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「やめてください! バカ・・・いえ若だんな様!」
「ミアン、ミアン・・・」
「だから、やめてくださいってば!」
「あぁ、若い肌・・・」
「ちょっと聞いてんの!? ・・・って、うわ! なにしてんのよ!?」
全然聞く耳持たないバカだんなの手が、奴隷服の裾をたくし上げていく。あたしの両足がどんどん露わになっていって、さすがに本気で恐怖感が湧いてきた。
汗で湿った両手で、必死にバカだんなの背中の生地を引っ張り上げる。
「こら離れろロリ!」
「心配ない。大丈夫だ」
「大丈夫なわけないでしょ! この状況で!」
あんたはホントにバカか!?
頼むから頑張って理性を取り戻してよ! あるでしょ一応! ほんのちょっとでも理性が!
「ハァハァ・・・誰にも黙っていたら、これからはお前にもいい思いをさせてやるぞ」
・・・・・・無い! こいつに理性なんてカケラも無い!
良心と知性と一緒に、母親のお腹の中に捨ててきやがったな!?
ジタバタと両手両足を駆使して抵抗するあたし。でも変態のパワーも侮れない。あたしの必死の抵抗を巧みに封じ込める。
・・・恐るべし変態!
頭をブンブン左右に振って懸命にバカだんなの唇を避けた。嫌! 嫌! 嫌!
だんなの唾液で頬が濡れて、全身が総毛立つ。
「抵抗したって無駄だ。どうせお前は俺の奴隷なんだから」
その言葉にあたしの心はビクッと震えた。
そうだ。あたしはどうせ奴隷なんだ。なんの権利もない奴隷。所有者の命令に逆らうことなんか許されない人間。それが・・・あたしという存在。
力が抜けた。
抵抗が弱まったとたん、チャンスとばかりに若だんなの目が再びギラつく。そしてあたしの体に覆い被さったまま、自分の服を大急ぎで脱ぎ始めた。
あたしは奴隷。それがあたしの運命。これは決められていた事。
ここで、この男に穢されてしまうことも、誰も助けてなんかくれないことも。
これは・・・決められていたことなのよ・・・。
涙がにじんだ。
諦めと、悲しさと、寂しさと。そして悔しさと、苦しさとの、全部が混じった涙が。
太ももの付け根まで露わにされたあたしの足を、だんなが抱え上げた。
涙に濡れた視界の中に自分の白い足が見える。あたしの両足の間で、若だんながズボンを下ろしている。
そして涙でにじんだ目に見える、あれは・・・
あれは・・・?
・・・・・・
・・・!?
バカだんなの、ペロンと剥き出しになった・・・お、お尻いぃ~~~っ!!?
ぎゃああぁぁっ! 気っっ色悪いぃ~~っ!!
「ヘンなもの見せないでよ! ロリ変態ー!!」
――ガスウッ!!
あたしは絶叫して、気が付けば思いっきりバカだんなの頬を殴り飛ばしていた。
バカの体が横っ飛びにぶっ倒れる。
あ・・・・・・
あれ? なんだっけ。なにが起こった?
あたしはキョトンとして、横に引っくり返って目を回しているバカ旦那を見た。これって・・・あたしがやったの?
しばらくして、やっと我に返った。バカだんなを殴り飛ばした自分の拳を、まじまじと見る。
はぁ、どうやら毎日の水汲み作業が腕力を鍛えたみたいね。知らないうちに強烈な破壊力が宿っていたみたい。
まさに黄金の右腕だわ。こればっかりは奥様に感謝だ。
そしてジンジンする右手をブラブラ振る。
痛~。関節が、ものっすご痛い~。この分じゃ、バカだんなの頬も相当なダメージ受けてるわね。
同情する気はまったく無いけど。
しかし、このロリが目が覚めたら面倒なことに・・・。
面倒、な、ことに・・・。
・・・・・・!
そうよ! 本当に面倒なことになる! このままじゃあたし、バカだんなの生贄だわ!
怒り狂った変態が何をしようとするか、もう今後の展開は分かり切ってる! 目に見えてる!
すぐに逃げなきゃ!
でも、チラリと頭の片隅に「どうしよう」って考えが浮かんだ。
奴隷の逃亡は重罪だ。捕まればただでは済まない。主人には、罪を犯した奴隷を処刑する権利だって与えられている。
逃げたところで、どこへ行く? どこにもあては無いし、その先どうするの?
じゃあ・・・
あたしはこのまま、変態の餌食になるのを選ぶ?
・・・・・・・・・・・・。
ためらいは、ほんの一瞬だった。あたしは勢いよく立ち上がり、扉へ向かって一目散に駆け出した。
冗談じゃないっての! だれが、こんなバカだんなになんか!
いくらあたしが奴隷だからって、そこまで自分の人生を放棄する気は、無い!
ここは普通に拒否していいところでしょう!?
不条理な法がまかり通る、非情な世間。誰も守ってくれないなら、自分で自分を守るしかない!
逃げる! 逃げ切ってみせる!
あたしは扉を抜け、小屋から勢いよく飛び出した。家畜が放牧されている草原に向かい、必死に駆け込む。のんきに草を食べてる牛や羊を横目で眺め、ひたすら走った。
ねぇあんたたち、ここでそんなノンビリしていてもいいの?
今は良くても、いずれは食肉として売られてしまうのよ?
それを自分の運命だと、黙って受け入れるつもりなの?
草を踏み散らし、あたしは全力で駆けていく。
急げ急げ! 走れーーー!!
疾走する足に絡まる、奴隷服の裾。振り返ると、住み慣れた屋敷がどんどん小さくなっていく。
あたしは前を向き、全速で走った。走り続けた。
捕まるわけにはいかない。人に見られちゃダメだ。ひと気の・・・ひと気の無いところへ・・・!
あたしの足は、町とは反対方向の山へと向かっていた・・・。