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勇者の詩(笑)

これより語るは(いさお)しの詩

(いにしえ)が勇者の現在(いま)の話

月の女神に愛されし勇者の話


勇者は悩む(おの)(みち)

友か見知らぬ多数の命か

それとも己れの命を採るべきか


戦の巫女は勇者に問う、いずれの命を救うかを

勇者は全てを救うと神に誓う

乙女の清き涙に誓う


向かうは人喰い火竜の元へ


これは勇者の物語

魔物を操る不思議な勇者の物語


「も…、もうヤメテ…。」

俺のMPはゼロよ…。


普段よりも低いテノールボイスで、朗々と歌ってくれるガールゥ。

その技量は、吟遊詩人の歌なんか知らない俺でも、コレ金取れるんじゃね?と思わせるレベルだ。

くそっ!イケメンは歌も上手いのかっ!


で、それを聴かされていた俺はというと、床でピクピクしていた。

それはもお、聖歌を聴かされているゾンビのようだった。


「だ、大丈夫かい…?」

ジオールおばさんが、俺を気遣ってくれた。

だが顔は真っ赤で、笑いを堪えるのに必死でプルプルしている。


「こ、この歌がパーミルで…?」

「もう街角でガンガン歌ってるっすよ!

いまパーミルじゃあ、一番人気っす!

兄貴、聴いたこと無かったんすか?」


いや…、パーミル城から帰って来てから1週間、毎日が忙しくて、ウチから一歩も出て無かったわ。


だいたいの食材は朝に御用聞きの人が、伺いに来てくれるし、それ以外の細々したのは、ミール達が買い出しに行って、俺はその間に店でおばさんと仕込みや掃除といった準備をしていたのだ。


…あれ?街角でガンガンってことなら、ミール達は聴いたことあるんじゃね?


不審に思って、ミールを見てみる。

するとミールはついと、視線を逸らす。

キエラさんの方を向いて見ると、同じように目線を合わそうとしない。


「…うぉい。」

「だ、だってウチらも最初、キミの歌だなんて思わなかったニャ!」

「は、はい~、なんかこの歌、流行ってますね~って、話してたんですよ~?」


まあ確かにコレを聞いて、俺の事だとは思わんわな。

大筋の内容は、合ってるようにも思えるが(モンスターがドラゴンになってるけど)…。

ナニこの、美化200%なのはっ?!

誰だよ、この恥ずかしいヤツはっ!?


…もぉーやだよぉー!

ボク、もうお外に出れないよぉー!

くそぉっー!いっそのこと、夜逃げするかっ!?


それとも一生この家から一歩も外に出ない、NEETな生き方はどうだろう?!

幸い、今までで稼いだ金で、かなり長い期間食っていけるだろうし。

ネット環境が無いのがくるしいが、周りには美少女が居てくれるし、話し相手なら【フレンド会話】で天界のコらと話が出来るだろうし…。

あっ!そうかっ!

おばさんの店を、厨房でずっと手伝ってればいいじゃん!

それなら誰にも会わなくて済むし…。

フフフ…、そうしよう…。

そうして生きていこう…フフフ…。


「あの…、兄貴の目がヤバイようなんすけど…?」

なんかファーガ達がドン引きしている。

「ああもうっ、しっかりおしっ!」

おばさんが、ドバンと煤けている俺の背中を叩く。


「だいたい話は変に広まってるけど、アンタの顔はまだそんなに知れ渡ってないんだろう?

だったらお面か何かで顔を隠しゃあ、それほどバレることもないだろうよ!」

「…………ほんとに?」

「ほ、ほんと!ほんとニャ!」

「ええ、大丈夫ですよ~!」

なんか皆して、必死にフォローしてくれているようだが…。


…そうか、そうだよなっ!

考えてみれば、パーミルは冒険者の割合が非常に多い街だ。

そのためフルフェイスの鎧戦士やフードを目深に被った怪しい魔法使い、変なお面を被ったヤツなんかが平然と闊歩している。


そんな中で、顔を隠したヤツがひとり増えても、別段おかしくねーよなっ!

よしっ!

コレで勝つる!


おばさんの助言で、すっかりダークサイドから復活した俺は、再びファーガ達について訊ねた。

「じゃあ、けっこう儲かったんだ。

なら先ずはもっといい装備を整えるか?

なんなら、いい武器屋紹介しちゃるよ?」

―うむ、エルフ職人のシュリーさんに、お得意さんを増やすチャンスだ!


しかし俺のテンションに、いまいちパッとしない表情をするファーガ達。

「兄貴…、おれ達、皆で話あったんす。

兄貴に命を救ってもらって、何もお礼が出来て…」

「いらねー!」

「ま、まだ全部言ってないっすよっ?」

「んなモン、だいたい判るわ!

どーせ、お前らの報酬を渡すとか言う気だったんだろがっ?!」

「ま、まあそうなんすけど…。」

「だからいらねー!」


『い、いや、でも…。』と言って食い下がるファーガやガールゥに言ってやる。

俺は既に(イベント報酬なんかで)充分に報酬を手にしてるし、だいたいお前らを助けるのに見返りが欲しくてやってねーつの!

単に見知ったヤツがヤバそうで、なんとかなりそうだったから、助けただけなのっ!

ムリっぽかったら、助けてねーし!


「あ、兄貴…。」


だー!なんかウルウルした目でこっちを見るなっつーの!

ヤローのビースト族に見つめられても、キモいだけですっ!

なんかミール達は、ナマ温かーい目でこっちをみてるし!


俺はこの居心地の悪い空気を変えるべく、パァン!と一発柏手を打った。

「はいっ!

そーゆー訳で、この話はおしまーい!

…んで?

おまいら、次、いつ"北への大トンネル"アタックすんの?」


流れを変えようと、話をファーガに振るが、それに対してファーガは寂しそうに笑った。

「スンマセン、おれ達、パーティー解散する事にしたんす。」


―続けて説明してくれたガールゥによると、戦士2人組(兄弟だった)のバーンガとバルーガ、狩人のグウルーが故郷の村に帰ることにしたらしい。


…先の"パイログリフォン"との戦いで、冒険者として限界を感じたんだそうだ。

3人は悔しそうな、そしてファーガ達に申し訳なさそうな視線を向けている。

それに対してファーガは少し寂しそうだが、吹っ切れた微笑で返している。


彼らは小作農の三男、四男ばかりで、本来なら帰っても働き口がある訳ではない。

しかし今回の報酬で、自分達が食っていける位の農地が買えるらしく、それが冒険者を辞めるきっかけになったのだ。


―俺は別段、彼らの決断が、間違っているとは思わない。

どう考えても冒険者なんか、命懸けの危険な商売だ。

仲間を見捨てるように感じるかもしれないが、やはり自分の人生だ。

最後は自分の事を考えてないと、と俺は思う。


ファーガやガールゥも、納得はしてるんだろう。

でなかったら、一緒にここに来るはずがないよね。


そのファーガとガールゥだが、コイツらはまだ冒険者としてやっていくつもりらしい。


2人とも幼い頃に両親を亡くしており、親類もこれといっていないらしく、幼少期は、村ではかなり肩身の狭い生活をしていたようだ。

お互い精霊魔法と神聖魔法の才能を開花させ、村での立場は向上したが、それでも閉鎖的な村人が、彼らを見る目はあまり変わらなかったみたいだ。


―あとレオーナちゃんの存在がある。

彼女は前にも聞いたが、村では巫女みたいなの家系のコで、村長に次ぐ重要な家の人間だ。

その彼女の出奔は、どうやら村ではガールゥと駆け落ちしたと思われているようだ。


…まあコレに関しては、俺も否定出来ないと思うんすけどぉ?

レオーナちゃん、どう考えてもお前を追いかけて来たと思うんすけどぉ?

やはりリア充は、ばくはつすべきだっ!


…えーと、ちょっと脱線したけど、そーゆー理由からガールゥなんか村に帰ったら、村人に難癖つけられる可能性が大なのだ。

村から連れ戻しに来ないだけマシというものだ。


「んじゃあ、お前らこれからどうすんの?」

俺はファーガとガールゥに、今後の事を訊いてみた。

「…とりあえず日雇いの仕事をこなしながら、新しい仲間をさがすつもりです…。」


うーむ、まあ直ぐに仲間が集まるとは思えんしなー。

……

「お前ら、俺とパーティー組む気ある?」

「ほっ、ほんとうっすかっ?!」

「ああ、だけど、俺と組むとカードモンスター…えーと、俺の魔物達との混成パーティーだよ?

大丈夫か?」

「も、もちろんっす!

なあ?ガールゥも大丈夫だろっ?」

「ああ、それはいいんだが、…本当におれ達でいいんですか?

貴方なら、どんな優秀な人達とでも、組んでもらえると思いますが?

―それとも同情でですか?」


「まあぶっちゃけ、そういった感情が無いっちゃ嘘になるんだけど…。」

「なら…!」

「でも、それだけじゃあ無いのも確かなんだわ。」

「え?」


先の"パイログリフォン"戦で、ギルマスやエザク達のギルドトップチームと一緒に戦ってみて分かった事がある。

それは彼らの戦い方が、完成されているということだ。


だから急編成なカードモンスターとの混成チームでも、なんとか戦うことが出来た。

だがそれは言ってみれば、お互いが好き勝手にやっているようなものなのだ。

ギルマス達はそれが高いレベルで出来たから、問題が無かっただけで、果たして誰でもそれが出来るかというと、俺は難しいんじゃないかと思うんだ。


―それなら逆に、あまり戦闘経験を積んでいないうちから、カードモンスターとの連携を、積み重ねていったらどうだろうと考えたのだ。

…もちろん、ヤッパリ出来ない可能性も大だ。

でもやってみる価値はあるかなと思う。


ミールやキエラさん以外に、ヒト(つまりカードモンスター以外)のパーティーメンバーを、増やすつもりではいたのだ。

それは俺のアルカナマスターという力では、どうやっても最大戦力が7体までという問題のためだ。


"アーザンズスポーン"や"パイログリフォン"のような、俺のカードチームだけでは手に負えないボスモンスターが、これからも現れる可能性はある。

そんな時、今までのようにダイトさんやネスフさん、ギルマスみたいな助っ人がいつもいるとは限らないし、【応援要請】だってイマイチまだ信用度が無いしな。


「…つまりおれ達は、貴方の実験に付き合わされる訳ですか。」

「うーん、まあ、そうなる…かな?

ダメか?」

俺のぶっちゃけちゃった言葉に、ガールゥが少し皮肉っぽく笑う。

だがあまり陰にはこもっていない笑いに、俺は思えた。


「ハハハ、そうはっきり言ってもらう方が助かります。

…すいません、ではこれからも宜しくお願いします。」

そう言って、頭をさげるガールゥ。

うむ、こういう常識人(ツッコミ役とも言う)は、ひとりは必要だね、イケメンだけどっ!


「兄貴っ!

おれもっ!おれもよろしくっす!」

「その前に『兄貴』やめろっ!」

「いやっす!」


―あと、この『不思議な勇者の詩』は5番まであるそうです(吐血)!

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