アーザンズスポーンメディカ戦Ⅲ
いつものカードモンスターが現れるものより、明らかに模様が複雑な魔法陣が出現する。
魔法陣は、次第に速度を上げて回転し始める。
―バアァー!
そして回転する魔法陣が地上から浮かび上がるにつれ、その中からひとりのメイドさんが現れる。
そうメイドさんである!
まごうことなきメイドさんである!
古き良きヴィクトリアンスタイルを彷彿とさせる、濃紺色のロングスカートと純白のエプロンドレス。
銀の髪は後ろできゅっと纏められ、その頭上にはメイドをメイド足らしめる、燦然とホワイトブリムが輝やいている。
メイドさんは魔法陣から完全に姿を現すと、スカートの両端をツイッと持ち上げ、深々と俺たちに挨拶をしてくれました。
「メイド部隊長イシス、御主人様の御命により、ただいま罷りこしましてございます。」
「…え?
ええっ?!
わ、わたしっ?!」
うむ、"こっち側"のイシスさんが超驚いてらっしゃいます。
でもこりゃ無理もないわ。
魔法陣から現れたメイドのイシスさんは、今、こっちにいるイシスさんと瓜二つなのだ。
容貌はもちろん背丈も同じ、プロポーションもエプロンドレスに隠しきれないその見事な胸部の大きさもそっくりである。
【バトルダークエルフメイド・イシス】 Lv 75
(オーダーメイドマスター/ダークエルフ/女/火属性)
AT:110,500/110,500(+1,900)
DT:146,000/146,000(+960)
スキル:EX【コールメイドゴッド】EX【皆様、ゴミ掃除です!】【ノーマリゼーションⅢ】【火精霊魔法/上級】【火精霊召喚/第四階位】
―キャラクターカードを召喚したのはミールに次いで2回目だが、今回、幾つか実証したい事もあって、このイシスさんのカードを使ったのだ。
そのひとつが、『本人がいる所に召喚は可能か?』というものだ。
というのも、ゲームの時のキャラクターカードは、どんな遠方にいても強制的にその場に転移させて来る、…という感じのものだ。
しかし前回、俺が召喚した【ミール】さんは全く異なるものだった。
【ミール】さんは、まるで現在のミールから数年の歳を経た様な姿をしていた。
まるで何年後かの彼女を呼び寄せたかのようであったのだ。
まあ本当に未来のミールであったのかは判らずじまいだったが、あの時、確かに俺を知る『ミール』という女性が同時に二人いた事になる。
ただその場に"こっち側"のミールが居なかったので、今後、キャラクターカードを使う時、はたして同一人物(推定)がその場に存在した場合、どんな影響が起こるか少々不安があった。
そこでちょうど、というかこの戦いに相性が良さそうだったのもあり、イシスさんのキャラクターカードを使ってみた次第でございます。
イシスさん、…あ、キャラクターカードのイシスさんの方ね。
ややこしいから、彼女をメイドイシスさんと呼ぼう。
―で、そのメイドイシスさんに対し、何か脅威的なモノを感じたのだろうか、"ケイオストルーパー"が一斉にこちらに向かって来た!
「雑魚が何匹来ようと、物の数ではありません!
【ノーマリゼーションⅢ】ッ!」
そう言うや、メイドイシスさんは右手を高く上げ、スキルを瞬時に発動させる。
そして右手から発っせられた波動は、襲ってきた全ての"ケイオストルーパー"を一瞬で灰に変えさせた。
「す、凄い…。」
誰かが息を飲んで呟いてるけど、確かに凄いです。
百以上は確実にいた"ケイオストルーパー"を、【ノーマリゼーションⅢ】一発で全滅ですよ。
向こう側でメーベランも、アゴが外れたように呆けてらっしゃいます。
「たわいもありません。
これでは台所の油虫の方が、まだ手強いですわね。」
―メイドイシスさん、頼もすいぃぃー!
いや、彼女のキャラクターカードを使おうと考えていた理由には、彼女のスキル構成が対混沌勢にかなり強いからもあるんだよね。
この【ノーマリゼーションⅢ】もそうなんだが、EXスキルの【皆様、ゴミ掃除です!】の内容を読んでみたんだが、…もうねえ。
「あ、あの…勇者樣、そ、その方は…?」
―おおっと、こっちのイシスさんが、めっちゃメイドイシスさんの事を訊きたそうにしている。
まあそりゃ自分の知らない、こんな双子みたいな人が現れたらねー。
…
……あ、コレ、どうやって説明しよう?
しまったあぁぁー!
キャラクターカードを使う事だけ考えてて、状況の説明とか考えて無かったあぁぁっー!
えっと…やはり『この人は未来のあなたです』って言えばいいのか…いやアカンわ。
だいたいまだ未来のヒトなんかも確認できてねーじゃん。
その事も、あっちのイシスに訊いてみようと思ってたところなんだし。
てな事を考えてたら、アッチのイシスさん、つまりメイドイシスさんが半歩振り返り、コッチのイシスさんを見据える(えい、ヤヤコシイ)。
「貴女…。」
「は、はいっ!」
「貴女にアドバイスを授けましょう。」
「え…?」
「御主人様…つまり勇者樣は、私が今、着ている衣装がお好みです。」
「は…?」
「更に言うならばこのスカートをたくし上げ、嫌悪の目で見下されるのが、ことのほかお好きです。」
「うほおおおいっー!
ナニ言ってんのアンタっ?
無いからなっ?
俺はそんなドMな趣味無いからなっ?!」
「失礼致しました。
一部、誇張した所がございました。」
「いやいや!
誇張って、元から膨らます部分なんか無いよっ?
俺のシュミはノーマルだからね?」
「では、このメイド服はお嫌いですか?」
「それは大好物です!…あ。」
「―とまあ、貴女がこれからお仕えする方は、この様な方なのです。
それを心に留めておきなさい。」
「いやそれ、なんのアドバイスやねん!
つか、ここは自分が何者か、説明したげるところやろ!」
「は、はあ…。」
ナニこのメイドさん…。
こっちのイシスさん、いやそれどころか、ダークエルフの皆さん全員が呆気にとられとる。
「ええいっ!こうなれば奥の手だぁ!
魔樹よ、これを喰らうのだぁぁー!」
あ、強烈なメイドイシスさんのキャラに皆、注意を逸られてた。
メーベランが白衣の内から、赤く脈動する小さな石を"アーザンズスポーンメディカ"に投げつけた…って、あれは"アーザンの欠片"かっ?!
―ギキキキキ、ギキキキキー!
"アーザンの欠片"を取り込んだ"アーザンズスポーンメディカ"が、耳を塞ぎたくなる不快な軋み音を出してザワザワと蠢きだした。
そしてまた実を、前以上の数を枝に結実させ始めた!
―ゴウッ!
まるでコマ送りの如く実はあっという間に育ちきり、先ほどの数倍の"ケイオストルーパー"が産み出されてしまう。
そしてまるで竜巻の様に俺達を取り囲んでしまった。
「クハハァー!
これでお前達は終わりだぁー!」
「あら…また無駄な足掻きを致しますわね。」
小躍りして己の優位さをひらけさすメーベランに対し、メイドイシスさんは余裕綽々です。
コレはあのスキルを使う気ですね!
「これより皆に神の加護を与えます!
その力もて、御主人様の敵を討ち滅ぼしなさいっ!」
メイドイシスさん、マジックみたいに銀に輝く箒をどこからともなく、自分の両手に出現させた。
彼女はそれを、頭上でグルグルと回転させ始める。
回転が速くなるにつれ、銀色の光りが周囲を強く照らす!
「さあ、【皆様、ゴミ掃除です!】」
スキル:New!EX【皆様、ゴミ掃除です!】
メイド神より授けられた、イシスのメイド部隊による対混沌勢への必殺技。
その効果は、同じデッキ内にいる味方に対し、物理攻撃に関するステータスを1.2倍上昇させ、さらに【強打/混沌属性】【無効/混沌属性攻撃】のスキルを5ターンの間、付与させる。
このスキル使用者が倒されると、スキルの効果は消滅する。
「うおおっー!」「こ、この沸き上がる力は!」「解るっ!この力なら、あの化け物らに通用するのが解るぞ!」
メイドイシスさんから銀色の光を受け、ダークエルフさん達、全員が対混沌勢の特攻ユニットになってしまった。
「皆の者、チリひとつ残らず消しさってしまいなさいっ!」
「「「うおおおおっー!」」」
メイドイシスさんの号令一下、ダークエルフさん達が野太い雄叫びをあげながら武器を振るう。
先ほどまであんなに苦戦していた"ケイオストルーパー"が、一刀のもとに斬りふせられていく。
…うーん、キャラクターカードのスキル内容を読んだ時、なんつーEXスキルだと思ったが、いやとんだ対混沌チートスキルだよ。
仲間が多ければ多いほど、強ければ強いほど、とんでもなく威力が上がっていくスキルだ。
「―さて雑魚は彼らに任せまして、私はあの魔樹を掃除させて頂きますわ。
せっかくですので私の最高の奥義を、この時代の御主人様にご披露させて頂きますわ。」
え?『この時代の御主人様』?
ということは、やはりなのか…?
「ではっ!
―我を守護せし、メイドの守護神よ!
我が身に御身の影を降ろさせたまえっ!
【コールメイドゴッド】ッ!」
彼女がそう唱え終えた瞬間、彼女の背後に後光と共に『メイドの神』が降り立った!(←誰かツッコンで!)
長々と続けてしまいましたが、次号で解決からイッキに央都へ話しは移ります(予定)!
どうぞよろしくお願いいたします!
いつも読んで頂いてありがとうございます!
もし面白いと思って頂けたら、下の『勝手にランキング』をポチっとお願い致します!




