コワいひとがやって来た
ああああ…、このひとの登場だけで、1話使ってしまった!
暗闇の中から現れたのは、身の丈が2mを越えてそうな大男だった。
「ぶぅふぉぅぅっーー?!
ほ、ほんものっ?!」
その男の顔とカーソル名を見て、目玉が飛び出るほど驚く。
ちょっ?!
え?
このおっさん、実在してたのかっ?
そりゃあウルティナ様だっていたんだから、おかしくも無いんだが…。
つーか、なぜ急に今、突然?!
「む?…ああ、お前は"むこう"で、昔を追体験する遊戯をやっておったんだったな。
―どうだ?むこうの俺は男前だったか?」
俺のリアクションを見て、おっさんは凄み満点にニヤリと笑う。
―いや、あんた、確かにゲームではちょくちょく出てきましたけど!
つかマンマなんすけど?!
彼はヒューマン族の姿で、ガタイはもう"オーガ"みたいな筋肉をしております。
ギルドマスターのギリークとタメを張れるムッキムキの肉体に、上半身は革ベルトをクロスに掛けているだけ。
背中に両刃のドでかいバトルアックスを担いでいる。
まあテンプレ過ぎるバーバリアンスタイルだ。
頭にケモノのホネでも被っていたら、そのマンマですわ。
その頭にある髪は、オレンジと黄色の中間色。
んでもってその髪がたてがみみたいにボサっとしており、肉食獣な顔つきもあって、ヒューマン族なのにライオンのイメージしか浮かんでこねーっす。
肉食獣な顔はギルマスレベルにおっかない。
おそらくヤの付く職業の人でも、ニラまれたら裸足で逃げ出すレベル。
俺も逃げ出したい。
あ、ゲームと違って瞳の色が青色だ。
ここだけ代えたのか、あとはゲームの姿と全く変わらないな。
「―まあむこうで俺の事を知っているんなら、自己紹介は要らんな。
なら要件を済ましてしまおう。
お前の持つ、オーブを渡せ。」
「え?…は?」
なんか急に言ってきた!
…えーと、ちょっと待って下さい。急展開すぎる!
モノホンの(俺的)有名人に出会えた事やら、そんでもって相手が相手なんで頭が回らない。
え?俺が持つてなに?オーブ?
「なにをしている、さっさと出せ!
アーザンの魔力でねじくれたヤツがあるだろう!」
「は、はひっ!」
イラっとキてらっしゃるのが、アリアリとわかる。
うあーヤバいヤバい!
気がちょー短いのも、ゲームのキャラと同じやん!
―ええと、アーザン、ねじくれって…、あっ!オーブって、【変質した転位オーブ】のことかっ!
それなら、そうと言ってくれれば、…いえいえ!そんな事ひとことも口に出しませんよ。
俺、こんな所で死にたくないもん!
一先ずキエラを起こさない様に(ってかこのコ、これだけガチャガチャなってんのに起きないね!)、そっと切り株にもたれかかせ、それから【メニュー】画面を開いて【アイテム】をだす。
「出す時は札の状態で出すのだ。」
「は、はい。」
札…ああ、カードの状態っすね。
イラストに灰色の珠が描かれたカードを、カードの状態で実体化させ、目の前の男におそるおそる手渡す。
―ゲームと同じなら、少なくとも敵じゃあないよね?
でもなんかカツアゲくらってるような気分になってきた!
俺からカードを受け取ると、おっさんはカードをじっと見詰める。
「札にしても、やつの魔力が滲み出るか…。
これなら人の身ならば、ひと月も身に付けていれば影響が出始めていただろうな…。」
な、なんかヤバそうなコト呟いてるぅ!
ちょっとお!
ナニ?持ってるだけでヤバい系のモンだったのこれっ?
アーザンの魔力って…。
やはりヤツら、なんか仕込んでたんか!
しかもカード化してても、なんか出てたの?
俺、汚染されちゃった?!
やはりあん時、捨てておけば…、いや、んなコトしたら、捨てた所でエライことになってた未来しか浮かんでこんわ…。
俺のビビった表情に気付いて、おっさんがまたニヤリと笑う。
「安心しろ。
そこらの人間なら、という意味だ。
普通のヒト種なら、性格が歪み始めたりしてたかもしれんが、お前ならば影響がでるのに数年はかかるだろう。
二三日程度なら、何の問題も無い。」
その言葉にちょっとひと安心。
…あれ?俺、普通の人ですよ?
あ、レベルチートのお陰か。…お陰だよね?
そして俺が胸をなでおろしている間に、おっさんは何処からともなく革の巾着状になった袋を取り出し、そこへバイオハザードなカードを放り込んだ。
―ん?あの形状…、いわゆる"魔法の袋"か?
いぶかしんで見ている俺に、おっさんはその袋を突き返してきた!
「いやいやいや!
そんなモン返されても!
あ、あんたなら、どっか適当なとこに持って行けるでしょ?!」
「……なんだと?」
「すいませんすいません!
はい!預からせて頂きますぅ!」
こえーこえー、ちょーこえーよっ!
ちょっと言い返しただけで、ギロリと睨まれたよ!
まぢでチビりそうになったよ!
訂正、ギルマスどころの迫力ではありません!
「奴らを油断させるにも、お前が持っていた方が良いのだ。
故にお前が肌身離さず持っておけ。
…捨てようとか考えるなよ。」
「ふはいぃ…。」
ええー、なんか俺、囮っすか?
あとその言い方だと、コレ持ってたら、アーザン一派のヤツらに俺の情報がモレる様にも聞こえるんすが?
「安心せよ。
その袋は特殊なもので、ちょっとした"仕掛け"がしてある。
それに入れておけば、奴の影響はほぼ外に漏れ出る心配はない。」
「ほぼって…。
俺はともかく、周囲の人達には影響は無いんすね?」
俺の心配に、少し意外げな顔をするおっさん。
「自分よりも他者を気遣うか…。
ふむ…、見てくれは気弱そうだが、芯は通っているか…?」
なんかボソっと呟いたようだが、内容は俺には聞こえなかった。
かわりに俺の質問には、しっかりと答えてくれた。
「―問題ない。
お前が持っておれば、周囲へ影響を及ぶ事は無いだろう。」
その返答にひと安心するけど、…それって、俺が持ってなきゃアカンってことですよねー?
あーへいへい、もうどうとなれっすわ。
「では、確かに渡したぞ。
夜分に済まなかったが、着いたのが今になってしまった故、許せ。
頼まれ仕事は、さっさと終わらせたい性分なのでな。」
…む、むう。今着いて、すぐこっちに来たのか。
あんな風に言ってるが、実際、わずかとはいえ、俺に変な影響を及ぼしてたのを、少しでも早く停めてくれたんだもんな。
コワいおっさんだが、悪いひとではないのは間違いない。
おっさんは言いたい事を言い切ったようで、そのまま現れた暗闇の中へ再び消えて行った。
…いや、もっと詳しく説明して欲しかったんすが、ベラベラと気軽に話せる勇気は無いっすよ。
ゲーム通りなら、カンに障っただけで半殺し(又は全殺し)にしちゃうひとですよ?
ある意味、今までで一番、命の危機だったかもしれん。
……
……はあああー、めっさ疲れたー!
いったい何なんだよ?
もう台風みたいなおっさんだったわ!
…もうこれ以上考えんのもしんどいんで、キエラを抱え直して彼女を寝室に戻したあと、俺も自分の部屋のベッドに倒れ込むように寝入ってしまった。
》
》
「おっはよー!お兄ちゃん!朝だよっー!」
「おとーさんっ!あさっー!」
「おっふぅっ?!
お?おお、おはよう、マーシャちゃん、ウフィール!
…つかキミ達、もう仲良くなったの?」
「えへへー、うふぃーはね、まーねぇとなかよくなったよ!」
「マーシャは、ウフィールちゃんのお姉さんになったんだよ、お兄ちゃん!」
衝撃の出会いから一晩が過ぎ、そのままベッドに倒れ込みながら寝入ってしまった俺を、俺のソウルシスター&ソウルドーターであるマーシャちゃんとウフィールが、ダイビングボディプレスで起こしに来てくれたようだ。
あと二人は、俺が寝坊助カマしてしている間に挨拶を済ませたどころか、すっかり仲良しさんになったようですね。
まあコミュ力の高いマーシャちゃんなら、すぐに仲良くなれるのは当然だろう。
それにウフィールも、ここが安全な場所で周りの人達がイイ人ばかりなのが解ったせいなのか、…最初の頃の様な、全てが抜け落ちたみたいな表情とはうって変わり、元気一杯の普通の子供の様な表情になっている。
世代の近いマーシャちゃんの明るさも、いい感じに影響を受けてるのかもしれん。
…まあイロイロとややこしいモノが付いてしまっているコだから、油断したら駄目だろうけどね。
あとマーシャちゃんはお姉ちゃんではなく、戸籍的な見地からすれば『叔母さん』ではないだろうか?
…うん、まあいいか。
それよりも、二人のケモっ娘美幼女に起こしてもらえるという、この幸せを噛みしめよう!
別にロリーなひとじゃないけど、こんなコ達から『お兄ちゃん』『おとーさん』と呼ばれて、嫌な気分になる奴なんざいないでしょ!
「お兄ちゃん、もうなに変な顔して、のんびりしてるのー?
早く行くよー!
朝ごはんが無くなっちゃうよー!」
「ごはん、ごはんー!」
二人を愛でていたら、急かされてしまいましたよ。
どうやら俺はかなり寝坊したようだ。
もう皆食べ始めてるのか?
急ぐとしよう。
……え?俺、そんな変な顔してた?
「早くしないと、おっきなおじちゃんに朝ごはんを全部食べられちゃうのっ!」
「ん?おっきなおじちゃん?」
―誰だそれ?
デカいとすりゃ、ギルマスか?
いや、ギルマスのギリークならマーシャちゃんも知ってるはずで、そんな呼び方しないはずだが…。
…
……
「やっほ、ほひてひたか。ほほいぞ!」
「ぶぅふぉぅぅっーー?!」
二人に手を引っ張られながら行った先には、口一杯に朝飯をリスの様に頬張りながら、こっちをニラんでいる昨晩のおっさんがいた。
脇には何故か、キエラがおっさんの給仕をしていた。
「はい~、どうぞお水です~。」
「んぐんぐ…(ごっくん)。
ふぅ…、うむ、すまんなアルキエラ…ではなかった、ここではキエラ嬢だったな。
あと、済まぬが水より酒を所望したい。」
「あ、はい~ただいま~。」
「うおーいっ!ちょっと待って?!
あんた、なにシレっとウチの朝飯、頬張ってんの?
昨晩の流れはなんだったの?!」
「おお、お前の考案した"そーせーじ"なるものは、実に旨いぞっ!
それに"まよねーず"か?
あの調味料もすこぶる旨いっ!」
「会話のキャッチボールぅ!
お願いです!俺の話を聞いて?!
昨晩、急に現れて詳しい経緯も話さないで行っちゃったのは、何か急いでたんすか?」
「いや?別に何も急いではおらんかったぞ?」
…うわー、『ナニ言っての、おまえ?』みたいな顔された。
「じゃあ、あんな夜中にいきなり現れなくても、今朝、用件を済ましても良かったんじゃないっすか?」
そう言った俺におっさんは、さも当然の様に(&バカにしたように)答えてくれました!
「昨日も言ったであろう?
頼まれた仕事は、俺は一刻でも早く、さっさと済ませたい性分だと。」
―マジで自分の都合だけだった!
ああ、確かこのひと、ゲームでも超ゴーイングマイウエーだったわ。
いま思い出した。
「…あー、取り込んでる所、悪いんだけどさ。
あのお方は、あんたとどういう関係なんだい?
キエラと知り合いのようだけど…?」
うっわ、何の自己紹介もせんと食い散らかしてたんか、このおっさん。
ジオールおばさん、おっさんの迫力とキエラが知り合いな様なんで、何も訊かずに朝飯を出してくれていたようだ。
横合いからこっそり俺に、おっさんの事を訊いてきた。
いや、ホントにすんまへん。
…あれ?なんで俺が謝ってる流れになってんの?
「む?…おおっ!
いや、すまんすまん。
女将、まだ名乗りもしておらんだったな!
これは失礼をした。」
「あ、い、いえいえ!そんなことは…。」
「昔は俺も、もう少し顔が知れ渡っておったのでな、誰もが俺の事を知ってるアタマでいた!
そのクセがまだ抜けておらんかったようだ、許せ。」
「は、はあ…。」
おばさんとの会話が聞こえてしまったようで、おっさんが話に割り込んできた。
…つか、おっさん、どう名乗るつもりなんだ?
まさか、実名を言うんじゃねーだろ…
「我が名はアグーザン、元【戦乱神】で今は【破壊神】だ。」
いつも読んで頂いてありがとうございます!
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