【聖魔鉱】
すいません、お待たせしました!
さっきまで会っていた五央国、盟主王陛下が、いきなりおいであそばされました。
「うはっはっはっ!
急に来て済まなんだな!
許せ許せ!」
いや本当にこのおっさん、フットワーク軽すぎや。
それにフレンドリーすぎね?
いくら自分のホームでもあるお城の中とはいえ、普通は貴族的なら『いまから行きますよー』みたいな連絡するもんじゃねーの?
いや、それどころがトップオブトップなひとなんだから、『こっちに来い』って言ってくるのが普通なんじゃねーの?
それが、護衛の騎士さん二人とお付きの執事長みたいなひと一人の計三人しか連れて来ず、ホイホイとやって来るとか。
「ん?ああ、公の時はちゃんとするわい。
しかし普段までそんな事しとったら、時間が掛かって仕方ないだろ?」
…そんなモンなの?─あ、やはり違うみたいだ。
付いてきた執事長っぽい人が、『そんな訳ねーだろ!』って視線をおっさんにビシビシ送ってますよ。
それから盟主王陛下、俺の後ろに控えている者達に目を向ける。
因みにおっさんが入って来た時点で俺達は皆、片膝をつく礼を示しており、おっさんは上座で椅子に座った状態だ。
「セレアル姫、エトワ姫、それに他の奥方の方々も済まなんだな。
勇者殿と寛いでいたであろう。」
「─お気遣いありがとうございます。
ですが陛下に直接、お声を賜るだけで、望外に栄誉な事ですわ。」
と、そんな感じで皆に声を掛ける盟主王さま。
…あと現時点ではまだ婚約者のはずなのに、この王さんまで既に嫁さん扱いとかどうなのよ。
それから王さん、一番後ろにいたミリフィス姫とボケ王子…ウウルーゴ王子にも声を掛ける。
ミリフィス姫はそつなく挨拶を交わすが、ウウルーゴ王子はいままでの尊大なナリは見る影もなく、めっさへりくだっていた。
「この度は私めの不徳の致す所で、尊王陛下にお見苦しい所をお見せしてしまいましたっ!
王家の者として、汗顔の至りっ…。」
「ああ、よいよい。
それを言うならば、魔薬の蔓延を未然に防げなんだ我ら王家全ての責任だ。
それにバハラント王の件はまだ終わっておらぬしな…。」
そう言ってこっちをチラリと見る王さん。
まあパーミル伯から、例のイベント結果は伝わってるだろうしな。
当然、王さんも現状は解ってんだろう。
「それについては、また貴公らに頼む事もあろう。
まあそれは一先ず置いておいてだ。
今回儂の用向きは、儂個人の事なんじゃっ…!」
…なんでしょう。
王さん、目をランランと輝かしながら、こっち―というか、俺に椅子ごとグイグイ向かってきやがります。
「貴公っ!
あのデスパラディンを倒した時、奴から何か手にいれなんだかっ?!」
─ちょっ?!近い近いって!
鼻息も荒く、なんかヤバい目付きなってるんですけど、このひとっ?
─倒した時、何かって…ああードロップ品のことかー。
もちろんゲットできましたよ。
「なにっ?!まことかっ?
しかして何を手に入れたのだっ!
早く!早く教えよっ!」
…えっと、前回の召喚勝負では、こんな感じの成果だった(イベント報酬を除く)。
バスターデーモン(R) × 1
ブラックナイト(R) × 33
デスパラディン(SR) × 1
で、これらのモンスターからのドロップアイテムがコレだ。
【黒の斬馬剣】× 1
【魔鉄鉱】× 21
【魔鉄】× 10
【悪魔の盾】× 2
【聖魔鉱のインゴット】× 1
この内、【黒の斬馬剣】は"バスターデーモン"のドロップ品で、真っ黒の全長2mはある片刃の大刀だ。
呪われてそうな見た目だが、別に呪われてはいない。
防御力が少し低下する代わりに、けっこう攻撃力が上がる魔法剣だ。
ま、俺はこんなデッカイ剣、使わないから【アイテム】欄の肥やしとなりそうだ(または俺のマジックコレクション入りとも言う)。
つぎの【魔鉄鉱】、【魔鉄】は"ブラックナイト"のドロップ品。
これは【ミスリル】ほどではないがかなりレアな鉱物で、魔力を込めたアイテムを造る時に珍重される。
特に【魔鉄】(レアドロップ)は【魔鉄鉱】(通常ドロップ)を精製したインゴットなので、かなり高価で取引されるのだ。
前の"ブラックナイト"らと戦った時もけっこう手に入れてたが、あん時は最終的に全部売り払っちゃってたんだよね。
パーミルには【魔鉄】を加工出来る鍛冶師がいなかったので、持っていても宝の持ち腐れになってたからだ。
たが央都にはハイクラスの鍛冶師が何人もいるだろうから、この【魔鉄】を使って皆の装備をここでオーダーしようかと考えている。
あと"ブラックナイト"は【悪魔の盾】という激レアドロップアイテムも手に入れたが、これは完全に呪われたアイテムだ。
だが悪魔召喚に使う触媒としては非常に優秀なんだそうで、高値で売却できるとのこと。
2つ手に入ったので、1個はコレクションとして持っておきたいんだけどなあ…。
それで最後の【聖魔鉱のインゴット】なんですが…。
「いよおおおっしゃあぁっー!!
やはり手に入れておったかっー!」
王さま、椅子から立ち上がりまして、ダシャッー!な感じで拳を振っております。
その姿に、あの謁見の間で見せた威厳はミジンコもありません。
っていうか【聖魔鉱のインゴット】、これがどうかしたの?
「うむっ!
聖魔鉱はなっ、一部の強力な魔物が極希に残すとされている、伝説級の鉱物なのだ!
この金属は、例えばアダマンタイト鉱と比べればその硬度は数段劣る。
とはいえこの金属の特徴は、様々なの稀少金属の触媒に使われた時にその真価を発揮するのだ!
特にミスリル鉱との親和性が高く、触媒に使う比率、込める魔力の質、量で大きく反応が変わってくると言われておるのだ。
だがアダマンタイトよりも入手が困難でな。
そのためこの鉱石の性能は、まだまだ謎な部分が多いのだ!─」
…なんといいますか王さま、いきなり水を得た魚の如くペラペーラと【聖魔鉱】の説明を始めました。
なんなん?このひと?
鉱物オタクかなんかなの?
「ラウンバ陛下は央国の王であり、そして央国随一の鍛冶師でもあらせられるのですわ。」
「だから尊王陛下は、鍛冶王とも呼ばれているんだよ。」
「陛下が剣を打てば、ただの鉄剣でも魔法の盾を断つと言われてますのよ。」
「マジでっ?!」
【鍛冶王】モルグス=ウルラウンバ・グリフィナラル・アブラム・ドム・ラウンバ Lv 79
(ウエポンスミスマスター/光属性/ドワーフ族)
AT:9,680/9,680
DT:9,180/7,650(+2,200)
EX【鍛冶神の加護】【天賦の才/鍛冶】【天賦の才/彫金】【鑑定眼/鉱物】【特級/付与魔法】【上級/錬金魔法】【無効/状態異常攻撃(城内限定)】
「─かくいう儂も、まだ数度しか打ったことの無いモノでな。
それも指1本程度の量しかなかったので、大したことが出来なんだったのよ。
それ以来、聖魔鉱を使って存分に武具を造るのが儂の夢であったのだ!」
…あ、王さん、まだ喋ってたんだ(笑)。
しかしセレアルとエトワが説明してくれたけど、この王様、凄い鍛冶師のようです。
ステータスを見てみれば、スキルはガッツリ鍛冶職関連なんかで固めらてます。
つか、【鍛冶神の加護】って、神様の加護スキルなんか初めて見ましたよ。
レベルもめっさ高いし。
「─でだっ!
貴公はどれ程の量を手に入れたのだ?
拳大くらいか?
い、いや、貴公のことだ。もしかしてもっと手に入れたのかっ?
言い値を払おう!
ぜひっ!ぜひに儂に譲ってはくれぬかっ?
頼むっ!
なんなら今回の報酬とは別に、儂の領地から一部を割譲してやってもよい!」
王さん、鼻息がこっちにブイブイかかるくらいに迫りながら、血走った目で訊ねてきます。
あと領地なんかもう要らんちゅーの。
…まあ譲るのに異存はないので、ここで実体化させて見てもらおう。
どちらにせよ鍛冶の伝といっても、ほとんど無い俺が持っていても仕方ないしな。
あ、そうだ。
報酬代わりに、持ってる【魔鉄】なんかで剣なんか1本でも造ってくれたら嬉しいかなー。
なんせそんな凄い鍛冶師さんなんだから、出来るのはかなり強力なモノになるのは確実だろうし。
「おおっ!
そんな事なら安いことだっ!
貴公らに見合う物を、儂が気合いを入れて打ってやろうぞ!」
あら?全員分、造ってくれんの?
いやすんまへんなー。
じゃ、気が変わられる前に、さっそく【聖魔鉱のインゴット】を実体化して渡してしまおう!
─ドゴンッ!
ちょっと量があったので、床に実体化させたのだが正解のようだ。
テーブルの上だったら、重さでヤバかったかもしれん。
実体化したのは、テレビで見たことのある金の延べ棒(延べ板状じゃなく、もっと大きいヤツね)の様な物だった。
ただ色は金じゃなく、白金ぽい下地に表面が鉄のよう色の反射光がする金属だった。
で、そんな延べ棒状の金属が10本、山なりに三角に積まれて出現しました。
どうやら"インゴット"となると塊ひとつではなく、こんな状態で出てくるようです。
「……………は?」
─あら?
王さん、現れた【聖魔鉱】を見て固まってしまいました。
「…な、なんじゃっ、こ、この量はあぁぁぁっー?!」
─あ、こ、この流れは、ヤッてしまいました俺?
ヤッてしまいましたか?
「こ、ここここれは全て本物かっ?
本物なのかっ?!
…なんという…。」
盟主王陛下、インゴットの山を前にガクブル震えてますが…あの、大丈夫っすか?
「―これでは【聖魔鉱】を打ち放題ではないかっ!
こうしてはおれん!
誰か!誰か儂の炉に火を入れるよう伝えよ!
くふふぅっ!どうしようかっ…?
先ずはミスリルの触媒に使ってみるかっ?
比率はどうするか…やはりチマヤの古文書が正しいか検証すべきかなぁっ!」
大丈夫だったようです。
というか、完全にナチュラルハイな状態みたいで、ヒャッホーイな勢いで【聖魔鉱】に頬擦りしかねないです。
「お待ち下さい、陛下。」
そんなスキップしそうな王さんの後ろ襟を掴んで、強引に引き留める一緒に付いてきた執事さんらしきひと。
「むおおっ?と、止めるなっ、ゴンゴース!
夢にまで見た聖魔鉱が、目の前に山と積まれておるのだ!
例え宰相のお前といえども、儂を止められんぞぉ!」
執事さんじゃなくて、まさかの宰相さんだった!
「…陛下、その聖魔鉱全てをお買いになられると仰りますが、ソレが幾らになるとお考えでしょうか?」
「む?………あ。」
宰相のゴンゴースさんの冷やかな質問に我に帰る王さん。
なんだかサァーと血の気が引いたような顔をなさってますが、…もしかしてもしかしなくても、聖魔鉱ってお高いモノなんでしょうか?
「なにぶんこれだけの量は前代未聞なのですが、これを全てご購入されるとなると…まあ、少なくとも王家数年分の収益は費やされるでしょうな。」
─ぶほぉっ?!
ってかもうそれ、どれくらいの金額なのか判断つかないんすがっ?
しかしそんな俺の慌てふためきにも全く表情を崩さない宰相さん。
因みに宰相さんは、細身のヒューマン族だ。
「いまさら何を仰りますか…。
貴殿が贈呈された若返りの魔物肉、アレも同じくらいの価値があったのですぞ?」
─そ、そうなんすか…。
「そ、そうだっ!
ならば、この聖魔鉱も"贈呈"という体にすれば─」
「その様な五央家の威を貶めることは、お止め下さい。
陛下も、ご自分ではお解りでしょう?」
「ぐぬぬぬ…。
し、しかし、もしこの聖魔鉱が他の物の手に渡ってしまう事態にでもなってしまえば、儂はもう悔しさで憤死してしまうっ…!」
─そこまでかい…。
大国のトップが、こんな鍛冶オタクのおっさんで大丈夫かと思いもしたが、たぶん普段はもっとしっかりした人なんだろう。
…あとこの宰相さんみたいな冷静で優秀な人達が、周りを固めてくれてるのかもしれん。
そのゴンゴース宰相さん、小さなため息をついた(この人も苦労人ぽい)。
「はぁ…。
鍛冶の事となるとこの人は…。
―如何でしょうか、勇者殿。
一先ずその聖魔鉱、他者に渡す事だけはしないとお約束頂けないでしょうか?
もちろん、後程、貴殿に悪いことにならぬよう、私の名にかけて善処致しますので。」
「はあ、別に俺…じゃない、私はいいんですが…。」
俺個人としては、こんなアイテム持っていても仕方無いので、【レインボータートルの肉】の時のように『贈呈』な感じでもよかったんだが。
しかし【レインボータートルの肉】から大した時間も経たず再び『贈呈』となると、たとえ褒美を渡したとしても『欲しいからよこせ』という扱いに見られる可能性が高いとのこと。
宰相さんが言った『五央家の威を貶める』ってのは、周辺貴族から央家がそう見られかねない危険性を指摘していたのだ。
うん、やはり貴族って邪魔くさいねっ!
まあこっそりチマチマと渡してしまえばいいんじゃね?
そんでもってそれでこの王さんに貸しを作れば、これ、最強の後ろ楯をゲットできたんではないでしょうか?
─あっそうだ!
ついでだから前に"アーザンズスポーンメディカ"と戦った時に手に入れた大量のアイテム、【クリスタルメタル】【クリスタルの塊】【クリスタルの欠片】。
これも見てもらおう。
対混沌勢用のクリスタル装備を造るためのアイテムなんですけどね。
なんせ"メタル"って書いてあるから、これも鉱物だと思う。
─という訳で実体化!
「……………ナニコレ?」
いつも読んで頂いてありがとうございます!
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