アンデットとの戦いⅨ
お待たせいたしました。
今回はキエラさんの活躍回です。
「シュッウッ?!
もう追い付いてキたカ!」
イベント内容の確認もそこそこに、逃げた"カオスリザードネグロス"を追って来たのだが、ヤツは壁面に向かい、何か探している様な行動をとっていた。
ここに来るまでも、先行していた"バンパイアバット"によって様子は判ってはいたんだけど、終止、ヤツは壁を叩いたりして、何かを探しているようだった。
…まるで出口を探している様に見えるんだけどな。
時折、シューシューとリザードマン語らしきもので毒づいていた?ようだったが、"ケイブリザードマン"の言葉は解らんので、何を言っていたのかは解らなかっ……って、俺、持ってるやん!
"ケイブリザードマン"、【カード一覧】にいるじゃん!
こいつに通訳してもらったら良かったんじゃん!
…しまった、すっかりゲットしてたの忘れてたわー(遠い目)。
ん、まあいい、済んだことは忘れよう(笑)。
―で、今に至る訳です。
「シューシュ、シュ!
そレ以上、近づくナッ!
こいつガ、どうなってモいいのカッ?!」
人質をとってる奴が一番言いそうなセリフを吐きつつ、"カオスリザードネグロス"は、自分の前に盾にする様に女の子を突き出してきた!
「ちいっ!」
しかもコイツ、自分ではなく、2体の"スケルトンウォリアー"に、女の子を掴まえさせているのだ。
"スケルトンウォリアー"らは、片手で女の子の両肩をつかみ、もう片方の手に持つ剣の刃を、女の子の首筋に当てている!
ボロボロのローブを被っているから正確には判別し難いが、背格好からして女の子はまだ小学生になるかならないか位にみえる。
この位の歳の子なら、こんな状況になったら普通、泣くか、少なくとも恐怖に震えてそうなものだが、女の子はまるで心あらず…、というより感情の抜け落ちた無表情で、なすがままにされている…。
いったいどんな事があったんだろうか。
少なくともマトモなことで、あんな状態になるはずがない…。
……
………
……ちょおぉーと、俺、怒りを抑えきれそうにないんだけど?
「てめえ…、さっさとその子を離しやがれ!」
"カオスリザードネグロス"が女の子を捕らえてきたのかどうかは判らんが、無関係では無いだろう。
つか、子供の首筋に刃物を突き立てる時点で有罪だ!
しかし"カオスリザードネグロス"は、俺が怒ってるのを見て、口元をニヤリと曲げやがった。
「シュシュシュッー!
どうやラ、こいつは人質としテ使えルみたイだなアッ!
…アノ男め…、オレを見捨てやがっタが、いいものヲ残してくれたジャないカ!」
む、他にも仲間がいるのか?
いや、『見捨てた』とか言ってるから、もう逃げ出している?
そんな事を考えていると、"カオスリザードネグロス"は俺に向かって指さして吠える。
「お前!あノ、ふざけタ召喚をしようとした時点で、このガキの首ガ飛ブからナッ!」
ヤツは、俺のカードモンスターを警戒してるみたいだな。
まあ"クリスタルドラゴン"のスキルブレスを、目の前で見れば仕方もないだろうが。
ヤツには、まだ俺が1体も呼び出していないように見えるんだろうが、既に天井には"バンパイアバット"君が隠れているのだ。
それに、それだけではないのだよ?フフフのフ…。
怒りに任せてケンカを売って、危うくこのまま『皆』を突撃させてしまう所だったが、ヤツの反応を見て少し頭が冷えたわ。
ヒトの言葉を喋れるし、やはりヤツは頭がいいようだ。
敵を見るなり、襲ってくるしか能のないモンスターじゃないな。
―ここはやはりネゴシエーターにお願いしましょうか!
「という訳で、せんせー、お願いしやす!」
「…あの~、何度も言うようですが~、本当に~私でいいんですか~?」
キエラが不安そうに俺に聞いてくる。
「もちろん!
キエラが適任なんだ!
いや!というか、キエラしかこの役は任せられない!」
しっかり彼女の目を見て、自信を込めて言い放つ(ここ重要!)。
「そこまで私を信頼してくれるなんて~。
…わかりました~。
私も奥さんとして~、頑張ります~!」
「いや、奥さん云々(うんぬん)は要らないよ?」
キエラは俺の言葉は完全にスルーして、ふんすっ!ってな感じに気合いを入れながら、"カオスリザードネグロス"の方に近付いていく。
彼女を守るために、彼女の影には"アサシンシャドウ"を潜ませている。
"カオスリザードネグロス"も、その存在には気付いていないようだな。
「あの~…。」
「な、ナんだ!貴様ハッ!」
「ええと~、まずはご挨拶から~。
こんにちは~、…あ、もう時間からしたら~、こんばんわですか~?」
「…ハ?
な、なニ…?」
「やっぱり洞くつの中だと~、時間がよく分からなくなってしまいます~。
あ、モンスターさんは~、ずっとここに居るから~、分かっちゃったりするんですか~?」
「い、いヤ、何を言っていル…?
何者ダ、お前ハ?」
うんうん、"カオスリザードネグロス"のヤツ、キエラの空気を読まないホンワカさんに、すっかりペースを崩されているな。
「あ、申し遅れました~。
私~勇者さまの奥さんのひとりで~、アル…じゃない、キエラと申します~。」
「イや、そんな事ハ聞いテいなイ…。」
「…ウフフ~、『勇者さまの奥さん』って言うと~なんだか~、ムズムズポカポカってするんです~、どうしてなんでしょ~?
ねえ、モンスターさんは何故だか~解りますか~?」
「知るカッ!
それよリ、こちらノ話をきケッ!」
……うーん、なんというペースブレイカーっぷり!
普段、あんまし前に出てこないこのメガネウサギっ娘、彼女に交渉を任すとこうなるのか…。
いや、期待以上の働きぶりですよ、グッジョブ!
いやもうお陰で『準備』の時間は充分稼げたんだが…、うん、面白いんで、もうちょっと見ていてよう!
「き、キさまは、オレさまをバ、バカにしていルのカッ?!」
「ああ~そんな~!違いますよ~。
私~、いつもこんな感じで~、皆さんにご迷惑をかけてるんです~。
モンスターさんにも~、イライラさせてご免なさいね~?」
キエラ、そう言って深々と頭を下げる。
「な、ナんなのダ、こいつハ…?」
敵の攻撃範囲内で完全に視界から外し、しかも最も危険な後頭部をさらけ出す。
こんな無防備な姿に、"カオスリザードネグロス"君は、またもや毒気を抜かれてしまっている。
「あ~!」
「な、なんダッ?」
「いつまでも『モンスターさん』じゃあ~失礼ですね~。
よろしかったら、お名前を伺ってもよろしいですか~?」
「…………《短い舌》ダ…。」
「短い舌さんですか~!私のことも、キエラとお呼び下さいね~。
よろしくお願いしますね~。」
「……。」
おおっ?こ、固有名があったのか?!
カーソル表示には出て無かったのに?
つーか、よく名前を言ったな!
確かこういったネゴシエーションで相手と名前で言い合うのは、交渉の第1段階を突破しているんじゃなかったっけ?
キエラって、いつの間にこんな見事な交渉術を、…って分かってやってねーか…。
キエラ、おそろしい子っ!
「それでですね~、短い舌さん~。
よかったら、私と~その子を~、交換しませんか~?」
「…なニ?…お前ガ、人質になルと言うのカ?」
「はい~、そうです~!」
ちょっ?!キエラさん?
なに提案してるんすかっ?!
つーか、『人質交換』なんて更なるハイテクニックをどこで覚えたんだ…って、考えてみたら、彼女、本来は天界の神様なんだよなー。
女神ウルティナ樣も、『緊張しなければ、できるコなんえー!』って、そういや言ってたわ。
普段は、ぽやぽや天然さん&ドジッ娘オーラ全開なんで忘れがちなんだけど、本来はかなり優秀な人(神)なんだよね。
「見ず知らずの~子供より~、勇者さまの奥さん、…ウフフ~!(ここでクネクネ身をよじる)…の方が~、人質として価値があると思いませんか~?」
「……なるほドナ…。」
「いち~、にの~、さんっで~、私と~その子を入れ替えるんです~。
いかがですか~?」
「…………。」
"カオスリザードネグロス"は、しばらく考えていた様子を見せていたが、ニヤリと口元を曲げたあと、ひとつ頷いた。
「イいだろう、お前の提案、ウけてやル!
合図とトもに、こっちハ人質を手放ス。
どうジに、お前ハこっちに来イ!
あト、ぶキは全て外セ!」
…うっはー、わっかりやすっ!
"カオスリザードネグロス"のヤツ、いかにも悪巧みしてます、って顔してますよ。
こりゃ、『ばかめ!人質は手放すフリだけして、あの女も捕まえてやるわ!』みたいなノリか。
いや、分かりすぎやろ。
お前、顔に出すぎやで…。
なんつーか"カオスリザードネグロス"は、モンスターとしては頭はいいかもしれんが、すごい小者臭がしてきた。
「ねえちょっと!
彼女、あんなこと言ってるけど大丈夫なの?!」
エトワが心配してきたが問題ない。
彼女には、"アサシンシャドウ"の護衛以外にも保険をかけてある。
「(コソッ)だがアレ、どう見たってこっちを騙す気だぞ?」
ガールゥも、"カオスリザードネグロス"がなんか企んでるのがわかってる…って言うより、ここにいる全員にバレてるよね!
あんなヤツが"教会の間"を襲って、手練れの冒険者達をピンチに陥れたのか?
うーん、やはり逃げたヤツとやらが首謀者なのかねえ…。
「ああ、大丈夫!
キエラには傷ひとつつかない様な準備がしてある。
つか、騙されたフリしてキエラが捕まった方が、あの子が安全になるだろ?」
「ま、まあたしかにそうだけどニャ…。」
皆には『計画』の段取りは伝えてある。
とは言え、実はキエラが人質になるなんて予定では無かったんだよねー。
つまり今、キエラが人質交換なんぞと言ってるのは、完全に彼女アドリブ、…つーか、はりきり過ぎての暴走状態なのである!(笑)
まあ皆が心配するのももっともだ。
でも最悪、全ての『保険』がダメになっても、俺が飛び出して盾になればいいだけだ。
「じゃ、じゃあ~、行きますね~!
いち~、にい~、さん~!」
こっちの心配なんぞ全く意に介さず、キエラはズンドコ話を進めていく。
それに合わせて、"スケルトンウォリアー"らが女の子の首筋から刃をどかし、突き押す様に前に出てくる。
キエラも緊張した顔つきで、一歩、二歩と前へ進む…。
彼女と"スケルトンウォリアー"共との距離が、数mまで縮まる…。
―あっやべ…、『キエラ』が『緊張』している?
「いまダッ!やレ!」
「―むぎゃっ?!」
"カオスリザードネグロス"の号令のもと、"スケルトンウォリアー"がキエラを捕らえようとするのと…。
緊張でドジッ娘力が上昇し、何もない所で、キエラがものの見事にズッコケたのが同時であった…。
―結果、キエラを捕まえてようとした"スケルトンウォリアー"の腕を、彼女がまるで華麗に回避したかのような図ができあがった。
…ただしそのあと、顔から地面に突っ込んで、ピクついているキエラさんがいるんだが。
「…………。」
「…………。」
なんとなーく微妙な沈黙が、場を支配した。
いつも読んで頂いてありがとうございます!
もし面白いと思って頂けたら、下の『勝手にランキング』をポチっとお願い致します!




