ファーガ達救出!Ⅱ
それからはレオーナちゃんやメリルさん、お店のメイドさん達一同に見送られ(帰り際にシーリちゃんとリアナールちゃんが『また来て下さいね!』と耳打ちしてくれたが、ミールにジロリと睨まれてしまった!)て、俺達は急ぎ家に戻った。
帰る途中で、ミールとキエラさんには(討伐には参加せず)家で待っておいて欲しいと言ってみたが、やはり頑として受け入れてくれなかった。
「キミが命懸けで助けにいくのに、相棒のウチが付いて行かニャいのは、納得できニャいニャ!」
「相棒ではないですが、想いは同じです~!」
まあ予想はしていたので、"パイログリフォン"戦では後方支援に徹して、絶対に前に出ないでもらう事だけは念をおして頼んだ。
特に【パイロブレス】の射程外にいるよう、気をつけてもらわないとな。
といっても"射程"がどれ程あるのか判らないから、かなり余裕をもって下がっているよう指示をした。
その後二人にはイベント報酬で手に入れた、【身代わりの封石】を渡した。
ゲームでもNPCも使っていたから、彼女達も装備出来るはずだ。
…それと前回手に入れた【女王の涙】だ。
これはミールに持っていてもらおう。
キエラさんが装備している、ウルティナ様から頂いたアミュレットは、かなりチートな防御力を誇っている。
ミールにも、それ位の防御力を持って欲しかったのだ。
渡す際に、もう彼女に譲ろうと思っていたのだが、ミールは絶対に受け取ろうとしなかった。
で、結局押し問答の末、俺から『借り受ける』かたちとなった。
「これが光っている間は、キミが大丈夫かどんなに離れていても判るニャーよ?」
【女王の涙】は、所有者が死ぬとただの石ころになってしまう。
それは所有者と【女王の涙】が、いくら距離が離れていても判るらしいのだ。
「…ニャハハ、ニャんだかキミとの絆の証みたいだニャ…。」
渡すとき、そんな可愛い事を言うミールさん。
―そんなん言われたら、まるでミールが俺に惚れてるみたいに思っちゃうやん!
ボク勘違いしちゃうよ?
―?
なぜだかそれを見ていたキエラさんが、羨ましそうな表情をしている。
…うーん、やはり神様とはいえ女の子だからなー。
今度、何か宝石をプレゼントしてみよっかな?
我が家に戻ってみると、ジオールおばさんはまだ起きていた。
とり急ぎファーガ達の救出、"パイログリフォン"の討伐について、大まかに説明した。
「蟻の親玉を倒してきたと思ったら、次は火吹きグリフォンかい!
アンタもつくづく忙しい男だねえ。」
おばさんは呆れ返った感じで、ため息をついた。
「どうせミール達も付いていくって聞かないんだろ?
アンタ、今度もあのコらを頼んだよっ!」
…おばさんから、ミール達を今回は行かないよう言ってもらおうと思っていたのに、先にこう言われたら仕方がないよな。
こうなったら、俺が盾になるだけだ!
「…で?
アンタはこんな夜更けに、ドコいってたんだい?」
―まさかこのタイミングで訊いてきましたっ?!
俺が『あ、あの…その、し、仕事で…』としどろもどろの返答をしている内に、キエラさんが『面白いんですよ~、皆さん変わった制服を着た、女性ばかりの店員さんがいるお店なんです~。』と言ったあと、洗いざらい喋ってくれました!
おばさんは、冷や汗をダァー!と流している俺をギローリと睨む。
そして小さくため息をつくと、なぜかミールとキエラさんを部屋の隅っこの方へ連れていく。
「いいかい、あーゆー男を捕まえておく…」「…見つけたら、すぐ問い詰めずに…」「…こうゆうこと言う時は…」
―なんだろう、おばさんの言う言葉の端々が聞こえるが、どうも不穏当なモノのような気がするよ…。
ミールもキエラさんも、真剣な顔をして、フンフン頷いて聞いている。
キエラさんなんか、どこからか取り出した手帳にメモし始めてるし。
「…うちのダンナも女に弱かったしねー、まあいま言ったことをよく覚えておき。」
そう言っておばさんは、話を締め括る。
いったい何を話したんだ…。
やっぱり俺か?俺のことなのかっ?!
それを訊くのも怖いし、訊かないのも怖えー!
…結局、ヘタレな俺は、何も聞いていなかったことにしました…。
そのあとは、明日からの準備を簡単に済ました。
なんせ"アーミーアント"の巣を潰して帰ってきてから、大して経っていないのだ。
ほとんど旅の道具は、そのままにしていた。
「食糧なんかは私が用意しておくから、アンタらは準備が出来たら少しでも寝ておき!
時間になったら、私が起こしてやるから。」
ジオールおばさんは、そう言ってくれた。
おばさんの好意に甘えて、二階に上がって自分の部屋に戻る。
しかしベッドで寝る前に、もうひとつ準備をしなければならない。
俺は【メニュー】画面を開き、【フレンド会話】を選択する。
誰に連絡するか少し迷ったが、アルリエータさんに決めた。
さっきキエラさんが、連絡したって言ってたしな。
【アルリエータ】さんのキーに触れ、呼び出し音が耳に流れてくる。
「………。」
あ、あれ?
呼び出し音が止まって繋がったはずなんだが、何も聞こえてこない。
「あの…、もしもーし?」
「………。」
会話が切れれば、【アルリエータ】キーの明かりが消えるのでわかるのだが、まだキーは光っている。
「あのー、アルリエータさん?」
「………フケツです。」
ほわぁぁぁっ!
やっぱり見られてたぁっ!
「…もっと紳士的な人だと思ってたのに…。」
「い、いや、あのねアルリエータさん?」
「男の人って、みんなあーなんですか…?」
「話を聞いてっ!お願いっ!」
……
…まあとにかくあやまり倒して、話を聞いてもらいました。
アルリエータさんが地上にアバターバージョンで遊びに来るとき、おもいっきりおもてなしする事で、何だか一先ず落ち着いてもらった。
ちゅーか、どうやらクッティルトの店での事は、既にウルティナ様以下の女神さま達に伝わちゃっているらしい。
…うう、ウルティナ様に今度連絡いれるとき、どーなちゃうだろう?(少なくとも今、【フレンド会話】する勇気はない。)
それはそれとして、今はそんな事で時間を食っている場合ではない。
俺はアルリエータさんに幾つか質問をして、そしてひとつお願いをした。
「そうね…、まあいいわ。
私が出来なくても、誰かに頼んでおくわ。
たぶん大丈夫だと思う。
でもおそらく時間差がでると思うわ。
なにしろ初めてだから、実際にしてみないと判らない事ばかりだから。」
「それでもお願いします。
あいつらを助けるのに、力を貸して下さい。」
目の前に居ないが、俺はアルリエータさんに深々と頭を下げる。
「…(ボソッと)こういう所は、カッコイイと思うんだけどねー…。」
「へ?なんか言いました?」
「い、いえっ!
なんでもないわっ!
じゃ、こっちの方はおねーさんに任せてね、じゃあっ!」
アルリエータさんはそう言うと、プッツリと【フレンド会話】を切った。
…なんか聞こえなかった所が凄く気になるが、まあ今はヨコへ置いておこう。
とにかくこれで上手くいけば、一発逆転になるはずだ。
本当なら今回のような緊急事態のぶっつけ本番ではなく、もっと実験的な事が出来るタイミングでしたかったのたが、もうなりふり構っていられない。
できるモノは全てやってやる。
そう考えながら、堅い木製のベッドに横になる。
緊張して大して眠れないだろうと思っていたが、意外にもあっという間に眠り込んでしまった…。
あれ?なんか俺、忘れて…ね?
Zzz




