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アーザンズスポーン戦~決着

すいません、ずいぶん時間をかけてしまいました。

決着と書いてあるのに、終わっていませんね(笑)。

今回だけ、少し視点を変えてみたのですが、どうでしょうか?

あとこんなに長くなるとは…。

小説を書くって、難しいけど面白いですね!

「…あれがアーザンの眷族…か…っ!」

パーミル公爵の視線の先には、小さな丘と言ってもおかしくないモノがこちらに向かって来ていた。

その姿は彼が今まで見たことのない、あまりにおぞましいモノであった。


先程エルフのネサファーレンが、血相をかえてこちらにやって来て、今までの顛末をかいつまんで説明してくれた。

それを聞いて部隊は、待避行動に入り始めている。


どうやらジェファーソンは無事のようで、ひと安心した。

彼は平民出身とはいえ、ジョシュアと並ぶこれからのパーミルを支えてくれるであろう、大事な人材なのだ。

こんな事で失う訳にはいかない。


―今回の件では当初、もっと下級の者を派遣するはずだったのだ。

しかしリファーレン大使のネサファーレンが同行させてくれと言い出した事で、それ相応の者を同行させねばならなくなった。

それにリファーレン大使が、なぜ強硬に同行を求めたのかも知りたかった。


その結果は、公爵の予想を遥か斜め上をゆくものだった。

神代(かみよ)の英雄が遥かな時を越え、現代に現れるとは…。

"御使い"が前代未聞の五柱も降臨し、自分達に強烈な《神威》を向けられた時は生きた心地がしなかったが、そのあと"御使い"の一柱が自分達に語った話は、パーミル公爵を強く興奮させた。


"パーミルの災厄"でほとんど死に絶えてしまった前パーミル公爵家からすると、現パーミル公爵はかなり遠い傍系になる。

"パーミルの災厄"がなければ、央都の小さな一貴族で終わっていただろう人物だ。

それがかの大事件によって、彼の運命は大きく変わってしまった。

ある日、央都の大貴族より呼び出され、あとはあれよあれよという間にパーミル公爵に祭り上げられたのだ。


当事まだ二十歳を過ぎ、家を継いだばかりの彼にとっては、激動の日々だった。

周囲の人間や友人に恵まれたお陰で(浮遊城を立案から完成までも、彼の親友のお陰なのだ)、央都の大貴族からも一目置かれるようになり、大貴族の傀儡とならずに済んでいる。


だが激動の日々だったとはいえ、大した(いくさ)があった訳でもなく、そういった意味では退屈な人生だった。


しかしここにきて、まるで子供の頃に母から寝物語に聞かされ、友人達と英雄ごっこに興じていたような事が、本当に自分の周りで起こるかもしれない…。

そう思ったパーミル公爵が子供のように、また若き日の血気盛んであった日々を思い出し、興奮してしまったのは仕方がなかったのかもしれない。


本来なら彼自らが出陣する必要など無かったのだが、ほんの少し前にそんな話を聞いてしまっていては、悠長に城で報告を待つだけなど彼には耐えられなかった。


…しかしいざ軍を率いて来てみれば、想像を絶する魔物が暴れているではないか。


この世界は、様々な魔物が跳梁跋扈している。

当然公爵も領民を守るため、ゴブリンやオークの軍団と剣を交えた事も何度もある。

また若き頃は、冒険者達と迷宮に挑んだ事さえあった。

だが言うなれば、『その程度』だった。


"暗黒時代"が終わり千年以上経った現在、人類全体を脅かすような魔物は、ほとんど人前に現れる事が無くなった。

もちろんドラゴンを筆頭とする強大な魔物が、絶滅した訳ではない。

彼らは迷宮の最深部や深き森、山々の深淵に身を潜め、決して人界に出てくる事は無くなった。


そうした年月が流れ、多くの人々にとってゴブリンやグレイウルフ程度等の魔物は身近にいても、ドラゴンといった人にとって天災のような脅威は、一部の高位冒険者達のみが目にする存在になったのだ。


―そして自分達を襲おうとして向かって来ているアレは、それ以上かもしれない魔物なのだ。


公爵はさらにその魔物と、今まさに戦っている者達に視線を向ける。

特に公爵自身が『勇者』と呼ぶ青年にだ。

今彼は、見なれぬビースト族の女性と一緒に戦っている。

彼と彼女が二人して放つ(ように見える)弓の一撃は、かの魔物に大打撃を与えているようだ。

今も二人が射った一撃は、魔物の一部を大きく爆砕させている。


「公爵様も早く、お下がりください!」

騎士のひとりが、パーミル公爵を促す。

アーザンの魔物は、もうかなり近づいて来ている。


―勇者殿の助けとなるはずが、逆に足手まといになるとはっ!

無力さを知るためだけに、ここまで来る事になってしまった自分に、パーミル公爵は歯がゆさを感じていた。


―キュオオオオオォォォ!


―ボボボボボボッ!


待避のため踵を返したその時、異様な音が背後から聞こえ、公爵はおもわず振り返り魔物の方を見た。

…魔物から、雨の様に何かが降り注がれ、勇者やジェファーソン達に襲いかかっている!

公爵はウマの歩みを停め、皆の様子を見守った。


雨霰と降り注がれた魔物の攻撃が晴れる。

はたしてそこには、無傷で立つ皆の姿があった。

「おおっ!」

パーミル公爵は声にだして、無事を安堵した。


―オオオオォォォ!!


しかし再び魔物が、魂を鷲掴みされるような恐ろしい咆哮をあげた。

と、同時に勇者達一行を無視して、さらにこちらに向かって来る。

…しかもその動きが、余りにも速すぎる!

大きさもそうだが、見た目は肉で出来たスライムみたいなモノが、どうやったらあんな速度が出せるのか。


―逃げられない…。

パーミル公爵はとっさにそう感じた。

魔物の異常な速さは、重装備を着込んだ騎兵が逃げ切れる速さではない。

そう思った時点で、公爵は身体がすくんでしまった。


「へ、陛下をお守りするんだっ!」

周りの騎士達が、声をひきつらせながら、公爵の前にウマをなんとか並べようとする。

―いかん!私に構わず逃げるのだっ!

公爵はそう言いたかったが、恐怖のため喉がひりついて声には成らなかった。


若い頃、迷宮の奥で出会ったある魔物の事を思い出した。

あの時の絶望感と恐怖が甦り、公爵の身体を縛り付ける。

その時の戦いで、仲間の冒険者達を幾人も失った。

その中には、彼の人生において最も大切なひとも含まれていた。


その惨事以降、公爵はすっぱりと冒険者生活を辞めた。

生き残った冒険者仲間もバラバラになり、一人を除いて消息は全く判らないでいる…。


―あっという間に肉塊の化け物は、数十mまで近付いてしまった。

見上げるようにしないと、既に全体を見渡す事が出来ない。


アーザンの眷族と説明をうけたその化け物は、実に醜怪な姿だった。

表層は何かの筋肉や内蔵の様なモノがビクビクと蠢きながら、血管らしきモノが浮き出ている。

これまでの戦いで各所が抉れ、体液らしきモノがそこかしこから流れでているが、果たしてこの巨大な存在にどれ程のダメージを与えているのだろうか。


「あ…」

公爵も彼を守ろうと盾になっている騎士達も、余りの大きさにただ呆けた様に眺めるだけでいた。


―キュオオオオオォォォ!

―ボコボコボコボコッ!


「っ!」

「しまったっ!早く陛下を…」

魔物の変化に騎士達は我をとりもどすが、それは少し遅かった。

魔物の表面が泡立ち、それが弾けたかと思えば、そこから先程公爵が見た魔法の弾丸が、今度は自分達に降り注いできた。


―ドドドドゥッ!

「うわぁ!」「ひぃっ!」「あああっ?」

各所で阿鼻叫喚の悲鳴があがる。

公爵の前にいた騎士達に至っては、物言わぬ石や水晶の像と化してしまっていた。


公爵自身も、魔物の弾丸を受けてしまった。


―動けぬ…っ!


この感覚は冒険者達と共にいた時代に何度も受けて覚えている、―"麻痺"と"毒"だ。

指一本、唇を少し動かす事も出来ない。

そして身体から、どんどん体力が失われていくのが分かる。


…目の前の化け物から、肉色の触手が何本も素早く伸びてくる。

そして、手前の石像などになってしまった騎士達に絡み付き、本体の方へと引きずり込んで行く。

―アレに、こうして喰われるのかっ!

公爵もその恐ろしさに押し潰されそうになるが、叫び声ひとつあげる事が出来ない。


触手の一本が、公爵に絡み付いてきた。

―っ!!


「させるかあぁぁっ!」

突然一陣の風の様に何かが横切り、公爵に絡み付いていた触手が斬りとばされる。

同時に蜂の魔物や、小さな妖精達が前方で取り込まれそうになっていた騎士達を、次々に解放していく。


―勇者殿っ!

パーミル公爵を解放したのは、先程向こうで戦っていた、手にショートソードを持ったかの青年だった。


彼は手早く胸の前で、魔法の呪印のように指先を動かす。

すると直前に巨人が魔法陣より現れた。

しかし巨人は半ば石化してしまっている。

だが青年は、ちゃんとそれを解っていて召喚したようだ。


「【スキル】!【ヒールオール】!」

青年が呪文の様なものを唱えた。

すると前方の巨人が緑の光に包まれ、一瞬にして石化が解ける。

効果は公爵達にも及んだ。

同じ光に包まれたかと思うと麻痺の息苦しさが無くなり、おまけに毒で失われつつあった体力まで全快している!


「おお…なんという魔法だっ!」

喋れるようになって、青年の魔法に驚嘆している公爵に叱責がとぶ。

「早く下がって!

あんたらもなにやってんのっ!公爵さんを早く下がらしてっ!」


青年の言葉に、石化等から急に元に戻って茫然としていた騎士達が、はっとして慌て公爵を下がらせてゆく。

その時青年が周りのを見渡して、まだ一部治っていない者がいるのを見つけて、驚いた表情をした。


「くそっ!どうゆう事だっ?」

青年は小さく呟きながらも、また指を動かした。

すると彼の手元に、二つの小瓶が現れた。


―マジックポーションに似ているな…。

公爵は騎士達に促されつつ、勇者の青年をみていた。


彼は二つ出した小瓶のうち、ひとつをぐっと飲み干した。

ひどく顔をしかめるが、我慢してまた先程の呪文を唱えた。

「【スキル】、【ヒールオール】!」


とたんに残りの状態異常を受けていた騎士達も復活をはたした。

彼は残りの一本をまた飲み干すと、大声で復活した者達に叫ぼうとした。


「あとは俺が…っ?」

だが急に青年は頭を抱えて、うずくまってしまった。

「勇者殿っ?!」

彼の異常に気付いたパーミル公爵が騎士達の制止を振りきって、青年に近寄ろうとした。


「だいじょう…ぶだからっ!

アンタはさっさと下がってくれっ!

アンタが下がらないと、皆が逃げられないだろうがっ!!」

とんでもない不敬な言い様だが、パーミル公爵は彼の言葉にはっとした表情をみせた。


苦しそうな顔を見せていた青年だが、ゆっくりと立ち上がると正面の化け物を睨む。

「"ヒルジャイアント"いくぞっ!」

「応ッ!」


そう言うや、巨人と共に肉塊の化け物に向かって突っ込んで行く!

触手が彼らを阻もうとするが、それを半ば力づくで弾き飛ばす!


―ズドンッ!

雄叫びをあげながら、巨人はその肉塊にたどり着く直前に大きくジャンプした。

巨人の踏み込みに、地面が揺れる。


その時青年は、魔物の斜面を駆け登っていた。

ブヨブヨの足元をものともせず、頂上近くまで一瞬で登りつめた。

―ドバアァ!

そこへ巨人が半ばめり込むように着地する。


「"ヒルジャイアント"!やってくれっ!!」

「オオッ!」


「なにいっ!」

パーミル公爵は待避も忘れ、青年がどうするのか見届けていた。

そしてその行動に叫んでしまった。


なんと巨人は青年をムンズと掴むと、彼を掴んだ右腕を半ばまでめり込ますまで、魔物の中へ突っ込んだのだっ!

「…ッドフィンガァァァガボボッ…」

青年が肉塊に埋もれる直前、何か叫んだ様に聞こえたが、パーミル公爵にはよく聞き取れ無かった…。

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