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パイログリフォン戦~反省Ⅰ

「知らないテンガイ…ってもうええわ…。」

目を覚ますと、もうすっかり見慣れた天蓋が見えた。

こりゃまたパーミル城の中だよなー。

つかこのパターン三度目だよね?

俺、ボス戦の度にやらかしてね?


部屋の中を見渡すと、今回は侍女さんは居ない。

あれ?もしかして毎度過ぎて、扱いがおざなりになってきてます?


「るー!」「きゅー!」「みっ!」「ピー!」

部屋にはいつものチミッコ三人娘が…って、なんかひとつ多い!


「ピー!」

パタパタと小さな羽音をさせながら、中型犬位の大きさの生き物が、顔の前に飛んでくる。

「ああ、そうだったよねー。」

そいつの頭を撫でてやると、嬉しそうにじゃれてきてとても可愛い。


―まあつまるところ、あの"パイログリフォン"のタマゴがひとつ孵化した、グリフォンの子供なんだけどね!


「どうしてこうなった…、って、ええ?3日以上も俺、昏睡してたの?」

「るっ!」

"アルラウネ"から思念で今までの様子を訊くと、なんと今日はあれから丸々3日を過ぎ、四日目のもう夕方なんだそうだ。


どうりで身体がフラフラしているはずだわ。

つーか、こんなに何日も飲まず食わずで大丈夫なの?俺。

「るー、るー!」

―どうやら侍女さん達が果汁入りの砂糖水みたいなモノなんかを、流し込んでいてくれたようだ。

あざーす!


「…でもこうなった原因は、やっぱアレのせいだろうな…。」


"パイログリフォン"の戦いを思い返す。

今回の事でひとつ重要な事が判ったのだ。


―当初は、けっこう作戦通りにイケてたんたよねー。

【パーフェクトガード】を使ってファーガ達を救出するのは、当初から考えていた事だ。

これはかなり上手くいった。


【パーフェクトガード】が効いている間に【パイロブレス】をよく観察出来たお陰で、ヤツがブレスを放つ時額のクリスタルが光り、そのあと一瞬の『溜め』があるのが解った。


ブレス自体はかなり高速なので回避は難しいが、その『溜め』を狙って攻撃を与え、ブレス攻撃をキャンセル出来る事が判明したのだ!

もちろんゲームの時は、そんな攻略法は出来なかった。


それと一番期待していた【応援要請】なんだけどねえ…。

まあ最終的には助かったんだけどねえ…。


―ゲームではこの【応援要請】、ボス戦の時にのみ使える機能で、【フレンド登録】した者が戦闘に応援に来てくれるのだ!


戦闘が始まるときに【応援要請】のキーを押すと、そ

の時点でログインしている【フレンド登録】者に応援依頼のメッセージが届く。

そして一番最初に応援に応じた者が、戦闘に駆けつけてくれる。

1チームの7体が応援に来るのではなく、そのチームのリーダー(7体の真ん中のヤツ)が応援に駆けつけるのだ。

この応援にはレベル制限は無いので、【フレンド登録】で自分よりはるかに高レベルの人がいて、そういった人が応援に来てくれると、自分では勝てない強いボスモンスターでも何とかなってしまうのだ。


だが"パイログリフォン"との戦闘開始直後、このキーを押したのだが、【フレンド登録】した天界の神様達が現れる様子は無かった。

事前にアルリエータさんに話を通してあるから、向こうではいまボス戦になったのはモニターしているはずだったんだが…。


アルリエータさんも、天界から現場にどの様に移動するのか全く解らないし、すぐ来れるかもぜんぜん解らないと言っていた。

ヘタをすれば戦闘が終わってから参上!(笑)という事態もありえるのだ。


実のところこの【応援要請】は、パーミルの人達が居ないボス戦で最初、試すつもりだっだ。

なんせもしかしたら、この前のような"降臨Ver. " でやって来るかもしれないのだ!

それどころか、もしかして天界でのそのままの状態、いわば"神様Ver. " みたいなのでやって来たら…。


もうボス戦なんぞ放っぽらかして、大パニック間違いなしである。


そう考えて、"アントクィーン"戦の時もバウリンがいたので【応援要請】はしなかったのだが、今回は色々と悠長なことを言ってられないので、どうなるか見切り発車で試すことにしたのだ。


そうした【応援要請】の結果はまた後にしよう。

…まあトンでもねーオチになってしまったんだけどねー…。


さて"パイログリフォン"をどうやって倒すか、ということになって一番の問題となったのが、ボスフロアの構造だ。


"ジャイアントバット"の音波探査によって、ボスフロアの造りはかなり詳細に解った。

その結果、ボスフロアはだいたいドーム状になっており、最大高で10m以上の高さがあった。

そして俺達が来た通路の反対側にも道があり、どうやらそちらから地上に出れるようだった。


問題となったのは、ボスフロアの高さだ。


"パイログリフォン"がフロアの天井の方へ飛び上がってしまうと、俺達の攻撃方法が限定されてしまう。

そこで何とか、地上に引き摺り降ろす作戦が必要だった。


んでもって思い付いたのが、ヤツのタマゴを人(卵)質にする事だ。

タマゴを盗って、通路の方に誘き寄せる。

通路は高い所でも3m程度だ。

充分、ほとんどのカードモンスターの攻撃が届く。

―それにタマゴを持っていれば、ヤツもタマゴを置いて逃げ出す可能性が低くなると踏んだのだ。

卑怯な作戦かもしれんが、なりふり構ってはおれん。

つか、別に正義の勇者様を気取る気など、サラサラ無いしね!


タマゴを盗み出すのは、割と簡単に成功した。

ことさらデカいカードモンスターを呼び出して、そちらに"パイログリフォン"の意識を向けかけているうち、"アルラウネ"でかっぱらった。


タマゴはオレンジ色をした石がサークル状に囲ってある中に(サークルの中はなぜかかなり温かかった)なんと3つもあり、ひとつひとつが1m近いおっきなモノだったので、"アルラウネ"もひとつしか持ち出せなかったのだが、それに"パイログリフォン"はすぐに気付いた。


ヤツは"ヒルジャイアント"達から目標を"アルラウネ"に変えたが、俺と"アルラウネ"でまるでラクビーのようにタマゴをパスしあって"パイログリフォン"の追撃をかわし、奥の通路に飛び込んだ。


通路では予想通りヤツは飛ぶことが出来ず走って追ってきたが、前脚がトリで後ろ脚がライオンの四肢ではあまり駆けるのが得意ではなかったようだ。

飛んでいる時の素早さと比べて随分遅く、追い付かれる心配は無かった。


―このへんで【パーフェクトガード】の効果が切れ、さあ戦闘だ!となった訳だが…、やはり"パイログリフォン"は強かった!


こっちは最強チーム―"デスナイト""ブラックナイト"×2"アントクィーン""アントジェネラル""キラーマンティス""デーモン"の布陣で最初、突撃をかました。


今回のボス戦は数値が表示されず、防御値のバーが出るタイプだったのだが、"デスナイト"の【ダークスラッシュⅡ】を受けても一割もバーのゲージは減らなかった。

逆に"パイログリフォン"の前脚による一撃を食らい、"キラーマンティス"が壁まで吹き飛ばされ、ダメージは10,000を越えた。


なにせ大して避けるスペースも無い所だ。

お互いに盛大な殴りあいとなった。


こっちは攻撃を受けると、ほぼ一発で瀕死状態だ。

実際、【パワー&ガードⅢ】等のバフ効果がなければ、まともに戦える事すら出来ない。

クリティカルが出れば、間違いなく即死のギリギリ戦闘だ。

最初は俺も戦闘に参加してやろうと思っていたが、次々大ダメージを受けるカードモンスター達への回復に必死で、とてもそこまで手が回らなかった。


【スキルポーション】も三本目を使い、流石にこれ以上はヤベーか…と思い始めた時、"キラーマンティス"が本日四発目の【スラッシュⅠ】を"パイログリフォン"に直撃させた。

そしてそのダメージでヤツの防御値バーが、緑色からオレンジに変わった。


『キィエエエッ!!』

耳障りな雄叫びと共に、"パイログリフォン"の首回りにある羽根が逆立つ。


その瞬間、ヤツは後ろ脚で立ち上がり、鷲の爪を持つ前脚を滅茶苦茶に振り回してきた!


―ドゴォッ!

周りにいたカードモンスター達がまとめて吹き飛んだ。

特に防御に失敗した"ブラックナイト"一体は、そのまま"パイログリフォン"の前脚に踏み倒される!


『ケァァッ!』

"パイログリフォン"は踏み倒している"ブラックナイト"に、(クチバシ)による追加攻撃を加えた!


『ガアアッ…!』

『―っ!"ブラックナイト"ォォッ?!』

"ブラックナイト"が光の粒子となって消えてゆく。


『くそぉっ!!』


俺はとりあえず、倒された"ブラックナイト"の代わりに"コモンマミー"を新たに呼び出す。


もはやこれ以上の【スキルポーション】の使用は、そろそろヤバいだろう。

俺は回復役を止め、"ブラックナイト"の仇をとるべく自分も戦いに参加しようとした。


『…えっ?!』

だが"パイログリフォン"に向かって突っ込もうとして、なぜか地面に顔面から倒れてしまう。

―【スキルポーション】の飲み過ぎかっ?

最初はそう思ったが、前回のように気を失う様子は無く、意識は多少ふらつくがしっかりしている。


…ただなぜか身体に力が入らねー!

前に進もうとしたのに、足が、身体が言うことをきかないっ!


『くそっ!』

ガクブルになっている手足に気合いを入れて、何とか立ち上がろうとする。


だがその目前に、見上げるように"パイログリフォン"が立ちはだかる。

その時"パイログリフォン"の顔が、何だかニヤリと笑った様に見えた。

『キィエッ!!』


"ブラックナイト"にトドメをさした嘴が、俺にも降り下ろされようとされた。

避けたくても俺の身体は、まるで全身に鉛の塊でも結わえられているように重くて鈍い。


『ゴォォァッ!』

―ドカァッ!

『キァッ?!』

嘴が俺に降り下ろされる直前、真横から"アントジェネラル"が体当たりを食らわせ、そのまま"パイログリフォン"と巨体同士、転がるように揉みくちゃになる。


だが"アントジェネラル"も、先の攻撃でもうボロボロだ!

俺はこれ以上はヤバいと判断して、【チェンジ】で交替させようとした。


―だが【チェンジ】キーを操作するだけに、えらく時間がかかる!

ならば音声て操作しようとするが、どんどん鈍重になる俺の身体は、口を動かすのすら億劫になってくる!


―なんだっ?!いったい何がおきたんだ?


意識だけはいやにハッキリとしている。


『コォォォッ!』

―マズイ!【パイロブレス】だっ!

ヤツの額のクリスタルが、妖しく光り始める!


俺は必死に"アントジェネラル"を【カード一覧】に退避させようとするが、キー操作が間に合わない!


―避けろっ!

"アントジェネラル"に指示をだすが、"アントジェネラル"は何故か動こうとしない。

―なにしてる!早くっ!


そこで俺は気付いた、避ければ【パイロブレス】が俺に直撃することを…。

―バカヤロウ!!避けろぉぉっ!

『ォォッ!』

―キュドゥッ!


俺が声にならない叫びをあげるのと、【パイロブレス】が撃ち出されたのが同時だった。

『ゴアアァッ!』

―うああああああっ!!


"アントジェネラル"が【パイロブレス】の光にに飲み込まれた瞬間、まるでブチッと何かが切れたような気がした。

そして俺の身体は、俺の意識から完全に切り離されてしまったかのように感じた…。

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