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勇者がいない央都では…

超お久しぶりの方のお話です。

今回は勇者目線ではなく、第三者目線です。


…本当はもっと伏線を張っておきたかったんですが…。

もう少しプロットをしっかり考えとかんとねー…。



央都、その中心たるスターリングシルバー城の一室に、二人の男とその彼らの前にひざまづく一人の女の姿があった。

部屋は窓ひとつ無く、魔道具の明りが薄暗く室内を照らしている。


部屋にいる二人の内、ひとりは略式の王座に座る央国盟主王、ラウンバそのひとである。

そして彼の脇に立つもうひとりは、央国宰相のゴンゴースであった。


此度(こたび)の潜入査察、大義であった。」


勿体(もったい)なき御言葉、(おそ)れ多うございます。」


央国盟主王(ラウンバ)の前にて、片膝(かたひざ)をつき(こうべ)を垂れているのはダークエルフの女性だ。

それからダークエルフの女性は、その細い指にはめていた指輪外す。


「…それでは、これにてお預りしておりました、宝具、"寄生木(やどりぎ)の指輪"をお返しいたします。」


「うむ、ゴンゴース。」


「は。」


宰相(ゴンゴース)が前に出て、彼女から指輪を受け取る。

ゴンゴースに渡された指輪は、見た目は何の装飾もされていないただの銀の指輪に見えた。


だがこの指輪は、恐るべき能力を持っていた。


"寄生木(やどりぎ)の指輪"


恐れられる理由、それはこの宝具が、『人の精神(こころ)に作用する』という能力だからだ。


この"寄生木の指輪"の能力は、『対象者は指輪の所有者への認識を、身近な者へとすり替えられる』というもの。


あたかも樹木に半寄生する寄生木の(ごと)く、赤の他人がいつの間にか極めて近しい隣人の顔をして、(おのれ)の周りで生活をしそれに誰も気付かないのだ。


時には他人に話をするようなことの無い秘密まで、平気で(しゃべ)ってしまう…。

それが為政者などともなれば、どれだけ危険な事かは言うまでもないだろう。


この指輪は、央国に伝わる秘宝のひとつであり強力な魔道具である。


中央政府である五央国が『この指輪を持っている』という事実だけで、臣下の領主達に対し悪事や時には反抗の気勢を削ぐことが出来る。

『お前達が悪事を働こうとしても、気付かぬ内に全てバレているぞ』─という訳である。


しかしだからこそ、この魔道具の使用には厳格な規制(ルール)がなされていた。


その規制とは─

ひとつ、この魔道具を宝物庫から持ち出すことが出来るのは盟主王のみである。


ひとつ、使用に際しては盟主王以外に五王国の王、二人以上の認可が無くてはならない。


ひとつ、王族には使ってはならない。


ひとつ、使用後1年以内に宝物庫に戻さねばならない。


ひとつ、使用後5年以内に認可した以外の五王にも、詳細を伝えねばならない。


この様に、五央国共通の秘宝は、使用に際し盟主王ですら軽々しく扱えない、極めて厳しい制約がなされているものばかりなのだ。

あまりに強すぎる能力ゆえ、乱用を恐れた過去の五王家が定めた法である。


「…にしても、そなたがパーミルに潜入しておった時に、かの者と出会えたのは僥倖(ぎょうこう)であったな。」


「はい、お陰で彼の為人(ひととなり)、そしてかの"アルカナマスター"という稀有(けう)なる職業(クラス)の概要をいち早く把握(はあく)できました。」


「うむ、まかり間違って、パデルボルンやゴーテス侯の言う通り強引に勧誘しようとしておったら、どうなっておったことやら…。

のう、ゴンゴース?」


「はい、陛下。

その様な強引な手段にでれば、彼の性格からして(すみ)やかに我らの元から離れてしまっていたでしょう。

一歩間違えば、彼と敵対していた可能性もありました。

─貴女の報告が、結論を出す前にもたらされたお陰です。」


「いえ、私は与えられた職務を(まっと)うしようとしたまでです。

…ただ報告を急ぐあまり、パーミルから離れるのが早すぎたと悔やんでおります。

もう少しパーミルにいれば、彼の能力をもっと子細に調べられたかもしれません…。」


「…ふむ、確かにそうかもしれぬが、そなたが離れた後、かの(パーミル)が例の"聖域化"していったのは知っておるだろう?

彼に指輪の(ちから)を使わなかったとはいえ、あのままパーミルにそなたが留まっていればどうなっていたか判らぬ。」


「そうでございますな。

指輪には、使用者が力を使う対象に悪意を持つと効果が消える、という制約があります。

その為、貴女はパーミルの関係者に悪意は持っていなかったでしょうが、それであっても指輪の擬装の力が聖なる力によって破られ、貴女の正体が(あば)かれる危険性はありました。

ですので偶然とはいえ、貴女が退いたのは最良の頃合いだったと言えます。」


「はい…。」


ダークエルフの女性は、ラウンバ王とゴンゴースのフォローに一応頷(うなづ)くが、いまひとつ釈然(しゃくぜん)としない顔をしている


「どうした?

今、言うた通り、そなたの働きは充分である。

これ以上の成果を求めるのは、いささか欲張りというものだぞ?」


ラウンバ王の言葉に、ダークエルフの女性は慌てて頭を下げ直す。


「い、いえ!

失礼致しました!

尊王陛下の(おっしゃ)られます通り、私めの責務に関しましてはさほど心残りがある訳ではないのです。

…ただ…。」


「ただ、どうしたのだ?

よい、申してみよ。」


「…はい。

ただパーミルの方々や、かのお方─勇者様方達には大変よくして頂きました。

特にセレアル姫殿下には、色々とお気遣いを頂き…。

その…、公務での査察とはいえ、指輪の力で(あざむ)いていた事がいささか心苦しく感じております。

どこかで謝罪の機会を頂きたく…。」


「そうでしたか…。

ですが、それこそ貴女が気にやむ必要はありませんよ?

これは私達が貴女に命じて、貴女はその責務を忠実に果たしただけなのですから。」


「うむ、ゴンゴースの言う通りであるぞ?

()いてあげるならば、彼らへの謝罪は(わし)らが考えねばならぬ案件といえよう。」


「…は。

差し出がましい事を申してしまいました、お許し下さい。」


ダークエルフの女性は、そう言うや再び顔を伏せた。

しかし、伏せた顔がいまひとつ納得していない表情をしているのを、宰相ゴンゴースは確信していた。


彼女はこういった、あまり表に出せない政治の裏側部分で働く部隊、通称"尊王の影"と呼ばれる集団のひとりである。

そしてゴンゴースが、一番信頼する直属の配下のひとりであった。


ゴンゴースやラウンバ王との付き合いも古く、彼女が生真面目(きまじめ)な性格をしているのもよく解っていたので、央国宰相は心の中で苦笑を浮かべていた。


─やれやれ、あれは頭では納得しているが、心では得心(とくしん)出来ていないといったところですかね。


寄生木の指輪を持たせた潜入査察は、根が正直な彼女には向かない仕事ではあったかもしれません。

まあしかしその様な性根であるからこそ、指輪を使った潜入査察に適しているとも言えるのですが…。


なによりそのお陰で、パーミル辺境伯に『叛意(はんい)無し』という事も判りました。

…あの御仁はなかなかの曲者(くせもの)で、なかなか本意をさらさない方ですからねー。


パーミル公は、その昔、辺境の勇と呼ばれるゴラル伯に近付き、飛竜乗(ワイバーンライダー)りを公爵家としては異例の数を(そろ)え始めた。

それに対し王家や侯爵家から、パーミル公爵を危険視する声があがっていたのだ。


─あんな貴族典範法の抜け穴を突くような軍拡を推し進めれば、謀反(むほん)を疑う声も上がってくるというものです。


…ですが今なら理解が出来ます。


おそらくパーミル辺境伯は、当時からパデルボルンを警戒していたのでしょう。

結果から見れば、パーミルよりパデルボルンの方が、余程、危険な存在であった訳です。

いやはや、かの御仁(ごじん)の先見性…私などより余程、央国宰相に相応しいですよ…。


その様な、やや後ろ向きな思考で考えを締めくくりしつつ、ゴンゴースは誰にも気付かれない小さなため息をついた。

だがすぐに頭を切り替え、目の前の旧知の部下であるダークエルフの女性に新たな命を下す。


「─では新たに、調査に向かってもらいたいところがあります。」


「すまんな。

帰還して早々で申し訳ないが、そう悠長にしてられなくなったわ。」


「は!ご命令のままに!

─調査というのは、やはり()の地でございますか?」


「うむ、かなりキナ臭くなってきおった。

ともすれば、戦仕度(いくさじたく)をせねばならんかもしれん。」


「…そこまで…!」


「まったく!

まさか(わし)の代で、(いくさ)なぞ起こしたくはないがの!」


「貴女には、その見極めを頼みたいのです。

今回は土地にあかるい『協力者』がいます。

貴女と同じダークエルフなので、潜入は容易いと思いますが…。」


「かなり危険な仕事となるであろう。

たがこれは他の者には任せられぬ。

…くれぐれも命を粗末(そまつ)にするなよ?」


「はっ!

主命、(うけたまわ)りました!」


そうラウンバ王の言葉に、すっくと立ち上り隙のない礼をとったダークエルフの女性は、退出しようと(きびす)を返す。

その彼女の背中に、ゴンゴースがひとこと言葉を投げ掛けた。


「…ああ、これは私の予感なのですが。

()の者達─勇者殿やセレアル殿下には、向こうで出会える気がします。

あくまで予感ですけどね。

その際は貴女の好きなように接しなさい。」


「はい、…ありがとうございます…。」


ゴンゴースの言葉に、振り返らず小さく礼を言ってダークエルフの女性は出て行った。


イスファーラ・アムド・ラジャスタナード


これがダークエルフの女性の名前である。

数年前よりパーミル公爵家に潜入し、セレアル姫の側近になりすまし、公爵家の内情を探っていた。


そしてついひと月ほど前、忽然(こつぜん)とパーミルに現れた、"勇者"と呼ばれる青年の重要性に彼女はいち早く気付いた。

そこで本来であれば、あと1年はパーミルを内偵するはずを切り上げ、央都に帰ってきたのだ。


その結果として、いち時は勇者を拉致同然にパーミルから引き離す、という乱暴な考えになっていた五央国政府の暴挙をくい止める事ができた。


勇者と呼ばれる青年は暢気(のんき)に央都でのラウンバ王達との関係を楽しんでいたが、彼の預かり知らない所で、彼に対する扱い方は大きく変化していたのだ。


そして(はか)らずしも勇者を救うことになったイスファーラ。

これ以降、彼との(えにし)が、また強くなっていくことを彼女自身、まだ知らないでいた…。

という訳で、超久しぶりのダークエルフお姉さんの登場です。

またしばらく出てきませんが、そのうちまた出てくる予定です。

そのための伏線?です。


いつも読んで頂いてありがとうございます!


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