アーザンズスポーン戦Ⅲ
「シュートォ!!」
「ニャー!」
―ドウッ!
「ゴォアオオオオオォォォ!!」
またしても一発命中!
"アーザンズスポーン"に取り込まれている魂は、全部で六つだった。
今ので三つ開放出来た。
もうそろそろ身体を維持出来なくなるはずだ!
―オオオオォォォ!
よし!気色の悪い肉山の頂点が崩れ始めてきた。
あともうチョイだ!
しかし同時に防御値バーを見ると、バーの色が黄色になってしまっている!
しまった!
魂を減らした事によってバーの長さが、元の長さの半分近くになった。
そのため今まで与えたダメージ量の全体に占める割合が増え、一気にバーが黄色ゾーンにまでいってしまった!
―キュオオオオオォォォ!
今までと少し異なる咆哮と共に、"アーザンズスポーン"の表面各所で異変がおこる。
―ボコボコボコボコッ!
まるで泡立つように、表面が盛り上がっていく。
―ボボボボボボッ!
「うわあっ!」
盛り上がった部分が弾けたとおもったら、そこから一斉に【カオスブリット】を打ち出してきた!
それはまるで花火の様に、360゜全方位にだ!
「くうっ!」
今ので俺を含めたほとんどの人達に付与されていた、【月光護身】が消えてしまった。
それに"ヒルジャイアント"と"シルバーウルフ"が身体がデカい分、複数【カオスブリット】の攻撃を受けてしまい、石化やクリスタル化、あと毒のバッドステータスを受けてしまう。
ただ物理的なダメージは少ないのが、不幸中の幸いだ。
急ぎ【チェンジ】キーを使い二体を下がらせ、替わりに"スケルトンウォリアー"二体を呼び出す。
「護りの効果が切れた者は、回避に集中せよ!」
ダイトさんが体勢を立て直すべく、声を張り上げる。
彼は上手く避けれたようだ。
…しかしゲームの時は2~4体程度への複数攻撃だったのに、こっちじゃあとんでもねー攻撃方法になってるな!
もう一度あの複数攻撃を食らうのはマズイ、あと一人開放出来れば、間違いなくアレは倒せるはずだ!
「ミールさん!もう一度いきます!」
「…もう!私たちパートナーなんでしょ。
『ミール』って呼び捨てにしてって、言ったはずよ?」
そう言って、スリスリすり寄ってくるミールさん。
未来のミールなんかもしれないけど、こんな色っぽいおねーさんにすぐ馴れ馴れしく出来るか!
からかうにしても、場所を考えてっ!
そんな周りから見れば、『ナニこんな時にイチャコラしとんじゃ、オラァ!』と誤解を招きかねない状態の時に、"アーザンズスポーン"の動きが止まる。
「?」
倒せたのか?、と皆一瞬考えてたのだが、それは間違いだった。
"アーザンズスポーン"は急に俺達を無視して、ある一方の方向へウゾウゾと向かい始めたのだ。
その動きは思った以上に速い。
その先に何があるのか視線を向ける。
はたしてその先、約2km位むこうの平原に見えたのは、多数の騎馬の姿だった。
―救助の援軍だっ!
だが援軍を見て、ミールさんが表情を曇らす。
「…マズイわ…。
私たちが手強いと感じて、より多く手軽に贄になると思ったみたい!」
「っ!」
「彼らがヤツに取り込まれてしまったら、元の木阿弥になってしまうわ!」
…援軍の人達は、"アーザンズスポーン"がどういうモンスターが判っていない。
無闇に突っ込まれたりしたら、大惨事になってしまう!
「くっ!早く倒してしまいましょう!」
「ええ!」
幸い"アーザンズスポーン"の動きは、速いといっても子供の駆け足位のスピードだ。
ただ問題は援軍の方だ。
騎馬だから、あっという間にこちらにたどり着いてしまうだろう。
俺とミールさんは、駆け足でヤツに追い付く。
同じく追い付いてきたダイトさん達に、手早く先の事を伝える。
「わかりました!
私が一番足が速いでしょう。
伝えてきます。」
ネスフさんがそう言うや、風の様に"アーザンズスポーン"を追い越して行った。
俺もミールさんとヤツを追い越し、少し距離をとって必殺の神弓攻撃を放つ。
「シュートォ!」
―ドガァッ!
だめだ!右に逸れた!
「チョイ左っ!」
「はいっ!」
しかし彼女が二射目を放つ前に、"アーザンズスポーン"が単発の【カオスブリット】を飛ばしてきた!
「くそっ!」
二人して間一髪で避けれたが、照準を一からやり直さないといけない。
「ん?」
ふと先の外した所を凝視してみる。
神弓の爆発的な一撃で肉が大きく抉れているが、その奥に小さく紅い光が見えた気がしたのだ。
「何をしているの?
もう少し距離を開けるわっ!」
「え?あ、はいっ!」
俺達に肉の触手が届き始めたので、ミールさんが俺を促した。
…あの光はもしやっ?
更に100mほど後退する。
チラリと背後を振り返ると、騎馬の一団が見える。
その数は50騎ほどか?
もう1Km近くまで来ている!
ネスフさんが合流するには、あと少しかかりそうだ。
「ひきつけて射つわっ!」
「わかった!」
狙うのは、あのおっちゃんの魂だ!
ヤツとの距離が10m位まで縮まる。
俺達に飛んでくる触手は、"スケルトンウォリアー"と"フェンサースプライト"、"アルラウネ"達が斬ったり払ったりして、防いでくれている。
「シュー…」
狙いを充分に集中して放とうとしたその時!
―ボコボコボコボコッ!
「回避集中せよっ!」
ダイトさんの指示がとぶっ!
また【カオスブリット】の乱射モードだっ。
「くそぉ!」
―ボボボボボボッ!
雨粒のように【カオスブリット】の弾丸が、俺達を襲う。
しかし今回は前の様にはいかない!
ヤツが乱射モードの動きに入った時点で、俺とミールさんは射撃を一旦中止し、回避に集中している。
"アーザンズスポーン"から俺に向かってくる【カオスブリット】の弾丸は三つ。
それが判るくらい、弾の速度が遅く見える!
【刻梟の瞳】の効果だろうが、コレすげえな!
素早く動けるようになる訳ではないので、自分の動きも、もどかしい程遅いのだが、なにしろじっくり確認しながら避けれるのだ。
冗談のように簡単に回避出来た。
…攻撃が終わると、周りのスピードが元に戻ってくる。
回避に集中する時だけ、あの感覚になるのだろう。
皆を確認するが、カードモンスターを含めて全員、あの乱射の中を完全に避けきっていた。
「…こりゃ、すげえわ…。」
―オオオオォォォ!
俺達が【刻梟の瞳】の効果に驚いている一瞬の隙をつくように、"アーザンズスポーン"が俺達に突進してきた!
「うおっ!」
慌て脇へ逃げる。
だかヤツは、俺達が目的ではやはりなかった。
ヤツが突き進む先には、パーミルの騎兵さん達がいる!
―オオオオォォォ!
「なっ?!」
"アーザンズスポーン"が、移動速度を上げた!
―しかも速えぇ!ウマの駆け足並のスピードだ!
「ヤベェぞ!」
皆の足ではもう追い付けない。
アレに追い付けるのは、もう俺だけだ!
「させるかあぁぁっ!」
「アナタッ?!」
ずいぶん長々となってしまいましたが、次回で決着します。




