教会で再会
「はあうぅぅ~、も、申し訳ありませんでした~!」
今、俺達はウルティナ様の教会にある、彼女に与えられた一室にいる。
こじんまりとした部屋だが、ベッドと小さな机、それに椅子が一脚だけの何も無いの部屋なので、それ程狭さは感じない。
なんせ椅子が一脚しかないので、俺とミールはベッドに座り、バルストさんが椅子に座っている。
俺の後頭部には、デッカイたんこぶが出来ている。
先の"出会い"で、おもいっきり床に頭を打ち付けられたからだ。
俺達を見つけた彼女が、階段から急いで降りようとして足を滑らせ、俺の顔面へのヒップアタックを喰らわせたせいだ。
相変わらずの、ドジッ娘モードフルスロットルである。
…でそのドジッ娘とは、俺達の前で腰が折れんばかりにぺこぺこしているビースト族の女性である。
髪は黒に近い濃緑色のロングヘアー、その髪と同色のウサギミミと安定性のあるヒップからピコンと出ているウサギしっぽ。
おまけに色白な細面には丸眼鏡が乗っかっている。
従属神アルキエラ(アバターVer.) Lv 9
(プリースト<subアルケミスト>/ビースト族/女/土属性)
AT:1,030/1,030
DT:1,090/1,090(+2,000)
スキル:【神聖魔法/初級】【薬品錬成サポートⅠ】【鉱物合成サポートⅠ】
アバタースキル:【現界ログイン/アウト】【神族通話】【レベルアップサポート】
…
……えー、"あの"アルキエラさんなんだよな?
姿形は神界で出会った時や、そのあとの"降臨Ver. "とまったく同じ。
より詳しく言うなら、神界にいた時のキョドってる方に近い。
「あのー、アルキエラさんで、いいんですよね?」
いいかげん、彼女の謝りを止めるために声をかける。
その質問に、ミールとバルストさんがびっくりした顔をする。
ミールとバルストさんは、彼女の姿を見ても誰だか判らないようだ。
"降臨Ver. " で出会ってはいるが、あの時の姿はやはり神々しくてはっきり見れていなかったようだ。
「はいぃ~!
あ、アバターネームは、"キエラ"で登録していますから、出来ればキエラと呼んでください~!」
「…アバターって、なんやねん…。」
前々からこの人(神)達、ノーパソを使ったり『システム』とかいった固有名詞を使ったりして、ずいぶん地球のカルチャーに毒されてねぇか?
それでとうとう『アバターVer. 』ですかっ!
もー、何でもアリだなっ!
「ちょっ!ちょっと待ってくれ!
君の言うアルキエラとは、まさかこの前ご降臨されたあのアルキエラ様じゃあないよなっ?!」
バルストさんの剣幕に、アルキエラさんがビクッと怯えて、俺の陰に隠れるようにベッドの方にきて縮こまる。
「あー、俺もよく解らないんですけど、どーやらあのアルキエラ様のようです(苦笑)。」
俺の半笑いで答えた返事に、アゴが外れたような顔をしてフリーズするバルストさん。
ミールの方も、今の状況が理解出来ないようで、こちらも固まってい…って、失神しているよっ!
ミールはそのまま、コテンとベッドに横倒しに倒れてしまった。
なんとか慌ててミールを介抱して、しばらくしてミールは意識をとり戻した。
だがまだ状況を把握しきれてないようで、俺の片腕にしがみついて、いっぱいいっぱいなのが現状だ。
うーむ、やはりこっちの人達は信心深いなあ、まさかここまで驚くとは…。
ああ、ミールはあの時、アルキエラさんに直接話し掛けられたんだっけ。
あの時と今のドジッ娘とのギャップに、耐えられなかったのかな(笑)。
バルストさんの方は、その間に何とか我を取り戻したのち、『し、失礼致しましたっ!』と言って慌てて椅子から飛び降り、拝礼のために控えようとした。
しかしアルキエラさんから、『や、止めてください~!』と止められ、しかしながらまた椅子に座り直す気は無いようで、ドア近くで直立不動の姿勢をとっている。
つか二人とも真面目だな!
俺が冗談言ってるとか、疑ったりしないの?
『ああ~!私のせいでお二人にご不快な思いをさせてしまったわ!
ど、どうしましょう~!』
―とまあ、アルキエラさんはアルキエラさんで、こんな風に恐縮しまくってしまうし…。
「はいはい、もうそれはいいですから、どうして今の状況になったか教えて下さいよっ!」
まあ間違いなく、ウルティナ様の差し金なのは、予想出来るけどなっ!
「…えっと、どこからお話ししたら良いでしょうか~!」
「こっちに来る事になった理由からお願いします。」
「は、はい~!」
アルキエラさん、…いやこれからはキエラさんと呼ぼう、彼女が地上に来た理由は、やはりというか俺が原因だった。
俺のレベル等の情報が神々の内で広まった事に対して、ウルティナ様は幾柱かの神様での監視体制を組織した。
しかし神様の中には、その監視の目を潜って、俺に近寄ろうとする者が出てくるかもしれない。
そういった者が現れたとき、いちいち天界から降臨してきていては大パニックになってしまう。
そこで一柱、俺の側に常駐しておき、いざという時即対応出来るようにしておこうと、ウルティナ様達は考えた訳だ。
アルキエラさん…もといキエラさんが選ばれたのは、問題の関係者・俺と面識があるといった事の他に、一緒にいる神前契約者であるミールの監督官というのも、『どーせ監督対象なら、間近で見れるからいいじゃん』というのも理由のひとつなんだそうだ。
で、もちろん以前の"降臨Ver. " なんぞで常に側にいられた日には、それこそ大パニックである。
―そこでこのツッコミ満載の、"アバターVer. " でやって来たという訳だ。
「…なんなんすか、この"アバターVer."って? 」
「これはですねぇ、いま神界で大流行のシステムなんですよっ!
なんと、あなたのアルカナマスター転生システムを流用した物なんです~!」
「なんやねん…その名前は…。」
「ええとですね~、あなたのようなアルカナマスターを現界(たぶんここ、地上界のことだろう)で活動出来るようにするために、システムを構築、管理しているひと(神)達がいるんです~。
そのひと達が、『せっかく構築したシステムを、一人にだけ使うのはもったいない』と私達に転用したんですよ!」
「転用…ですか?」
「はいい~!
今までは私達がこちらにお忍びで来るには、とても面倒な手順を踏まないと来れなかったです~。
ですが、このシステムを使って現界の人達に"転生"すれば、とてもお気軽に現界人ライフを楽しめるという訳です!」
「なんじゃソレ…。」
「最初の頃にいっぱいのひと(神)達がこっちに来すぎて神界が半ば機能しなくなっちゃったんで、今では現界ログイン制限がかかってる程なんですよ~!」
「ログインて…、ゲームかい…。」
「そう、そうなんです~!
私達のアバターを創るとき、あなたの元の所にあった様々な"ゲーム"を参考にしているんですよ!」
「…つまりそれって、神様達はリアルでMMORPGを、この地上で楽しんでらっしゃると…。」
「え、えーと、その"えむえむナントカ"は、流石に解らないんですが、たぶん意味は合ってると思います~!」
…はぁぁ、こっちの神様達の自由っぷりには、もうツッこむ気になれんわ…。




