと・・・」

「でも秘宝はこの国の所有物です。わたくし、二番目を身に着けるなんて嫌です」

「・・・・・・・・・・・・」

「それとも竜神王の目よりも貴重な宝石があるとでも仰るのですか? この国に」


王様はその言葉にむっつり黙り込んでしまった。

無いさ。そりゃ正直に言えば、無いさ。

そんなすごい秘宝なんてこの国は、ひとつも持ってないさ。


でも、でもね、アザレア姫?

あなた、一国の王の「男のプライド」みたいなのを立派に傷つけてるんですけど?

この国に大した宝石なんて無いんでしょ? ふふんっ、的な。


事実ってね、本当であればあるほど、突かれると痛いもんなのよ。

まさに今のは、そこをズバッと貫くヒットポイントな発言なんですけど?


・・・それ、あなた十分に自覚して、あえて引き金引いてない? 王様の導火線に、望んで火を点けようとしていない?


「姫よ、わがままを言うものではない」

王様が抑え込んだような声を出して、「不快」の意思表示をした。

どっこい、姫は余裕でそれを受け止める。


「まあ! 陛下はわが祖国の伝統ある習わしを、ただのわがままと仰るのですか!?」

「そんなことを言っているのではないっ」

「いいえ! はっきりと仰いました! あぁ、アザレアは深く深く傷つきましたわぁぁ!」


そう叫ぶなり姫は、扇でバッと顔を覆ってシクシク泣き声を出し始めた。


・・・ロコツにウソ泣き。姫、絶好調。

このお姫様、ほんとに大したツラの皮だわ。この根性を見込んで、実は刺客として送り込まれたんじゃないの?


王様の気分がどんどん悪化してるのが分かる。まぶたがピクついてる。赤く染まる顔。血圧急上昇中。

かなり、ヤバい。

姫さまがもし本当に刺客として送り込まれたんなら、確かにいい仕事してるけど・・・。


その勝負、まったぁ!


あたしは青い顔して、アワアワとふたりの顔を見比べた。

王様の気分を害したら「下賜やめた!」ってことになりかねないよ!

姫の攻撃って威力がありすぎ! 勢い余ってコッチまで攻撃してる!

姫、姫! お願いだから!

王の導火線に点いた火をパタパタあおいで盛り上げようとすんの、やめてぇーー!!


ひざまずいてるあたしの隣に立ってるスエルツ王子の姿が、ふと目に入った。

あたしに負けず劣らず青い顔して、事の成り行きを見守っている王子の足を、バシバシ引っ叩いた。

え? とこっちを向く王子に、必死に口パクで意思を伝達する。


ちょっとあんた! なにのんきにバトル観戦してんのよ!?

王vs姫なんてハイレベルな戦いを阻止できるのは、王子のあんただけなんだから!

立派に防衛して、ここで男を上げなさい!


「ひ、姫落ち着いて。わがまま言っちゃダメだよ」

王子は慌てて、懸命に姫をなだめようと試みる。

姫は扇の端から片目だけでジロリと王子を睨み付けた。


「王子様は、わたくしが侮辱されても平気なのですね?」

「ぶ、侮辱って、そんな・・・」


どっちかっつーと、侮辱してるの姫の方なんですが。

という、しごく当然な反論なんて通用するハズもなく。


「王子様は、わたくしとの大切な婚儀を、おざなりにされても構わないのですね?」

「おざなりだなんて・・・」

「つまりは、祖国を代表するこのわたくしを、おざなりになさると、そーゆーことなんですね!?」


うわあぁ、強引に自分を被害者の立場にもってきた! ここまで自己中心的な三段論法、聞いたことない。


王子! ちょっと王子ってばしっかりしなさいよ!

このままいったらヘタすりゃ婚約破棄よ!? まんまと姫の思うツボ!

そしたら下賜どころの話じゃなくなっちゃう!

ここで勝負に出なくてどうすんの!? ほら行けっ王子!


「そ、そんなことないよ! ボクは姫を絶対におざなりになんてしないと誓うよ!」


よおーし! 行った!


両手でこぶしを握り、声を裏返しながら懸命に力説する王子。

扇越しのアザレア姫の目が、ねめつけるように王子を見る。


「本当に誓いますか?」

「もちろん!」

「わたくしにそれを証明してくださいますね?」

「もちろん!」


姫の目が、キランっと光った。


「では竜神王の目を見事、手に入れてきてください。その証明が果たされるまでは婚儀は無しです」


・・・カウンター返ってきたあぁーー!!


「もちろんだとも! 姫!!」


・・・乗せられたあぁーーーー!!


この王子、まんまとハメられたぁぁー!!


「よかろう! スエルツよ、姫の思い通りになって竜神王の目を手に入れてくるがよいわっ!!」


まぶたばかりか、頬までビクビク痙攣させながら王が叫ぶ。

真っ赤な顔で勢いよく立ち上がった王に向かい、王子が元気に返答した。


「はい! 父上ありがとう! ボク頑張りますから!!」


応援してもらってるわけじゃないわよ、バカ王子っ! なに勘違いして喜んでんのよ!


どこまでも明るい息子のバカッぷりにトドメを刺された王様は、もう、憤まんやるかたない。

ドスドスと足音も荒く、事態の急転に硬直している貴族たちを無視して会場から出ていってしまった。


白けた顔でツンと横を向いているアザレア姫。ただひとり上機嫌なスエルツ王子。

あたしはヘタンと腰を抜かして、王様の後ろ姿を見送った。


あぁ・・・去っていく・・・。最後の希望が去っていく・・・。

あたしの、たったひとつの生き残る希望が・・・。


だらしなく開いた口からは、言葉も声も忘れてしまったように空気しか出てこない。

ただひとつの事だけが頭の中を支配している。


終わった。 これで終わってしまう。こんなに一生懸命に頑張ったのに叶えられなかった。

本当に? 本当にもう、あたしの人生はここで・・・


終わり?


あたしはそれを、受け入れるの・・・?


・・・・・・・・・・・・。


いや・・・まだだ。


開いた口を、パクッと閉じる。

歯をぎゅうぅっ! っと力いっぱい噛みしめた。


まだ諦めない。まだ受け入れない。

望んだ願いは、確かについさっきまで、この指先に引っ掛かっていたんだ。

だったら、もうちょっと手を伸ばせば手に入るかもしれないじゃないか!


あたしは腹と両足に力を込めて立ち上がった。


王様に直談判する! 下賜を授ける約束をちゃんと果たしてくださいって頼むんだ!

ひょっとしたら不敬罪で捕まっちゃうかもしれないけど・・・。

それでもこのまま諦めたりするもんか!


決死の覚悟で、あたしは王様の後を追って走り出した。


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