戦力増強(パーミル城)Ⅱ
"アークフェルパー"はイベント"アーザン復活"において、神々の尖兵として天界から送られてきた者達の一種だ。
緑色の体毛をした猫型の獣人である。
獣人は狼男に代表される、獣が人の型に近づいた姿をしたモンスター群の総称だ。
その中で"フェルパー"は、神々に仕える猫型獣人の一族達である。
なぜか全て雌で、雄の"フェルパー"種は見たことがない。
先の戦いでミールさん(大人)が召喚した"ウルティナトルーパー(猫種)と比べれば、"フェルパー"の方がより人型に近く、"ウルティナトルーパー(猫種)"の方が動物の猫に近い姿をしている。
緑色の体毛は身体全体に生えている。
まるでビキニを着ているかのように、ビキニの布地部分に相当する所だけ毛並みが変わっており、色もそこだけ茶色をしている。
顔つきも、猫を人の型に近づけたといった印象だ。
"アークフェルパー"は神々に仕える"フェルパー"の中でも、戦闘方面に秀でた種で、そのため刃の部分が大きく自分の身長の倍近い槍を手にしている。
このコなら、呼び出しても大丈夫だろう。
カードを画面にセットする。
目の前に魔法陣が現れ…って、意外と小さい?
「みっみっ!みーみっ?
みみっ!みっー!」
…現れた"アークフェルパー"は、"アルラウネ"達とほとんど変わらない背丈だった。
カードイラストでは大きさの比較をするものが描かれてなかったのと、ウェアビーストの多くが人並みの背丈をしている者が多いことから、てっきり思い込みで等身大位と思っていたのだが…。
もしコレが逆に、巨人クラスの大きさだったら…。
―ドッカーンッ!『みっー!』
…おお、一瞬巨大"アークフェルパー"が部屋を破壊して、怪獣映画の様に現れる光景を想像してしまった。
うん、初めて呼び出す時はもっと気をつけよう…。
「みっみっみっ?みー!」「きゅー!きゅっきゅー?」「るるー!るっるー!」
早速"アルラウネ"と"フェンサースプライト"達と、ガールズトーク?をしだしている。
「みっ!」「きゅー!」「るー!」
…【みっ子】に【きう子】それに【るー子】―【キャラクター召喚】で呼び出した、ミールさんが言った言葉を思い出した。
まあ、間違いなくこのコらだろうな…。
つまりこの子らとは、これからも長い付き合いになるということだろうか?
ただ"銘"を附けられる、"レベル上限破壊-アルカナバースト"を彼女達、HRクラスに使う事は、ゲームではあまり無かった。
"フェンサースプライト"は"バルキリースプライト"に、"アークフェルパー"は"ケルプフェルパー"に、それぞれ【進化】してSRクラスになることが出来る。
"銘"を附けるとしたら、その段階だと思う。
…ただ"アルラウネ"は、今のクラスが最終クラスなのだ。
ともすれば"アルラウネ"に関しては、ハイレアだが"アルカナバースト"をしたという事だろうか?
もしかしたらこの世界では、ハイレアでも充分やっていけるのかもしれない…。
…はっ!
俺、ミールさんの言ってたこと、未来におこる事だと信じてしまってるやん?!
アカン、アカンでぇ!
もしかしたら"ミールは俺のヨメ"説を、無意識に考えていてしまったというのかっ!
…まあそれは別にしたとしても、あまりミールさんが言った言葉を意識しないよう、気を付けねば。
『未来におこる事なんだから、こうしないといけない』―なんて考え方は、自分の考えを止めてしまう思考停止状態だからな!
そのあとやはりというか三人娘が、俺の『乗っかる場所決定大戦』が勃発、危うくこの部屋の超高価家具類を壊滅させかけたりもしたが(実は、チビッと欠けさせたのは秘密だ!)、何とか侍女さんを呼ぶ事態までは回避する事が出来た。
―これで今回の報酬で、カードモンスターについては全て完了だ。
…【進化カード(R)】があと一枚残っているが、これは保留にしておく。
もう一体"ブラックナイト"を"デスナイト"に【進化】させる事も考えたのだが、なにしろこいつらはパーミルの人達にとって印象が悪すぎる。
基本、人前では出せないので、出番の機会が限定される可能性がある。
とまあそこまで考えて、別のRカードに使おうとしたが、現在俺が所有しているレアカードで、"ブラックナイト"以外でハイレアに【進化】出来るやつがいないのに気付いた。
残りの者達は全て、レアで最終進化だったのだ。
【進化カード】は(R)から急に希少価値が増す。
イベント報酬でも、上位者報酬や今回の様なクリアが困難なものにしか支払われないのだ。
これの更に上、【進化カード(HR)】となると、俺ですら数枚しかゲームでは手に入れた事が無かったほどだ。
というわけで、次のレアクラスを手に入れた時の楽しみに、とっておくとしよう。
では次にアイテムの報酬だ!
今回こういったカードモンスター達の増強も嬉しかったが、それよりも【身代りの封石】が大量に入手出来たのが更に嬉しかった!
【身代りの封石】は、戦闘前カードモンスターに持たしせておく(画面デッキのモンスターカードに【身代りの封石】を合わせておく)と、防御値がゼロになった時、一度だけロストを回避してくれるのだ!
敵の攻撃が防御値を上回ってゼロになった瞬間、【身代りの封石】が砕け、代わりにカードが防御値1ポイントの状態で復活するのだ。
どんなに希少なカードでも防御値ゼロ=ロストという、昨今のカードゲームにしては厳しいルールの『アルカナバースト!』というこのゲームでは、こういった"ロスト回避アイテム"は超必需品なのである。
この【身代りの封石】は、その中でも手に入り易いもので効果も一番低いのだが、今まで持っていなかったのだから、やっとこれで一安心出来る。
まずはこの石をミールとマーシャちゃん、それにジオールおばさんに渡そうと思う。
ゲームではカードモンスターだけでなく、キャラクターが使うシーンがあったので、たぶんこの世界でも効果があるはずだ。
実際に使ってみる訳にもいかないので(効果が無かったら死んじゃうので!)、あとでジョシュアさんにでも訊いてみよう。
ん?
…そういえば今までの戦いでも、誰もこういった"ロスト回避アイテム"を使わなかったよな?
ジェファーソンのオッサンも危機一髪って言ってたけど、俺が駆けつけた時は既に使用後だったとか…?
ジョシュアさんなら、そのへんトコも教えてくれるだろう。
…あとは最後にひとつ残ったコレですよ。
【魔神の籠手】
これは"ブラックナイト"の激レアドロップアイテムで、いくら俺でも30体かそこらでドロップ出来たのは、本当に幸運だったのだろう。
名前の通り装備品である籠手なのだが、ゲームではプレイヤーは戦闘に参加しないので、当然装備できない。
―いわゆる『おつかいイベント』と、呼ばれる種類のイベントがある。
『○○○というモノが必要なので、とってきて欲しい』と依頼をうけ、それを持ってくればイベント成功といったモノだ。
この【魔神の籠手】、そのテのイベントで随一の難易度と呼ばれた、"グレスゴーの難題"というイベントで必要とされたアイテムのひとつなのだ。
事実、クリアしたというプレイヤーを、俺はまだ聞いた事が無かった。
もちろん俺も三つまで集めたが、そこで挫折した。
なにしろ必要とされる物が全てドロップアイテムで、なおかつ今回の"ブラックナイト"のような、レア以上のモンスターが対象なのだ。
ただでさえ、レア以上のモンスターが出現するのは、最難関の迷宮などのフィールドの更にその奥底にしかいない。
しかもドロップ率は、激レアレベル。
俺も含めたほとんどの者が、心が折れて挫折してしまった。
…考えてみたら、このイベントがあったのも、今の世界からすると何千年も前のことじゃん!
さすがに依頼者のグレスゴーも生きてないだろう。
つー訳で、この【魔神の籠手】は冒険者ギルドに売る事にしよう!
なにせレアモンスターが落とす激レアドロップ品だ、かなり高価で買い取ってくれるだろう。
そう思って俺は、【魔神の籠手】を実体化させてみた。




