お迎えに帰郷~その途中
「えっ?!ウフィールがっ?」
「おう、ジョシュアから昨日、連絡があった。」
そう言うのは、パーミル公爵…じゃないパーミル辺境伯の懐刀1号こと、ジェファーソンのおっさんだ。
昨日、つーかもう今日の未明だな。
【大王の迷宮】からのドロップアイテム鑑定を終え、そのまま自分達の部屋に戻ってくると、俺やミール、キエラはそのままバタンキュー。
で先程、ヤットコサ起きてきて遅めの朝食を摂っているところに、おっさんがやって来た、という次第です。
「うん、無理もないよね。
まだ幼いんだもの。」
「…まあまあ!
それはいけませんわ!
すぐに迎えに行かなくては!」
ジェファーソンのおっさんの説明に頷くエトワと、今にも飛び出して行きそうなセレアル。
彼女達は、昨日、早々に休んでいたので朝食はすでに済ましており、今は俺達の食事にお茶で付き合ってくれていたのだ。
うん、セレアルさん、ちょっと落ち着いてね?
さてセレアルをどーどーと引き留めつつ、おっさんから聞いた話しというのが、狼っ娘養女こと、我が娘ウフィールたんのことである。
─ウフィール、俺と離れてずいぶん気落ちしているらしいみたいなんす。
いや、ちゃんと1~2週間かそこらで帰ってくるって説明して、ウフィールも『うん!いってらっさい!』って手を振って送り出してくれたんだけどね。
ウチにもジオールおばさんや、ミールの妹、マーシャちゃんがいて、寂しくはないと思ってたんだが。
…どうやら、俺が長期に居なくなる事を実際、よく判っていなかったようです。
俺がいなくなって2、3日すると塞ぎこむようになり、ジオールおばさんらと一緒に寝ているのだが、夜泣きをするようになってきているとのこと。
─因みにこの情報元は、パーミル辺境伯の懐刀No.2こと、腹黒ジョシュアさんでございます。
あのにーちゃん、辺境伯がこっちにいてパーミル不在なので、パーミルの諸事を取り仕切っているはず。
そんなくっそ忙しいはずなのに、言ってはなんだがこんな些末な事まで情報を仕入れて伝えてくるとは…。
やはり俺とは違って、デキる奴は違いますよ。
あ、それと余談だが、この世界の通信能力について、やっと判ったことがあります。
いや、中世文化レベルの世界なのに、離れている所へずいぶん速く連絡が届くなーって思ってはいたんですよ。
それなんですが、金属板の様な魔導具がございまして。
これが対になっており、一方で特殊なペンで金属板に書くと、もう一方にその書かれたものが浮き出てくるという魔導具が存在しとりました。
対の金属板は、どれだけ離れていても大丈夫なんだそう(ただし、距離に応じてエネルギーとして使う魔晶貨の量が増える)。
名前が"通信板"…はい、まんまです。
まあメールがやり取り出来るようなモンですな。
伯爵レベル以上の領都とか、ある程度の大きのさギルドなんかが持っているそうです。
─閑話休題。
…
……
………
ただいま、"パイログリフォン"の背に乗り、猛スピードでゴラル伯爵領、そしてそのさきにあるパーミルに向けて飛んでいる最中でございます。
眼下にある森林が、ゴウゴウと凄い速さで後ろに流れていく。
スピードメーターがあるわけじゃあないけど、優に時速100km以上は確実に出ているよね、これ。
なんせ風圧が凄いことになってます。
"パイログリフォン"用に座れる騎乗鞍を作ってもらい、それに座っているのだが、その手摺から手を離したら吹き飛んでしまいそうです。
ジェファーソンのおっさんからの連絡を受け、その日の内に俺はパーミルに一度戻る事を決めた。
ウフィールを迎えに行くためだ。
まあね、央都でのドタバタも一段落した感があるしね(あくまで一応ね)。
あと貴族の総本山てことで、権謀策術が横行するドロドロな恐ろしいトコとか想像してたけど、意外とそうでもなさそうだし。
これなら、コムサ侯爵んトコの肉食系姫様がた達の方が怖かったんじゃないかなと…。
…まあ、それは置いておいて。
とりあえず、ウフィールを央都に連れてきても大丈夫かなと。
実際、本当のところ央都の貴族がいい人ばかりっつーのは、とても言えないんだけどね。
スキあらば、自分を売り込もうとしてくる貴族はワラワラといるし。
あと自分トコの種族至上主義で、他種族をおもっくそ見下してる奴もけっこういるけどね。
でもそんな奴らは今までもいたしねー。
それにそんな中でよほど質の悪い輩は、パーミル辺境伯達なんかがガードしてくれてたしね。
つまりは俺達が注意してウフィールを見ていれば、パーミルにいるのと大して変わらない安全度だと判断したわけです。
それに加え、ルーゴ王子の時みたいな王族絡みはもう無いだろうしね。
なんせこの国の最高権力者、ラウンバ央国王陛下という、最強の後ろ楯を得たからな。
フフフ…レア鍛冶素材をチラつかせれば、あの鍛冶バカ王はチョロっと堕とせるに違いない(悪い顔)。
ということで思い立ったら吉日。
可愛い獣っ娘幼女…じゃない、養女が悲しんでいるなら即対応。
直ぐ様、コムサ侯爵領までの転移ゲートの手配をジェファーソンのおっさんに頼み(転移費用は俺の自腹)、昼過ぎにはもうコムサ領に到着しました。
そっから昼飯をかっ込んで直ぐコムサ領を出発(ぐすくずしていると肉食姫様ズが来そうなので)、あとはフルスピードでパーミルに向けて飛んでいるという状況だ。
あと今回は同行者は無し。
セレアルなんかが、『私も一緒に迎えにいきますわ!』と息巻いていたんですけどね。
"パイログリフォン"のフルスピードで行くといったら、サラっと辞退してきた。
うん、ある意味、高速道を車の屋根に乗って、猛スピードで走ってるようなモンですからね。
チートステータスな俺ですら、なかなかキツいものがあるのだ。
セレアル達も前に一回、物は試しにこのスピードで飛んでみたいと言ってきたことがありまして。
それでそのスピードを体験してから、二度とフルスピードを要求してこなくなったのよ。
まあウフィールを迎えに行ったらすぐ央都に戻るので、セレアル達はちょっとだけ待っていてもらうよう頼んだ。
帰りはウフィールを乗せていくのでそうもいかんが、行きはこの通り弾丸行程だ。
往復で3~4日もあれば大丈夫だろう。
前回みたいなゴラル伯爵領も寄らずスルーして行くしね。
「……ん?
なんだあれ?」
─そんなこんなで、コムサ領を飛び立って2時間ほどした頃だろうか。
俺の視界の右端、その地平線上にモンスターの位置カーソルが見えた。
モンスターのカーソル自体は、眼下に時々見えてるんだけどね。
ただそういうのは、だいたいはNかHNの単体~数体で、それほど希少なモンスターでなかったので無視していたのだが。
気になったのは、そのカーソルがずいぶんと多数に重なって見えたからだ。
「…ちょっと気になるな。
少しだけ寄り道して行くか。」
俺のカーソル探知範囲は、最大半径8kmほど。
それにギリギリ引っかかる距離にカーソルは見えた。
…
……
「…なんだこいつら?」
うん、これは異常だよね?
眼下に見えるカーソル名は、全てが"ゴブリン"種だ。
先ず"ゴブリンシーフ"(HN)が2体、これは斥候役だろう。
その少し後ろに"ゴブリン"(N)が5体、続けて"ボブゴブリン"が3体。
そしてその後ろに以前取り逃がした"ゴブリンチーフテン"(HR)が1体。
さらに"ゴブリンスペルシーラー"(R)が2体と最後に"ゴブリンアーチャー"(N)が3体。
合計16体の"ゴブリン"種が綺麗に縦1列に並んで、どこかに向かって進んでいる。
しかもこの16体のセットがあと12列、ほぼひと塊になって同じ方向に"進軍"しているのだ!
そう、レベルの差は2~3あれど全く同じ構成の集団が、まるで軍隊の様に秩序だって動いている。
基本、"ゴブリン"はあまり頭がよろしいとは言えない奴らだ。
"ゴブリンチーフテン"の統率スキル【デマンドゴブリンⅡ】があるとは言え、こんなに完全な行動が出来るんだろうか?
…うーん、この集団をまとめている様な奴は見当たらんなー。
それでいてこの秩序だった動き。
やはりおかし過ぎるよね。
つかコイツら、何処へ向かってるんだ?
方角はやや東よりの北へまっすぐ向かっている。
こっちに何かあったっけ?
前に見せてもらったパーミル―コムサ領間の地図と、現在位置を頭の中で照らし合わす。
え?現在位置ですか?
ええ、もちろん"パイログリフォン"君の渡り鳥的、位置把握能力に頼ってますよ?
俺自身の感覚なんかに頼ったら、絶対、あさっての方向へ行ってしまう自信があるからな!
ゴラル伯爵領やパーミルではなさそうだ。
それならもっと西だしな。
なにより200体近い"ゴブリン"集団とはいえ、ゴラル領やパーミル領にケンカを売れるような規模ではないし。
一瞬、この軍隊じみた動きを見て、前に襲撃を受けたマクタン村か?とか思ったが、こちらにしても逆に遠ざかっているような方向だ。
だいたいこちらの方向には街道が1本横切るだけで、あとは延々、森と草原ばかりなはずなんだが。
「とは言っても、放置する選択肢は無いよなー…。」
なにせ地図には載っていない小さな村落なんかが、進行方向に有る可能性は捨てきれない。
それに今はまっすぐ進んでいるが、どこかで急に方向を変える可能性も充分ありえる。
見せてもらった地図ってのも、『だいたいこの辺に○○山があってー、ここらに○○子爵領の領都があるって感じ?』な大雑把なモノ。
いわば日本の戦国時代までの地図レベルと思ってもらえればいいです。
現代日本の高等地図なんぞを求めてはいけないのだ。
……うむ、やはり全然わからんな!
つーことで、サクッと倒してしまおう!
悩んでても仕方がないし、なによりウフィールが待っていますから時間をかけたくない!
「"デーモン"×2、"ハイワイト"、"キュムロニンバスホーク"、アントクィーン"それから【るー子】!」
「るるー♪」
周囲の空間に魔方陣が現れ、次々にカードモンスター達が出現し始める。
"アルラウネ"こと【るー子】は、俺の前、"パイログリフォン"の頭の上に現れた。
今回は範囲魔法、それも水と土、それに光の魔法を使えるやつを呼び出す。
光は、"キュムロニンバスホーク"君の【光魔法/中級】にある【シャイニングレイ】だ。
あと【るー子】以外は空を飛べるのも条件です。
火や風(雷)系統が使えるやつは、森林火災のもとになるから今回は待機ね。
「準備はいいか?
じゃあ、いくぞ!」
「るー!」
"ゴブリン"どものいる上空で、囲む様に大きな円を描くように展開。
包囲が完了すると、そのまま一斉に急降下をかける!
さっさと壊滅させて、ウフィールを迎えに行くぜー!
いつも読んで頂いてありがとうございます!
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