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三匹の居候

「たっだいまー!

って、うおおっー!内装はこうなりましたか!」

"デスナイト"達、一部のカードモンスターをパーミル城に残し、ボッチャン騎士団の"特訓"に付き合わせて、俺は我が家に帰ってきた。


唐突だが、家のリフォーム状況を説明しよう!


まずは玄関脇に掲げられている看板だ。

これは例の姫さんプレゼンツ、『姫様推薦亭』の名前が入った円形看板が掛けられている。

姫さんのドリル横顔が燦然と昼の光を受け、輝いている。


その看板の下に同じ位の大きさで、熊がノッシノッシと歩いている姿を形どった、黒い木製看板が繋がっている。

言わずもがな、ジオールおばさんの旦那さんが、形見に残したペンダントを元に作られた物だ。


この二つの大きな看板で、通りのかなり向こうからでも『何か店があるな』というのが判る。


こっちの世界のお店って、店構えは普通の住居と変わらないのがほとんどだから、看板が小さいとホントすぐ近くまで近寄らないと判らないのが多い。

―ヤッパPRって、大事だと思う!


石段を二段上がって観音開きの扉を開けると、もう見馴れたおばさんのお店である、食堂のフロアになるが、大きく改修された所がひとつある。


それは二階部分で、階段を上がった所を部屋ひとつ分まるまるぶっ壊して、食堂の二階席としたことだ。


テーブル席が二つ位の広さだが、こっちは普段は使わず、基本はVIP席として、または繁盛時のみと考えている。


一階はカウンターと中央に大テーブル、それに左右の壁ぎわに四人がけの中テーブルが四つで一杯だ。


あとその壁ぎわには、幅30cm程の棚のようなものが、奥の方から手前のテーブルまで取り付けられている。

…これについてはまた後程説明しよう。

まあ使ってみないと、本当に出来るのか判らないトコがあるしな。


あと変わった所というと、お店の各所に、黒熊くんのオブジェが大小、取り付けられている点だ。

例えば階段の手摺の端であったり、大テーブルの真ん中にあったりと様々な所に付けられている。


これは後で知ったのだが、オマケに黒熊を形どった焼きゴテまであって、これを熱く熱して食器(この世界の一般的な食器は木製だ)にジュッ!とすることで、―あら素敵!あっという間に、当店オリジナルの黒熊印食器の出来上がり!となる。


もちろんこれらの黒熊アイテムは全て、セレアル姫さんによるご祝儀だ。

今回は、パーミル公爵御用達の木工職人達による(焼きゴテ以外)ものだ。

…つーか、これだけの物を、たかが数日で作れるモンなのか?

また姫さんが、ムリムリな注文をしたような気がしてならない…。


兎に角、これでいつでもオープン出来るようになった訳だ。

メニューも最初から多くせず、お客さんの数やおばさんの慣れ次第で、順次増やしてゆくつもりだ。


「おかえり!

…またアンタは無茶したようだね!

あたしも心配したんだよ?」

「…すいませんでした。」

「まあいいさ!

ちゃんとアンタは、帰ってきたんだからね!」

ミールやキエラさん、マーシャちゃんにジオールおばさんの一同が、俺を迎えに出てきてくれた。

おばさんは一言文句を言ったあと、俺をその豊かな身体で抱き締めてくれた。


…うん、確かに今回はファーガ達の命がかかっていたとはいえ、無茶なことだったかもしれん。

これからは、なるべく無難な生き方をしよう。

己の命をかけて、人々を救う勇者さまな生活は、どー考えても俺のガラじゃないしねっ!


「おかえりなさい、おにーちゃん!

―えっ?えっー!

その後ろの子達ってなにっ?!」

マーシャちゃんのお目当ては、俺の頭上を飛んでいる仔"グリフォン"だったはずだが、俺の足元のうしろにおずおずと隠れている"ウルティナトルーパー"達を見付けて、興味がイッキにそちらに向いてしまったようだ。


俺はこのコらの経緯(いきさつ)を説明して、これからウチで住んでもいいか、一応皆に訊いてみた。

「「「ど、どうか、よろしくお願いしますデス!(コーン・ケーン・ペコリ)」」」


「…なんとまあ!

ウルティナ様の従者の方々とはねえ!

でもそんな方々と私達が、一緒に住んで構わないのかい?

なんだか畏れ多いような気が…。」


おばさんは、女神様に関係している者という説明に、少し畏れを抱いたようだった。

まあ信心深いこの世界のひとなら、神様に直接列(つら)なる者との同居なんて当然だろうな。

一方、そう言われて、ここに居られないと思った"ウルティナトルーパー"達は慌てた。

「コ、コーン!そんなお気を使わないで下さいデス!

私達はご主人さまにお仕え出来れば、もう充分なんデス!」

「どうか、ここに置いて下さい!

ご主人のお世話をさせて下さいデス!ケーン!」

「(ペコペコ)…何でもする。」


「え?ご主人さまって?」

おばさんの問いに、三体が一斉に俺を見上げる。

「…アンタ…、神様の従者様に『ご主人さま』って呼ばせてるのかい…?」

「ハハハ…、"仮"っすよ、"仮"。

…どー言っても止めてくんないんすよ…。」

おばさんの『不敬な!』っていう視線に、乾いた笑いと死んだ魚の様な目をしながら応えた。


そう結局このコらは、いっくら止めて欲しいと言っても、俺をご主人さま呼ばわりするのを、止めてくれなかったのだ…(涙)。


「そ、そうかい…。」

おばさんは俺の顔を見て、ちょっと引いた様子だった。

でもお陰で、このコ達が家に居れるのは、なし崩しにOKとなった。


その後皆と挨拶を交わし、それぞれ自己紹介となったのだが…。

「へ?

キミら名前無いの?」

「(コクコク)…。」


彼らは通常、俺とカードモンスターとの絆に近い意識の共有を、"ウルティナトルーパー"間でしているようで、『個』という観念が薄いようなのだ。

神様達にしても、誰か一人に言えば他の全部に伝わるから、個人を特定する必要も無い訳で、わざわざ全ての"ウルティナトルーパー"に名前をつける手間が要らなかった。


それと今は天界にいる他の"ウルティナトルーパー"達とは、意識を交わすことが出来なくなっているらしい。


んー、しかし俺達ではそんな意識疎通は出来ないから、言葉で意思を伝えなきゃならんしなー。

ならばやはり、それぞれの名前を、仮にしても必要だろう。

「んじゃあ、『ウコン』に『ケンタ』、キミは『コックリ』という名前でどうかな?」

俺は三体をそれぞれ指差して、名前を付けてみた。

…うん、やはり俺は、パーミル公爵並にネーミングセンスねーな!


「コーン…『ウコン』。」

「ケンケン…『ケンタ』デスか…。」

「…『コックリ』(コクコク)。」


あ、やっぱりダメかなーと思ったが、お互いに名前を呼びあったりして、まんざらでもない様子だ。

「コンコン、私達に名前なんて、気恥ずかしいデスけど…、なんだか不思議な響きで素敵デス!」

「とても気に入りましたデス!ケーン!」

「(コクコク)…嬉しい。」


どうやら日本語発音の名前が、珍しいせいもあったのだろうか、気に入ってくれた。


―名前も決まって、改めて挨拶となり、ミールやマーシャちゃん(すっげー嬉しそうだった)、おばさんと挨拶をして、キエラさんの所であれっ?と思った。

なんでこのコら、俺なんかじゃなく、従属神であるキエラさんを頼らなかったんだ?


「ココンッー!?

アルキエラさまだったんデスかっ…モガモガッ!」

慌て口を塞いで、おばさん達には聞こえなかったようだが…。

え?キミら彼女がアルキエラさんだと気付かなかったの?

見た目、天界にいた時とそっくりじゃん!


そう思って、おばさん達に聞こえないように訊ねたら、どうやらこのコ達、あまりヒトの顔かたちの区別がつかないらしい。

天界でも彼らが区別をしていたのは、神様から発せられるオーラのようなもので判別していたとのこと。


よって今のアルキエラさんは、"アバターVer. "の肉体のため、そこから発せられるオーラも全く別人に彼らには見えるらしい。


いや俺もさあ、今になってキエラさんが天界の人なのを思い出したんだけど(笑)。

最近、ずっと一緒にいるから、彼女が神様だったの忘れがちなんだよね。


一方、キエラさんはなぜ気付かなかったかというと、今紹介されるまで、てっきり俺のカードモンスターだと思っていたそうなのだ!

よくよく考えてみると、ミールもキエラさんも、"パイログリフォン"の戦いを直接見てはいない。

ずっと後方で、ファーガ達と戦いに巻き込まれないよう、待機していたはずなのだ。

よってウルティナ様がやって来て、"ウルティナトルーパー"を召喚したのも見ていなかった、という訳だ。


結局キエラさんが見たのは、カードモンスターにくっついて戻ってきた"ウルティナトルーパー"達で、『ああ、また新しいカードモンスターを召喚したんだ』と思い込んじゃったらしい。


俺、"ウルティナトルーパー"、キエラさんと三者ともお間抜けな状態になってしまった訳だが…。

…はい!この中では、真っ先に気が着かねばならない俺が、一番ギルティーですよねっ!

スンマセン!

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