パーミル城一室にてⅢ
「…んで何の用よ?って、聞くまでもないわねっ!
ククク!
どお?勇者さまになったご気分は?」
「やっぱりかいっ!」
アルシェーナちゃんはたぶん真っ黒オーラを出して、邪悪な笑みを浮かべているのだろう。
実に嬉しそうな声だ。
俺はもうそれだけで、かなり疲れてしまった。
「…ナニしてくれたんだよ~、俺がナニしたって言うんだよ~!」
「…ナ、ナニって、アンタ触ったじゃない!」
俺の泣き言に対してアルシェーナちゃんの声は、打って変わって狼狽したようになる。
「へ?」
「わ、私とファニールのスカートの中に…」
「あっ!えっ?俺、どこ触っちゃったの?」
「そ、そんな事言えるワケないでしょっ!この婬獣魔王がっ!」
―どこを触ったんだ俺は…。
「フフフ…乙女の大事なトコ触ったんだから、これ位は苦しんでもらいましょうか…。」
冥界の死神みたいなおどろしい声が聞えて、俺は心底震え上がる。
もはや問い詰めようとする勢いなんか、吹き飛んでしまいました!
「…スイマセン。
あの…せめてどんな事をパーミル城の人達に仰ったか、愚かな私に教えて頂けないでしょうか?
スイマセン。」
俺のマジビビリな感じに、アルシェーナちゃんは少し機嫌を戻されたようでした。
「フフン…、それはリエータお姉様に、直接訊いた方がいいんじゃない?」
「アルリエータさん?」
「言っておくけど、あたしは何も地上のヤツらに言って無いわよ。
"アレ"を言ったのは、リエータお姉様なんですからね!」
―なんだよ…、そのアレって…。
「あたしからは可哀想過ぎて、とてもじゃないけど説明出来ないわ(笑)。」
「…今の言葉、言葉尻に(笑)って付いてるように聞こえんだけど?」
「そんな事ないわ(笑)。
―まああたしなら、内容聞いたら死にたくなるわね。」
―ナニソレ、聞きたくねぇ!
「…これ以上アンタと話したら妊娠してしまうから、これで切るわよ。
じゃあねー。」
しっかり毒舌の刃を突き立ててから、アルシェーナちゃんは【フレンド会話】をブチっと終了した。
こちらも回線を切り、しばし考えてみる。
アルリエータさんが何かトンでもねー事を言ったという事だが、彼女が俺に、アルシェーナちゃんの様な悪意をもっている風には見えなかったんだがなー?
そ、それともさっき、何か彼女を怒らせる事を、俺やっちゃったんだろうか?
…わかんねー!
思い出してみたが、先ほどは大して喋ってなかったはずだ。
アルリエータさんは、ヤッパリ隣のねーちゃんのイメージが強くて、どうしても悪い人には思えない。
それどころか、本当にねーちゃんみたいに、なんだかんだと世話を焼いてくれる人のような気がするんだが…。
…ええい!ビビっていても仕方がない!
本人に直接訊いてみるしかない。
まだ【フレンド一覧】のままになっている画面の、新しく登録出来た【アルリエータ】さんのキーをタッチする。
ツーツーツー
「(鼻を摘まんで喋っているように)こ、コノ回線は・げ、現在使われてイマセン。
ご、ご用ノカタハ・ぴぃという発信音ノ後ニ……」
「いやもうそのネタ、アルシェーナちゃんがやっちゃってるから!」
―しかもカミカミだし!
まさか天丼ネタ?でくるとは思わなかったわ!
「ア、アハハハ!
い、いやー、シェーナに先を越されたかー!
アハハハ、ハ…ハ…。」
アルリエータさんは乾いた笑いで誤魔化そうとするが、俺が沈黙を守っているとその笑いも尻すぼみになっていく。
「ご、ごめんなさ~い!!」
一瞬間を置いて、アルリエータさんは俺に謝りまくったのであった。
……
「…あ、あのね、キミがシェーナにぶっ飛ばされて気を失って、そのあとパーミルの人達との間に、何だがビミョーな雰囲気になっちゃったのね。
しかも私達の《神威》って、自分の精神状態や相手の心に左右され易くて、…その、《神威》の威力もああなると、薄まってしまう訳なの。
…えーと、つまりあの時、私達の神様としての威厳が、かなりダメな感じになっちゃってたのね。
―このままではウルティナ様の威厳まで揺らいじゃう!って思ったの。
それにキミだって、このままじゃあ何だか変な立場になっちゃうでしょ?
それなのにシェーナはサッサと帰ろうとするし、ピーニャ達はキミとのフレンド登録に躍起になって、周りの事なんかまったく考えてないし!
だからここは私が何とかしなきゃ!って、思ったの!」
―何とかしなきゃ!と考えたアルリエータさんは、そこでメガトン級の爆弾をパーミルの人達にブチかましたのだ。