クッティルトのお店Ⅱ
「ご主人様、今晩お仕えさせて頂きます、シーリと言いますニャ!」
「ご主人様、同じくお仕えさせて頂きます、リアナールと申します。
よろしくお願いいたします。」
俺の両脇に、獣っ娘メイドさんがやって来た!
シーリちゃんはピンクの髪に表情がくるくる変わる、ミールと同じネコ系の女の子で、これまたミールと同じ『ニャ』語を話す。
衣装も日本の某電気屋街で出くわすようなメイド服で、ネコミミ、ネコシッポが恐ろしいほど似合っている。
対するリアナールちゃんもネコ系の女の子なのだが、肩の上でキッチリと切り揃えられた黒髪、丁寧な口調、そして先程のメリルさんと同じブリティッシュスタイルのメイド服から、とても落ち着いた雰囲気を醸し出している。
…二人とも何気に巨乳だ。
フレンチスタイルの様な胸元が開いている訳ではないが、エプロンドレスの上からもその大きさがハッキリと判る。
「ご主人様、お飲み物はいかがいたしますニャ?」
「どうぞおくつろぎ下さいまし、ご主人様。」
「お飲み物をお持ち致しましたニャ、ご主人様。」
「お味の方はいかがですか?もう少し甘めの方がよろしかったでしょうか?」
…もうね、自分がどうなっているのか、まっーたく分かりません!
左右にぴったりとくっついて、甲斐甲斐しく俺のお世話をしてくれている二人のメイドさんに、俺は完全に舞い上がっています!
彼女達と幾つかお話ししましたが、もう何を話したかほとんど覚えていません!
それほど舞い上がってました!スンマセン!ありがとうございます!
ただ、シーリちゃんやミールの話す『ニャ』語が、ネコ系ビースト族が多く住むエリアの方言だったということだけは、微かに覚えています。
同じネコ系でも、パーミルの街の多くの人が『ニャ』語を喋らないのは、そう言う理由だったんだ。
俺はミールだけが、そういう仕様(笑)かなんかだったと思ってたよ。
すこし落ち着いてきてから、やっと周りを見る余裕が出てきた。
横にいるキシェントさんは、普通なら完全にアウトなセクハラを自分の担当メイドさんにかましている。
その顔はどっから見ても、スケベ親父のナニモノでもない。
…俺はあんな顔してない…よね?
ギリークとジェファーソンのおっさんどもはメイドさんにお酌をさせながら、ガハハと何か談笑している。
一瞬、ジェファーソンと目が合ったとき、俺を見ておっさんは『してやったり』という表情をしてきたた。
アイコンタクトで、『この店、おめーのどストライクだろ?』と語っている。
俺は清々しい笑顔を、おっさんに対する返答としてやった。
バウリンは相変わらす口をへの字にして、ムッツリしている。
しかしよく見ていると、奥の方にチラチラと視線を時々向けている。
―もしかして、お気に入りのメイドさんを待っているのだろうか?
だがメイドさんにデヘヘとデレてるバウリンの姿は、想像が出来ないんだがなー。
最後にエザクとかいうにーちゃんの方を見る。
するとにーちゃんは、俺の視線に目敏く気付いたようだ。
なかなかカンが鋭いお人のようだ。
彼は立ち上がって俺の方まで来て、右手を差し出してきた。
「やあ、挨拶がまだだったね。
オレの名はエザク。"三本腕のエザク"なんかとか呼ばれたりしている。
これからもよろしくな。」
「あ、ども。」
俺も慌て立ち上がり、握手を交わして名乗った。
"三本腕"とはどういう意味なんかは解らんが、バウリンの"頑鉄"と同じ様なものだろう。
レベルやステータスからみても、ギルドでも最高ランクの冒険者なんだろうな。
ギルドタグの☆マークを四つ持っているのが、パーミルでギルマス以外に五人いるってギルマスは言ってたが、たぶんこのにーちゃんがその一人なんじゃないかな?(バウリンがその一人なのは、先日の討伐の帰りに教えてもらっている)
―ん?
なんかやけに、握手に力を入れているように感じるんだが…?
もしかして、力試しをされている?
エザクのにーちゃんは表情は笑顔だが、腕には青筋が立つくらい力を入れているのがわかる。
しかし俺にとっては、全く痛くとも何ともない。
AT値が7,000程度では、子供が力いっぱい握っている位にしか感じないのだ。
…どーしよっかなー、コレ?
対抗して力一杯握り返したら、このにーちゃんの手が潰れること間違いないしなー。
前にぶっとい鉄棒を、試しに全力で力を使ったら、いとも容易くグニャリと曲がってしまったのだ。
かと言って『痛タタッ!』って痛がるフリをするのもなー。
それもなんか失礼な気がするし。
だが俺がそんな事を悩んでいるうちに、にーちゃんは驚いた顔をして手を引いた。
力いっぱい握っているのに、俺がボケーとしていた事が予想外だったようだ。
「…ふーん、"頑鉄"の言ってることも、あながち間違いじゃあなさそうだねえ…。」
エザクはわざとバウリンに聞こえるように、声を大きくして話す。
だがその声色は、多分に不信の様子を含んでいるように聞こえる。
「…フン!ワシは嘘を言わんわい。
このボウズは、間違いなく今のパーミルでは最強じゃろうて。」
「にしてもねえ…。
キミ本当に、アントクィーンとアントジェネラルを独りで倒したのかい?」
「はあ。
まあ、俺っつーか、カードモンスター達がなんすけど…。」
どうやらエザクのにーちゃんは、先日の討伐結果に納得してないようだ。
エザクは俺の返答に何か応えようとしたのだが、それはシーリちゃんの声で遮られた。
「えええっ?!
もしかして、あなたが噂の魔物使いさんニャのっ?!」
シーリちゃんは目を真ん丸に開けて立ち上がり、俺にエライ剣幕で詰め寄って来る。
「あー、うん、たぶんそうかも…。」
「きゃっー!うっそ、やだっー!
まさかこんなヒョロっとしたヒトだと思わなかったニャー!」
…おーい、シーリちゃん、メイドのお仕事忘れてね?
まあ周りにいるおっさん共に比べて、ヒョロいのは認めるけどさ…。
「シーリ!
あなた、ご主人様に対してなんと言う物言いなのっ!
…申し訳ありません、ご主人様っ!」
「いやいや、そんな…って、うえええっ!!」
リアナールちゃんの方を振り向いたら、驚いたっ!!
なぜかリアナールちゃん、いつの間にかワンピースの、胸んトコのボタンを上から二つ位ガバッと開けちゃってるぅ!
元々ご立派なお胸をされていたので、エプロンドレスから胸の谷間がっ!?
しかもその状態で、謝るために屈んじゃってるから、更に谷間がエライことにっ!!
コレ、狙ってやってますよねえっ?!
「あっー!リアナール、ズルいっニャ!!
あたしもっ!」
―ちょっ!
シーリちゃんまで胸のボタンを外し始めた…って、どこまで外すのっ?!
アカンて!
そこまでしたら、もはやエプロン取っちゃうと丸見えになっちゃうじゃん!
「さあ、ご主人様ぁ、お座りになって下さいませ。
今から先程の無礼をお詫びさせて頂きますわ…。」
「なにそれっ?!って、ウホッー!」
腕にっ!そんなに腕に押し付けないでぇっ!
「リアナール!
無礼なことを言ったのは私ニャんだから、ご主人様にお詫びをするのは私ニャー!
ご主人様っ!むぎゅー!」
「おほっー?!」
―なんなんだ!どーしてこんな状況に、俺なってんのっ?!
「リアナール!シーリ!
二人とも止めなさい!
ご主人様が戸惑っておられるでしょう!」




