イギス村救出戦
「じゃあ、村の方はお願いするね。」
「は、はいっ!
ゆ、勇者さまも、お、お気をつけて下さいっ!」
「いやだから、勇者は止めてーな…。」
そう言うキュールちゃんの腕には"アルラウネ"がおり、側には"カラドリオスアデプト"がホバリング状態で待機している。
キュールちゃん自身も"パイログリフォン"から離れ、俺の前で羽ばたいている。
―休憩を一度したあとはかっ飛ばしまくり、なんとその日の夕方には到着してしまった訳だが、村の上空数㎞まで近付いた所で、俺達ははやる気持ちを抑えて、"ビーファイター"による先行偵察をおこなった。
これにより、まず村人にまだ死者はでていなかった事が判り、キュールちゃんと俺ともども一先ず胸を撫で下ろした。
しかし、村人の半数近くが大なり小なり怪我を負っており、一番ダメージを受けている人では防御値が半分をきっていた。
それもその人は、どうやらキュールちゃんのお父さんのようだ。
一方、敵の方は、数が42体に増えており、キュールちゃんが脱出してから増援か伏兵がいたようだ。
内訳はLv 5~7の"オーク"が31体、Lv 11の"オーク"が2体おり、コイツらが大まかに部隊を2つに分け、村の両側から攻撃を仕掛けている。
それ以外にLv 5の"オークアーチャー"が6体いて、コイツらが火矢を射かけて、村の建物に火災を生じさせている。
"オークアーチャー"はレアリティーがNの、"オーク"の派生タイプで、名前の通り弓矢での射撃を得意とするモンスターだ。
残りの3体のうち1体が、イベント情報にあったボスモンスターの"オークリーダー"だ。
そしてその"オークリーダー"の左右に、"オーク"が【進化】した"オークウォリアー"が控えている。
オークウォリアー HN Lv 8
(妖魔族/土属性/cost 8)
AT:3,487/3,170
DT:1,520/1,520
【ブッチャードソード】
【ブッチャードソード】は【スラッシュⅠ】と同じ直接ダメージを与えるスキルで、【スラッシュⅠ】のようにランクアップはしない分、【スラッシュⅠ】より攻撃力は高い。
またボスモンスターのスキル【デマンドオークⅠ】は、このスキルを持つモンスターがリーダーでいるとき、種族が妖魔族で名称に"オーク"が付いている仲間の攻撃力を、1.1倍に増加させる効果を常時発動しているスキルだ。
実際、敵の"オーク"のスキルを確認すると、全"オーク"達の攻撃力が上がっている。
このボスと"オークウォリアー"は高見の見物よろしく、少し離れた岩場に座り、戦闘には加わっていない。
村は6軒ばかりの丸太小屋が集まった集落だ。
村の周りは、先を尖らせた丸太による柵で囲ってはいるが、見た感じ、それほど堅牢という風には見えない。
俺が転生して初めて立ち寄った村(なんて名前だっけか)に比べれば、はるかに貧弱だ。
村の西側は川が流れていて、"オーク"は南北の両側から挟み込むように、村の外柵にとりつき、攻撃をしかけていた。
今は拮抗しているが、村一番の戦力である、キュールちゃんのお父さんが倒されたり、"オークリーダー"達が戦いに加われば、容易く均衡は崩れるだろう。
ふん!
"オークリーダー"達がナメてかかって、戦列に参加していないのは好都合だ。
ヤツらがボケっとしている間に、配下の"オーク"どもを殲滅させてやる!
俺は手筈通り、まず"デーモン""フェンサースプライト"を新たに呼び出す。
この2体で、村の南側に取りついている"オーク"を蹴散らしてもらおう。
俺は"パイログリフォン"と、北側のヤツらだ!
「ほんじゃまあ、とっつげきぃっ~!!」
"パイログリフォン""デーモン""フェンサースプライト"が、真下の村に向けて急降下を開始する!
―ってゆうか、おぎゃあああっ!!
当然、"パイログリフォン"の背に乗っている俺も、その急降下に付き合っているわけだがっ!
ほぎゃああっ!
高度数1,000mからのフリーフォールというかっ、バンジージャンプというかっ!
こ~わ~す~ぎ~る~~!!
ひいぃー!
地上がみるみる近付いてくるぅー!
タシケテ~!!
たぶん1分もなかったのだろうが、俺には気を失いそうなくらい(ホントにヤバかった)長く感じた。
少しチビったかもしれん。
急降下は突然、地上100m程の高さで終わった。
"パイログリフォン"は大きく翼を広げ、急制動をかける。
あー怖かった!
こんなに怖いとは思わんかったわっ!
「よよよーし!
い、いっちょカマしたりぇっ!」
「りょうかイ!」
ビビって舌も空回り気味の俺の合図で、"パイログリフォン"の額にあるクリスタルが真っ赤に輝きだす!
「カアアアアッッ!」
―ドウッ!
口角をカパッと広げたクチバシから、等身大の巨大な火球が、地上にいるLv11の"オーク"に向け放たれた!
地上の"オーク"どもは、何がおきているのか解らず、呆然としている!
―ドグアアッ!!
「グヒ…」
ほとんど断末魔の声をあげる事も出来ずに、Lv11の"オーク"とその周辺にいた"オーク"や"オークアーチャー"が消滅してゆく。
また火球の直撃から外れたヤツらも、火球から延焼してきた炎で火だるまになる。
見たかっ!
これが【パイロブレス】だっ!
…あ、飛び火した炎が、一部村の外柵まで燃やしてしまった…。
―ゴメンナサイッ!後で直しますぅ~!
心の中で謝りつつ、"パイログリフォン"を地上に降下させる。
その際に火だるまになって瀕死の"オーク"を、1体踏み潰す。
またその瞬間、俺達の背後から、魔法の光が発するのを感じる。
振り返らなくても解る。
"デーモン"の【水魔法/中級】にある【フリーズⅠ】と、"フェンサースプライト"の【風魔法/中級】のひとつ【サンダーⅠ】の魔法光だ!
2体のダブル広域魔法で南側の"オーク"どもも、ほぼ全滅状態となる。
"パイログリフォン""デーモン""フェンサースプライト"達に、残党の掃討を指示して、俺は"パイログリフォン"の背から飛び降りる。
そしてそのままダッシュ!
目標は、アゴが外れた様に大口を開けたままで固まっている、"オークリーダー"どもだっ!
"オークリーダー"も俺が近付いて来るのを見て、我に帰ったようだ。
両脇にいる"オークウォリアー"を、俺に向かわせるように命じだした。―が、遅えっ!
走りながら前方に、"キラーマンティス"を呼び出す。
現れた"キラーマンティス"に先行させる。
さあお次も初公開だ!見て驚け!
今度は俺の真下から呼び出してみよう!
【カード一覧】から選んだ一枚を、前面にセット!
今までのカードモンスターの中で最大の魔法陣が、俺の足元を中心に広がる。
魔法陣から浮かび上がってくる"モノ"に、俺は押し上げられていく。
魔法陣からは深紅とオレンジという極彩色に彩られた鱗…、いやコレもう鎧といってもいいだろう…、を纏った巨大なドラゴンが現れた!
―くはー!実物の"ドラゴン"っすよ!
【天輝竜】を呼び出した時の感動を思い出すねっ!
ヤッパ、ドラゴンはカッコエエわー!
体長はもしかしたら、【天輝竜】"プラチナドラゴン"並にあるかもしれない。
基本、"ドレイク"種はデカいやつが多いのだ。
そいつの背に乗る格好になった俺は、そのまま指示をだす。
「初舞台だ!イッキにいったれ、"ファイアドレイク"!」
「心得た…我が主よ…。」
"ファイアドレイク"はその場で一旦止まり、四肢に力を込めるモーションをとる。
「GUGHAAAAーー!!」
"ファイアドレイク"の大きなアギトから、とんでもない音量の咆哮が放たれる!
途端にボスモンスターの"オークリーダー"まで含めた全ての"オーク"どもに"混乱"や"恐慌"のバッドステータスが付きまくる!
"ドラゴン"種の【ブレス】と並ぶお得意技、【ドラゴンハウルⅠ】である!
文字通り、"竜の咆哮"であるが、この咆哮を聞いた敵は"混乱"や"恐慌"をきたしてしまうのだ。
だが【ドラゴンハウルⅠ】の効果は、それだけに留まらない。
同時に味方の竜鱗族のAT とDT値を、3ターンの間、1.1倍アップさせるのだ!
―更にスゴいのは、このスキルは重複が可能なのだ!
1チーム全てが"ドラゴン"種で、一度に全員が【ドラゴンハウルⅠ】を使えば、イッキに攻撃力と防御力が七割アップする。
しかもこのスキルはⅢまでランクアップするのだが、ランクアップする度に上昇率も上がっていくという凶悪スキルだ!
くそう!いつか"ドラゴン"種だけのチームを編成したいなあ!
"ドラゴン"をズラっと並べて一斉咆哮とか、一斉ブレス射撃とか燃え過ぎるだろ!
ゲームの時にその編成はしたことはあったが、現実での迫力はどれくらいのモンだろうか!
そんな妄想に浸っている間に、"キラーマンティス"が"オークウォリアー"の片割れを一刀両断にする。
スパンッ!という擬音が聞こえてきそうな程の一撃だ。
もう1体の"オークウォリアー"("混乱"中)も、"ファイアドレイク"による前脚の一撃で、光の粒子となって消えた。
最期に残った"オークリーダー"も"恐慌"状態に陥っており、イベントボス戦だというのに、"キラーマンティス"の【スラッシュⅡ】(前の戦いでランクアップしている)と、"ファイアドレイク"の噛みつき攻撃で呆気なく倒してしまった。
"ファイアドレイク"の【ファイアブレス】も試してみたかったのだが、射線上の先に森があったので、万が一、森林火災とかなるとコワイから、次の機会までとっておく事にした。
《EVENT BATTLE END》
《YOU WIN!》
勝利画面の後に、戦闘報酬がスクロールされてくる。
イギス村の救出イベントは、戦闘開始からわずか10分程度で終了したのだった…。




