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父と娘

お待たせして申し訳ありませんでした。


今回は第三者視点での文体でしてみました。

久しぶりの第三者視点なので、少々(いやかなり)苦労しました。

よければ感想なんかも頂けると嬉しいです!

「あああ…ああっ!」


怒濤(どとう)(ごと)くイスマイールの頭に、"記憶"が襲い掛かってくる。

それは(あがら)えど、決して(こば)むことが出来ない強い力だ。


イスマイールを苦しめ、襲ってくる記憶。

記憶に名前を付けるなら、『後悔』というものだろう。

この10年近くに渡り、自分が犯した(あやま)ちが。

多くの者達を、死地に向かわせた過ちが。

まるで無数の(やいば)となって、イスマイールの心を切り刻む。


「お父様っ!

お心を強くお持ちなさい!

その"記憶"から逃げてはいけませんっ!」


倒れ込みそうになる彼の身体を、背後から娘のイシスが支える。


「お父様は、我ら一族の(おさ)でしょう!

そのお父様が今、倒れてどうなるというのですかっ!」


「イシス…。

…そ、そうだ、私はこの部族の長なのだ。」


娘の叱咤(しった)に、イスマイールは途切れそうになる意識を持ち直す。

そして失いかけた彼の瞳に、また力が戻ってくる。


「―そうです!

たとえお父様が出した無茶な命令で、多くの者が犠牲になったとしても!」


「ふああ…。」


「パデルボルンからの指令とは言え、お父様の指示で何人もの仲間を見殺しにしてしまったとしても!」


「うあ…ほあああああっ!」


「……い、いや、イシスさん?

それ、また追い詰めてるから。

おとーさん、また頭、抱えちゃったよ?」


「…あら。

これから、『全ては魔薬のせいですから、思い悩まられる必要は無いのです』―と続けるつもりでしたのに。」


せっかく持ち直しかけた所を、容赦なく再びドン底に落としてしまうイシス。

その責めに、人格崩壊を起こしかけているイスマイールお父さん。

ムンクの叫びっぽい状態になっている。


勇者がドン引きしながらもイシスにツッコミを入れるが、当の彼女は判ってやっているようである。

自分の父親を、ちょっとこばかし見下げた目で見ているイシス。


「…ふん!

信頼している、副長であるジャハダハールに、あの様な言い(ざま)

長として、娘として、聞いていて恥ずかしかったですわ。」


「い、いえ、私のことなどは…。

それに族長も魔薬に毒されていたのですし…。」


「それこそです!

信頼しているなら、例え魔薬に犯されていても、あの様な言い方にはならなかったはずですわ!

…それを…、お父様?

なんと(おっしゃ)いましたかしら?

『私ならその様な(いや)しい魔法にかかることはない』…でしたかしら?」


「おほおおぅ…。」


「お嬢さま…。」


「イシスさん…。」


実はイシス、現パデルボルンの代になった時、父親のイスマイールと意見を対立していた。

彼女は、自分達へあからさまな差別を始めたパデルボルン侯爵に対し、領内から離れるべきだと主張していたのだ。


『パデルボルンへの恩は充分返した。

これ以上、ここに留まれば、一族に更なる仕打がなされる。』

―というイシスの主張に対し、イスマイールは、

『今代のパデルボルン侯は自分達に厳しくとも、次の代ではまた変わるかもしれぬ。

その時々で軽率な判断はすべきではない。』

―というものだった。


長命なエルフ族だからこその判断であったが、この時はイシスの判断が正しかった。


その後、イシスの憂慮(ゆうりょ)した通り、パデルボルン侯爵はヒューマン族以外の人種差別を先鋭化、ダークエルフ達の立場は更に悪くなっていく。

そしてダークエルフ一族が我慢の限界を越える前に、反意を知ったパデルボルンにより魔薬による操り人形にされてしまったのである。


『留まる』という判断を下した父親に対し、魔薬のせいで今まで言うに言えなかった不満が爆発したイシスさん、―というのが現在の次第(しだい)なのである。


「―勇者様。

パデルボルン侯爵がここを造ったという証拠は、充分に押さえてあります。

あとは地下にいる、あのおぞましい魔物を退治するのみですね?」


「う、うん。…でもあのー、…アレはどうするのかな…?」


そう勇者が言いながら指差す先には、(いま)だ体育座りをしながら鬱々状態になっているイスマイールお父さんがいる。


なにせ実の娘におもいっきり責められているだけなので、状態異常とかではない。

なので【ヒールオール】を掛けても治療はできないのだ。

ある意味、魔薬の効果より始末が悪いかもしれない。


「先の勇者様との戦いで魔力を使いきったお父様など、あの化け物との戦いに無用でしょう。

他の魔薬を治療出来ていない者達と一緒に、ここに放っておいて問題無いのでは?」


「ふぐうっ…!」


「イシスお嬢さまぁ…。」


「イシスさん、よーしゃねー…。」


イスマイールお父さん、実はレベルが61もある、優秀な精霊召喚術の使い手、エレメンタラーなのだ。

しかし精霊召喚に特化したスキル構成なため、召喚に使うMP(まりょく)が尽きてしまうと途端に無用の長物と成り果ててしまう。

一族の長による指揮能力も、自分(イシス)と副長のジャハダハールがいれはいいという判断である。


イシスの無用扱いな言葉を横耳で聞こえてしまっていたイスマイールお父さん、更なるダークホールに落ちいってしまっている。

聞いている勇者とジャハダハールはドン引きである。


イシスさんは、きわめて容赦がないおねーさんであった。

彼らがドン引くのも仕方無いことだろう。


ここには、先の戦いで【ヒールオール】の定員以上でスキルの範囲外となった、魔薬の洗脳を解けきれていない者が10名程いる。

彼らは勇者のカードモンスター、"ヒートスコーピオン"らの【ヒートスタン】、"コモンマミー"や"キラースパイダー"の【バインドⅡ】によって無力化され、今は治療が出来るまで拘束されている。


そこに自分の父親も放っておけとは、イシスの恨みは相当のもののようである。


…あと彼女が、かなりSっけ気質の可能性もあるかもしれない。


「さあ勇者様!

あの化け物のいる地下室はこちらです。

パデルボルンの監督役達なども、そちらに逃げ込んだようですわ。

さんざん、私達を苦しめた元凶なのです。

ふふふ…そのお返しをせねばいけませんわ…!」


そう言って、美しいが迫力満点の笑みを浮かべるイシス。

どうやら彼女のSっぷりは、ホンモノのようである。

いつも読んで頂いてありがとうございます!


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