ジェファーソン救出Ⅰ
「たった今物見塔の者から戦時用の緊急発光弾が、レント山の向こう側より上がるのを発見致しました!
数と色から、発信者はジェファーソン様、『緊急』『襲撃』『応援』と判明致しましたっ!」
「くっ!
山向こうならウマを飛ばしても、一時間はかかりますね。」
「飛竜隊が全て出発したばかりのこの時に…」
「もしかして、それを見計らっての襲撃でしょうか?」
「まさかっ!まだ内通者がいるというのかっ?!」
ざわめく一同に対して、パーミル公爵が号令を発する。
「…ここで敵を判じていても、ジェファーソンの救援にはならぬ!
至急、救援の騎馬隊を編成、編成出来次第直ぐ様出発せよ!
また飛竜隊に戻るよう、使いをだすのだっ!
また城下及び"大トンネル"には警戒態勢を発せよ、敵の陽動の可能性がある!」
…パーミル公爵って昼行灯なイメージがあったが、いざと言う時は指導力を発揮するんだな。
あ、『昼行灯』って、"普段は居るか居ないか分からない程の存在感しかないが、いざと言う時には存在感を示す"人って意味だったから、まさしくその通りか。
俺は変な所に感心しながらも、慌て新しく立ったイベントフラグの旗に触れてみる。…そしてその内容に血の気が引く。
イベント名:【ジェファーソン救出作戦】
イベント発声条件:
ジェファーソンからの救援要請の報せを聞く。
イベント内容:
規定時間内にジェファーソンに合流、救出せよ。
規定時間内に合流出来なかった場合、ジェファーソンは死亡、イベントは自動的に受付終了、失敗となる。
規定時間終了まで【00:48:58】
成功条件:
ジェファーソンを死亡させず、戦闘を終了する。
イベント期間:
受付終了まで【00:48:58】
イベントボス:
"無貌"の アンサー Lv ???
(カオスマンサー/???/??/闇属性)
AT:???/???(+???)
DT:???/???(+???)
スキル:EX 【黒騎士召喚】【カオスサイト/中級】【リープシャドウ】 【闇魔法/中級】
達成報酬:
経験値:+890
晶貨:+5.600
【身代りの封石】× 2
【スキルポーション】× 3
【ハイポーション】× 3
【進化カード(R)】× 2
【レア召喚チケット】× 2
上位者報酬:
【エクスポーション】× 2
【進化カード(HR)】× 1
モンスターカード【デスナイト】× 1
※上位者報酬はボスキャラクターを倒した場合、支払れます。
…やっべぇ…色々な意味でヤバイ。
このボスキャラクター、間違いなく強敵だ。
モンスターならHRクラス、…もしかしたらSRクラスかもしれない。
ステータスはほとんど判らないが、報酬の桁外れな良さとヤツのスキル内容から、敵の強さがだいたい推測出来る。
まずまともに戦って、勝てる相手じゃねえ。
くそっ!こんなのゲームなら、もっと中盤以降に出てくるボスキャラだぞ!
唯一の救いは、イベントの成功条件が敵を倒す事じゃないことだ。
なんとか敵から逃げ出せればいいのだ。
それよりも今は時間だ!
ウマで行ってたら、間に合わない!
イベント内容の規定時間は、刻一刻と数字を減らしている。
幸い俺の脚力は、"グレイウルフ"を優に越える。
ウマなんかより絶対速いし、たぶんこの位の距離を走ってもバテないはずだ。
全力ダッシュで走れば、間に合うはずだ!
「俺、先に行きます!
そうしないと、ジェファーソンさんが危ない!」
説明している時間はない。
問い質そうとするパーミル公爵達を後に、部屋を飛び出そうとする。
「私も行きましょう。」
ネスフさんが進み出てくる。
俺だけならダッシュで行けるが、この人連れてとなるとどうする?
一瞬背中に背負って、走る姿を想像してしまった。
「君のシルバーウルフなら、二人位なら大丈夫だと思うが?」
あ、そうか!
ネスフさんはまさか俺が、自分の足で走って行くとは思ってはいなかったようだ。
まあ何十km も、ウマ以上の速さでダッシュ出来る人間なぞ、普通想像はつかんわな(笑)。
俺も逆に、"シルバーウルフ"の脚力を失念していた。
「私もよろしいかな?」
「大司教様、貴方まで何を言われる!」
一同の中から大神官さんまで名乗りでる。
「…敵の親玉には、先に言いました【黒騎士召喚】を使うヤツがいます。
"ブラックナイト"が、多数いるはずです。
もちろんその親玉は、それ以上に強いはずです…。」
「「「っ!」」」
俺の言葉に、一同が息を飲む。
だが大神官さんはそれに動じず、俺に質問で返してきた。
「君はその敵に対して、勝算はあるのかね?」
「…正直、ヤバイと思ってます。
なんとかジェファーソンさん達を救出して、逃げ出せれば良い方だと思ってます。」
俺はバカ正直に答える。
勝算が薄い所に、国の要人を連れて行くのはマズイだろうと思ったのだ。
俺の答えに、再び皆が息を飲むのが分かる。
しかしその渋いロマンスグレーな大神官さんは、俺に向かって歴戦の戦士のように不敵に笑う。
「フハハ!…うむ!私は君を勇者と認める!
セレアルト様にお仕えする者として、勇者を助けるのは義務である!
これ、私のメイスと胴鎧を急げもてっ!」
―ああ!このヒト、あの熱血バカ神の神官だったのか!
渋い外見に騙された!
大神官さんは、どこからともなく現れた神官から、ものごっついメイスと胴鎧をアッと言う間に装備してしまう。
「どうやら時間が無いようだな。
パーミル公、非常口を使いますぞ!
後はお頼み申した!」
そう言うなり、パーミル公爵の返事も聞く前に、部屋の奥にある扉を開ける。
そこには下へと続く細い階段があった。
「さあ!」
大神官さんに促され、ネスフさんと一緒にその急な階段に足を踏み入れる。
「勇者様!ご武運を!」
背中にセレアル姫の励ましの声が聞こえた。
まあ今応援してくれるという事は、もう俺に対して恨んでないという事かな…?
大神官さんを先導に、階段を更に降りる。
どうやらこれはパーミル公爵が、非常時に脱出する為のモノのようだ。
大神官さんの背中を見ながら、彼のステータスを今さらながら確認する。
ダイト=アレン・トーミラル Lv 49
(マスタービショップ/ヒューマン/男/土属性)
AT: 9.570/9.570(+2.200)
DT: 8.940/8.940(+1.900)
スキル:【神聖魔法/上級】【パワードセレアルト/中級】【光魔法/中級】
ほほぅ!これはネスフさんと変わらない戦闘力だ。
使いこなれたメイスといい、このヒトかなり戦闘経験があるみたいだ。
この二人が加わってくれたお陰で、かなり勝率が上がった気がする。
階段が終わった所の扉を開ける。
テラスのような所にでるが、ここには衛兵さんが二人立っていて、中から出てきた俺達にぎょっと身構えるが、その中の一人が大神官さんであるのが判り、慌て敬礼をする。
「こ、これは大司祭様!」
大神官さんは「うむ、御苦労!」と言って、そのまま横にある梯子を降りる。
地上迄は5mほどだ。
降り立った所は、パーミル城のどうやら真後ろらしい。
目の前に少し大きめな、勝手口のような扉がある。
おそらく外への出口だろう。
「この扉を出れば、パーミル城外まですぐだ!」




