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得意満面なその様子から見て、本当に全く気が付いてないみたい。

気付いてない、よね? ないよね?

うん。ないわこりゃ。


・・・・・・良かったー! 助かったーー!


あたしは一息ついて胸をなで下ろす。ハァッと肩から力が抜けた。

生きた心地がしなかったよ。

バカだんながバカでいてくれて、本当にどうもありがとう! って感じだ。

元々、女の内面というものに対して、ぜんっぜん関心のない人だったからなぁ。

見るのは胸の谷間くらいのもんだったし。

この見かけや、男爵夫人の偽名に完全に騙されてるのねぇ。


そう考えながらつくづくと、バカだんなの顔を眺めた。


すっかりもう勝った気でいる。軍人や貴族じゃなくて、女と当ったのが相当嬉しいんだろう。

とにかく臆病な男だから、ケガを恐れて今まで剣に触りもしなかったくらいだもん。

よく参加したもんだわね。きっと奥様に背中どつかれたんだろうなぁ。


あたしの人生初の決闘の相手が、諸悪のバカだんなかぁ。これも因縁ね。

この、ろくに剣も扱えない弱虫な、しかもこの前あたしがこの手で・・・


・・・・・・・・・


この手で、殴り倒して・・・

思い切りブチ倒して、完勝した相手・・・・・・?


・・・・・・


・・・・・・


よ・・・・・・


よおっしゃあああーーーーー!!!


勝てるぅぅぅーーーーーーー!!!


全身に、輝く希望の力と激烈に燃え上がる戦闘意欲が湧いてきたあーー!!


「では・・・始めっ!」


立会人役の王子が、サッと右腕を高々と上げた。

貴族たちの興味本位丸出しの目が輝き、食い入るように見つめている。

バカだんなが自己陶酔しながらフフンッと鼻から息を漏らした。


「いざ、まいりますぞ。覚悟なされよ男爵夫・・・」

「どぉりゃあああぁぁーーーーーっ!!」


あたしは即座に短剣を放り投げた。

勇ましい掛け声と共にドレスの裾をヒザまでたくし上げ、バカだんな目掛けてドドドッと突っ走る。

え? という表情で動きを止めるバカだんな。


先手必勝! 速攻ーーー!


あっという間にふたりの距離が詰まった。

右拳を思い切り引いた態勢で、飛び込むようにして大きく左足を一歩踏み込む。

胸と肩の筋肉が収縮してパワーが拳に集中した。


キョトンとした顔は、いま、目前。

その両の瞳に、形相を変えたあたしの顔が映り込む。


(なにもかも、なにもかも・・・なにもかもなにもかも、全部全部・・・)


怒りと恨みの、黄金の右が唸りを上げる。

全身のバネを使い体重を乗せた渾身の拳が振り下ろされる。

クキリと音が聞こえそうなほど反った腰が、反動をつけてブウンと回された。


うおおぉぉぉーーーっ・・・!


「全っ部あんたのせいよーーーっ!!!」


―― ドッゴォォォ・・・ッ!!


クリーンヒットを受けた顔面が醜く歪んだ。


・・・・・・決まった! 会心の一撃!


バカだんなの体が、小気味良い音を立てて勢いよく床に倒れ込んだ。

白目を剥き、引っくり返った体はそのままピクリとも動かない。どうやらまた気を失ったらしい。



室内は静まり返っている。

貴族たちは全員、唖然茫然。

王様も、王子も、姫も、目を丸くして身動きもできない。


全員が息をするのも忘れた様子で、この意外性に満ちた結末を見守っている。


ポカンと口を開いていた王子が、ハッと我に返った。

そしてようやく、音程のズレた声を張り上げる。


「し・・・勝者! シーロッタ・ヌゥーキー男爵夫人!!」


・・・っしゃあああーーーー!!


あたしはグイッと右腕を力強く天に向けて掲げた。


最っ高にサッッパリしたあぁぁーー!!



―― パチ・・・パチ・・・


しんとした室内に、小さな拍手が響いた。


―― パチパチ、パチ・・・


最初の音につられるように、拍手は室内のあちこちから響き始める。

やがて、我に返った貴族たち全員が歓喜して手を打ち鳴らし出した。あっという間に怒涛の拍手と歓声の渦になる。


「お見事! シーロッタ・ヌゥーキー男爵夫人!」

「素晴らしい勝利ですわ!」

「あなたこそが下賜をたまわるに相応しい! 文句のつけようがない!」

「まったくその通り!」


王様が満足そうな顔で、貴族たちの声に何度もうなづいている。

あたしは、キョロキョロとその状況を見回した。下賜にふさわしい? あたしが?


ひょっとして・・・権利勝ち取っちゃった? この一回の勝利で、オールクリア?


あたしの快挙を称える歓声の中、信じられない気持ちで頬に手を当て、うろたえる。

ほ、ほんとに? 本当にあたしが手に入れたの?

下賜を受ける権利はあたしのもの? この盛り上がりを信じていいの?


「男爵夫人よ、ここへ」


ぼーっとしていると声をかけられた。見ると王様があたしに向け、手を伸ばしている。

国王が、確かにあたしを見ている・・・。


本当だ。夢じゃない。本当にあたしが手に入れたんだ。

奴隷身分から解放される権利を・・・。


呼ばれるままに、ふわつく頭と足取りで前に進む。

夢見心地で国王の御前にひざまずいた。そして頭を深く下げる。

王様の堂々とした声が聞こえてきた。


「余の良き忠臣である男爵夫人よ。そなたを称え、下賜を与えるものとする」


間違いなく、その言葉があたしの耳にしっかり届いた。

じわじわと実感と喜びが湧いてくる。


やった・・・ついに、ついに・・・・・・


「さあ何なりと申してみよ。そなたの真の望みを」


・・・・・・!


その王の言葉があたしの胸を突き、表情を強張らせた。

あたしは息を詰まらせ、耳に聞こえたその言葉を心の中で反復する。


あたしの・・・真の願い・・・?


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