ギルドⅡ
「なぁに、おめぇさんが召喚出来るやつのなかで、強えーのをちょいと見せてくれりゃあいいのよ!
…あーそれとも、もしかして、この部屋には収まらねぇかい?」
「いや、そんな事はないっすけど…。」
現在俺のチームで最強は、ダントツで"デスナイト"だ。
その次に"ブラックナイト"や"アルラウネ"達、チミッコ三人娘などのHRカードが続くだろう。
…つまりここで"デスナイト"を呼び出していいのか?、という事なのだ。
このギルマスさんにも、俺がどんなモンスターカードを呼び出せるか、伝わっていると思うんだが…。
―少し考えて、チミッコ三人娘達を呼び出すことにする。
やっぱり"デスナイト"をいきなり出すのは、イメージ悪いような気がするしね。
【メニュー】から【カード一覧】、そして"アルラウネ"達のカードをデッキにセットする。
その一連の動作をギリークさんが、興味深げに注目している。
彼の瞳はもう、新しい玩具を出された子供のように、キラキラとしている。
…もしかしてこの江戸っ子オヤジ、自分が単に見たかっただけなのか?
「るー!」「きゅー!」「みっ!」
俺の前にあるテーブルに、チミッコ達が実体化する。
「はい!ご挨拶!」
「るっ!」「きゅっ!」「みみっ!」
三体が息を合わせて、一斉にお辞儀をする。
「…ほぉう…。」
「…はぁう!」
チミッコ達を見たギリークさんとレイシールさんの反応は、正反対と言ってもよかった。
ギリークさんは、少々期待外れといった感じ。
…そしてレイシールさんは逆に、今までの話し合いに余り興味を持たず、ただ淡々と脇に控えていたのだが…。
「な、なんて可愛らしいの…。」
今まではどちらかというとクールビューティーな秘書さんな感じだったのが、頬を上気させて、もう今にもチミッコ達に飛びつかんばかりだ。
「「「るー?きゅー?みぃ?」」」
身の危険を察知して、チミッコ達が俺の後ろに隠れようとする。
レイシールさんよりはるかに強いはずだが、涎をたらさんばかりで我を失ないつつある残念な姿を見ると…、うん、おれでもドン引くわ。
さてギリークさんのテンションが低いのは、案の定というか何というか、もっとゴツイやつが出てくるのを期待していたようだ。
「…まあ確かにオレっちも見るのは初めてなのばかりだけどよぉ…、こいつらがおめぇさんの中で一番強えぇ奴等なのかぃ?」
「あー…、いえ、まだ上がいます…。」
「おお、なんでぇ!
いるんじゃあ、出し惜しみせずに出したらどうでぇ!」
うーむ、こういった事って隠したり嘘をつくのは、絶対に後々面倒な事になるからなるべく正直にしたいけど、出したら出したで印象が悪くなったらやだしなあ…。
なんせここを拠点として生活をしたいから、波風はなるべく立てたくないのだが。
―まあいいか、とりあえず実体化させる前に、口頭で伝えてみよう。
「あー、実はそいつって、"デスナイト"なんすけど、呼び出していいっすか?」
「「「…デッッ?!」」」
はい、見事にハモりました。
つか、後ろにいるバルストさんまで絶句しています。
「…いつの間に、そんなのを召喚出来るようになったんだっ?!」
「はあ、先日の戦いで、新たに…。
あ、"ブラックナイト"は二体に増えたっすよ!」
それを聞いたバルストさんは、しきりにこめかみの所を押さえていた。
「もう君には大概、驚かないつもりだったんだがな…。」
「あ…、それでどうします?
呼び出しますか?」
「お?おおぅ?!」
俺の問い掛けにレイシールさんと共に固まっていたギリークさんが、すっとんきょうな声をあげてしまう。
「いやいや!
そいつぁ止しとくぜぇ!
…いやまさか、デスナイトとは…。」
我に返ったギリークさんが、大仰な仕草で手を振って止める。
「それを聞いただけで充分だぜぇ。
…ただ、あー、あまりソイツを街中で召喚するのは…。」
「判ってます。
"デスナイト"などは、なるべく人前では呼び出しませんよ。」
「それを聞いて安心したぜぇ。
これでおめぇさんは、申し分のねぇ冒険者でぇ!」
そう言うやギリークさんはパンッ!と一回手を叩くと、『おぅ!済まねぇが、用意してあったアレを持ってきてくれねぇかい?』とレイシールさんに何事か頼んだ。
ほどなくして、隣の部屋からレイシールさんが、一枚の金属板に紐を通した物を持ってきた。
金属板は長さ10cm、幅が5cm 位で、厚みは1mm程のごく薄いもので、金属は不思議な光沢をしていた。
…この光沢には見覚えがある。
セレアル姫のお付きをしていた、ダークエルフのイスファーラさんが着ていた軽鎧と同じなのだ。
「こいつぁ、ミスリルで出来ていてな、まあちょっとやそっとじゃあ傷もつかねぇのよ。」
そう言ってレイシールさんから金属板を受け取り、それを俺に放り投げできた。
金属板はアルミのように軽く、金属なのになぜか少し暖かさを感じた。
そして金属板の表面に、模様が刻まれている。
片面は剣と杖が盾をバックにクロスしている紋様だ。
―これはこの建物の入口にも大きく掛けてあった。
おそらくギルドのマークなのだろう。
一方、その裏面には、次のようなものが刻まれていた。
☆☆☆☆☆
★
「これぁ一般に『ギルドカード』または『ギルドタグ』ってぇ、言われるモンよぉ。」




