混沌の欠片
もはや俺の必殺技になりつつあるDOGEZAを華麗に繰り出して、何とかアルシェーナちゃんの怒りを鎮めてもらい(もちろんそれ迄にかなりボコられました!)、もう一度最初から彼女が話していた事を教えてもらった。
「混沌の欠片?」
彼女達が降臨してきたのは、俺の"フレンド登録"もあるが、それよりもアルピーニャさんが持っている"モノ"の回収が目的だったのだ。
それは拳半分位の大きさで、一見してゴツゴツした石ころのように見える。
ただ所々から真っ赤なクリスタルが見え隠れして、それがゆっくりと明滅していた。
混沌神、つまりはアーザンの事で、コレはアーザンが大昔に復活しかけた時(イベント"アーザン復活"の事だね)、その身体を構成していたモノの一部分なのらしい。
それがこのパーミル城の空中庭園の中に埋まっているのが判ったのだ。
「まさかっ!
この城にそのような邪悪な物があれば、気づくはずです!」
おもわず大神官さんが、《神威》の事も忘れて声をあげる。
たがすぐ我に返って、「失礼致しました!」と縮こまる。
「そう畏まらないで下さい。」
アルリエータさんが大神官さんに話しかける。
「あなた方が気付かないのも無理はありません。
混沌神というのは、邪神や魔神といった存在とは異なります。
…どちらかといえば、私達の方に親いものなのです…。」
「な、なんとっ…!」
パーミル城の人達が、一様に驚く。
アルリエータさんによると混沌神アーザンは旧い神々の一柱で、この世界創世期に今の神々と袂を分けたのだそうだ。
最初から現神々の敵対勢力としての魔神・悪魔、そしてそうした魔神にそそのかされ『堕ちた』邪神・妖神の類いとは一線を画する。
そのせいで、普通の瘴気や邪気の探知魔法には引っかからないらしい。
まあそれを聞いた俺の感想としては、どこぞの暗黒神話に出てくる旧き神々を想像した。
…たしかゲームでもアーザンの姿は、悪夢から出てきたようなグロキモなイラストだった。
そんな姿でも魔神・邪神のように瘴気・邪気の類いを吐き出す事はない。
混沌神アーザンは、ただ純粋に世界を混沌で満たす事のみを願う神だったのだ。
そのためこの世界創世後間もなく、秩序を主とする今の神々によって滅ぼされ封印されてしまう。
―とまあアルリエータさんから聞いた内容なのだが、アルリエータさん自身もウルティナ様から教わっただけで、アルリエータさんはまだ生まれて?いなかった。
当時直接関わった神様は、現在、もうそう多くいないそうな。
「はい!ひとつ質問があるっす!」
手を上げて、俺はアルリエータさんに質問する。
「はい、なにかな?」
アルリエータさんが、小さく小首を傾げて問いてくる。
…くっ!こんな仕草も、ねーちゃんに似てんだよなー。
「その"混沌の欠片"があると、どうなるんすか?」
魔神・悪魔等のアイテムなら、呪われたり、瘴気を撒き散らして周囲を汚したりするんだが…。
アルピーニャさんが、アレを汚ならしいモノを持つようにつまんで持っている。
という事は、何らかの穢れを発生させているのか?
「えっとね~。
周囲の魔力や生命力とか精霊力を取り込んで、何でも狂わしちゃうんだよ~。」
アルピーニャさんが代わりに答える。
「狂わす?」
「そだよ~。
ヒトならイッちゃったヒトになっちゃうし~、大地ならワケ解んないモノが生えてくるし~、生き物はモンスター化しちゃう。
上が下になって~、熱いものは冷たく、白いのは黒くなっちゃうんだよ~!」
…最後の方はよく解らんかったが、とにかく滅茶苦茶になってしまうという事か?
「魔力の少ない所や、生き物のあまり居ない所では、大した事態にはなりませんが、この場所ならいずれ何等かの怪現象が起きてたはずですわ。」
たしかにパーミル城は莫大な魔力で浮いているし、街としても大きな方だから、生命力も満ちているだろう。
「…なんという事だ…。」
アルサレーナさんの説明に、パーミル公爵がうめくように呟く。
「それにわたくし達との交信や願いが、わたくし達に届かなくなっていくはずですわ。」
「あ…、もしかして。」
俺の視線に、アルシェーナちゃんがフン!とため息とも何とも微妙な息を吐いて同意を示した。
「そうよ。アンタがウルティナ様やアルキエラ姉さまに連絡しようとして交信障害がおこったのが、モニターしていて判ったの。
だからもしや、と思ってアンタの周囲を調べてみれば案の定だったわ。」
この"混沌の欠片"のような旧神の忘れ形見は、過去に何度か発見されているが、モンスターの異常出現や謎の大量突然死といった大事件になってから初めて発見されるケースがほとんどで、事が大きくなる前に見つける術は神様でも難しいらしい。
事が大きくなる前に見つけられた時というのは、ある特定の地域で急に神々への祈願が激減したりして、今回のように不審に思って調べてみて発見できたケースが数件あるのみなのだそうだ。
「今回は本当に運が良かったね~。
たぶんここに埋められてから、まだ数日しか経ってないと思うよ~。」
アルファニールちゃんが何処からともなく取り出した不思議な光沢を放つ袋に、アルピーニャさんが持っていた"混沌の欠片"を入れる。
アルピーニャさんの言葉に、公爵以下パーミルの人々から安堵のざわめきがこぼれる。
「…いったい誰が、こんなモノを埋めたんだ…」
どこからか、そんな呟きが漏れる。
―いやつーか、どー考えてもあのオッサンでしょう…。
この場にいるほとんどの視線が、バンドゥに集まる。
あれほどギャーギャー言ってた当のオッサンが、アルシェーナちゃん達が降臨してきてから静かなのは理由がある。
…オッサンは、少し向こうで仰向けでひっくり返ったカエルのように倒れている。
白目をむき、口から泡を吹いて時々ビクンビクンとケイレンしているのがキモい。
ちょうどアルキエラさんが降臨してきた時の、フリード達の姿にそっくりである。
この反応だけで、もうギルティーと言っていいでしょう。
「…そっちの方はアンタらに任すわ。」
そう言って、アルシェーナちゃんは帰ろうとした。
「ちょとぉっ!待ってよ!
まだこのコとフレンド登録してない!」
そう言うや、アルファニールちゃんが、そのちっこい身体で飛び付いて来た!