女王の涙Ⅰ
まず昨晩寝る前にした、【一日一回無料召喚】の結果から伝えよう。
ゴブリンアーチャー N Lv 1
(妖魔族/風属性/cost 4)
AT:200
DT:180
弓使いのゴブリンだ。
通常攻撃で遠距離射撃が出来るが、コイツは【進化】しないので、あまり使いでがない。
まあとりあえず【カード一覧】の中に入れておく。
で、朝、マーシャちゃんに起こしてもらい、皆と朝食をとる時に、昨晩の打ち合わせ通りに今晩用事が出来た事を、できる限り平静を装って伝える。
「ふーん、キシェントさんからニャ…。
奥さんのリーレンさんからは、お風呂屋さんでは何もウチらに言ってこニャかったニャ?」
「い、いや、キシェントさんも風呂屋で思いついたようだよ?
今朝、奥さんに伝えるって言ってた。(ドキドキ)」
とりあえずミールと目を合わすとバレそうで恐いので、昨日の残りでおばさんが作ってくれた、アントのタマゴソースをパンに塗りたくるのに集中してるフリをする。
「…キミ、今朝は食べるんニャね?」
「へ?」
「キミ、昨日の晩ごはん、アントのタマゴ料理だけは結局、気味悪がって食べニャかったじゃニャい。
でも今朝は食べるニャーの?」
「え?あ、あー、えー、あっ!
いやっ!昨晩皆があれだけ美味しいって言ってたからさ、ヤッパリ食べてみよーかなーって思ったんだよ!うん!」
「ふうーん…。」
「……(汗がダラダラ)。」
「ま、まあそう言う訳だからさっ!
今晩は皆、先に寝といてよ!
今晩する事は、とりあえず面通しと内容を訊くだけみたいだしさ。
内容を訊いて仕事を受けるなら、改めて全員面通しするらしいから…。」
「……。」
「……(ダラダラ)。」
「……。」
「……(ダラダラダラダラッ!)」
「…うん、分かったニャ。
じゃ、決まったらまた教えてニャ!」
「も、もちろん!(ほー)」
…俺は最難関ミッションをやり遂げた勢いで、タップリ盛ったタマゴソース付のパンを頬張った。
―アントのタマゴは、濃いクリームチーズみたいな味で、思った以上に美味しかったです!
それからはシュリーさんが紹介してくれた大工さんを呼んで、店舗部分の改造を相談した。
意外と時間は掛からないそうで、予備日をいれて四日もあれば出来るだろうとのこと。
ヒューマンの大工さんで、あと四人ほどでチームを組んでいるらしい。
費用については、値切りは一切しなかった。
シュリーさんの紹介だし、ぼったくる事もしないだろう。
材料の手配などがあるので、明後日から工事に入ってもらう。
午後からミール姉妹とキエラさんを連れて、ギルドに向かう。
ギルドに初めて来たマーシャちゃんは、キョロキョロと物珍しそうに周囲を見回している。
よく見ておかないと、どっかに行ってしまいそうだ。
ギルドでは、ちょうどラーンちゃんが受付にいたので声をかけた。
「昨日はご馳走さまでした!
本当に美味しかったです!」
「いえいえ、お礼はまた店がオープンしたら、ジオールおばさんに言ってあげてよ。」
「もちろん!お店が開いたら、また必ず食べに行きますね!」
そのあとレイシールさんに、昨晩の醜態をきつーく口止めされたりといった世間話をしてから、今日の用向きを伝えた。
「あっ!アレ、もうすっごく噂になってますよ!
あの"頑鉄"のバウリンさんが、強さを認めたっていうので、これまた騒ぎになってますし!」
ラーンちゃんが声を潜めて、俺達に耳打ちしてくる。
…昨日、来たときより視線が集まっているのは、その為か。
やはりこれは、しばらく来るのを控えよう。
キシェントさんの言っている、護衛の仕事をホンキでやってもいいよな。
それならパーミルからしばらく離れていられるし。
「はい、えーとじゃあ、二階へ上がってもらえますか?
高額引き渡しなので、そちらでお渡しします。」
確認作業を終えたラーンちゃんが階段を示す。
どうやら前の"ジュエルシード"の時のように、今回もそうなるようだ。
二階へ上がってフカフカなソファに座ると、お茶と一緒にあのエルフの公証人、クリークさんが奥から出てきた。
「またお会い出来まして光栄です。
素晴らしいご活躍のようですね。」
クリークさんによって、今回の討伐報酬が支払われた。
金額は央国金貨で2,980枚だ。
…もうね、ナニがなんだかわかりません。
いやまあ、ギルマスから大体の金額を知らされていたし、20~30人に金貨50~100枚、それに"アントクイーン"等を倒した者に支払われる追加報酬を考えれば、こんくらいだろうとは思ってたけどね。
現在の俺の総資産って、日本円にしたら数千万円なんだろうなー。
たぶんフツーの暮らしをしていれば、ほぼ一生暮らしてゆける金額なんじゃね?
まだ俺、この世界に来てから、一ヶ月もいてねーんですけど!
宝くじで高額配当を当てたヒトって、こんな気持ちなんだろうか…。
金銭感覚がマヒしてバカな買い物をしてしまいそうで、自分が怖いわー。
これはもうお金の管理を、ミールかジオールおばさんにでも任してもらおう。
―それとついでに、"アントクイーン"からドロップした【女王の涙】を鑑定してもらおう。
ラーンちゃんに他の激レアアイテムと一緒に見せたのだが、『こ、これは判らないですー!でも絶対に高額品のはずなので、二階で鑑定してもらって下さい!』とサジを投げられてしまったのだ。
【女王の涙】を【アイテム】内から実体化させ、クリークさんに見てもらう。
「…これは…、『女王の涙』でしょうか…?」
常に和やかな表情のクリークさんから笑顔が消える。
「ああ…えーと、そうだと思うんすけ…ど?」
「少し、お待ち願いますか?」
そう言うと、クリークさんは足早に奥に入っていった。
…もしかして、これはヤバかった…?
しばらくして戻って来たクリークさんは、俺達をフロアの奥にある個室(やっぱり豪華)に案内した。
そこにはノーム族のじいさんとラーンちゃんが待っていた。
ノーム族はドワーフ族などと同じ小人系の種族だ。
ドワーフ族と異なりヒゲは無い。
そのノームのじいさんは髪も眉毛も真っ白で、特に眉毛が伸びまくっていてまるで仙人に見える。
「申し訳ありません。
ものがものでしたので、あまり人目につかない方が良いかと思いましたので、こちらに移って頂きました。」
―オイオイー?
「…もしかして、トンでもなく高価なんすか?」
「そうですね…、もしそれが本物なら、もうお値段がつけようもないかと…。」
「…マジっすか…。」




