降臨Ⅱ
四本の光の柱は、アルシェーナちゃんの時よりおとなしかった。
その内の一本、アルシェーナちゃん近くに降り立った光の中から、一人の女性が現れ、アルシェーナちゃんと一緒にこっちに向かって来た。
その女性はウルティナ様の眷属の常として、やはりビースト族の姿をしていた。
一言で言えば、虎っ娘のお姉さんである。
オレンジに近い黄色と黒の虎縞模様のケモノミミとシッポ、肩までで切り揃えた髪は先の方だけ黒くて、あとはケモノミミと同じ黄色だ。
「お久しぶり!かまたは初めまして、かな?」
その声には聞き覚えがある。
「あ、アルリエータさんですか?」
従属神アルリエータ(降臨Ver. ) Lv 294
(ウルティナサーバント/神族/光属性)
AT:257.000/257.000(+25.500)
DT: 289.000/289.000(+38.000)
スキル:【神威魔法/中級】【ウルティナシフト/上級】【リードイメージ】
彼女がすぐ近くまで近づいてくれたので、ステータス詳細が読めるようになった。
「わ、覚えてくれてたんだ!」
嬉しそうに、微笑んでくれるアルリエータさん。
アルリエータさんを『お姉さん』としたのは、アルキエラさんより少し年上に見えるのと、転生する前隣に住んでたねーちゃんに、何となく雰囲気が似ているせいだ。
さて、アルシェーナちゃん、アルリエータさんときてあと三柱となれば…
「あ、後の三人も覚えてるかな?アルピーニャ達だよ。」
…やっぱりそうっすか。
そのアルピーニャさん達の光の柱も消え、彼女達は少し向こうの庭園の方で何かしている。
「ねえシェーナ、そろそろ赦してあげたら?」
アルリエータさんが、苦笑混じりでアルシェーナちゃんを諭すように話す。
「?」
俺が何の事か解らない顔をしていると、アルリエータさんがその理由を目線で示してくれた。
「うえぇぇ?」
アルリエータさんの視線の先にあったのは、パーミル家臣団以下の方々が、大変な事になっている姿だった!
彼らの殆どが土下座状態で、まるでおそろしく重たい物を背負わされているように、両腕で身体を必死に支えていた。
何人かは既に支えきれず、地面に這いつくばった状態になっている。
「ちょっ!
なんすかこれっ!」
それにアルシェーナちゃんが答える。
「ふんっ!
決まっているでしょ。
この下等生物を通して、私達と繋がりを持とうとしたバカ共に、身の程を教えているのよっ。」
…うわー…えーと、そんなに怒られる事なのかな…?
ってか、下等生物ってヤッパ俺の事?
え?ハイ、そーっすよねー!
アルシェーナちゃんに睨まれ、縮こまる俺。
「ってゆうか、何でアンタは平気な顔してんのよっ?!
少しは苦しいとか感じないのっ?」
―と言われましてもねー?
アルキエラさんの時もそうだったが、彼女達の存在に俺は何のプレッシャーも感じなかった。
理不尽なアルシェーナちゃんの文句に、思わずアルリエータさんに助けを求める。
「まあ君のレベルを考えたら、いくら地上の人といっても当然の事ね~。
…それよりも!
本当にそろそろ《神威》を弱めなさい!
これ以上続けたら、死んじゃう人がでてくるわ。」
―どえぇぇっ?そんなにヤバかったのか!
こえー!アルシェーナちゃんマジこえー!
アルリエータさんが諭した事で、アルシェーナちゃんも渋々《神威》を弱めたようだ。
向こう側から「うう…」「た、助かった…」といった半死半生の声が聞こえる。
因みに、大神官さんやネスフさん、あとパーミル公爵のほか二人程は、アルシェーナちゃんのプレッシャーに耐えて、なんとか拝礼のポーズをとり続けていけてる。
ジョシュアさんやセレアル姫は、《神威》が弱まってやっと方膝立ちが出来るようになったばかりだ。
アルリエータさんが『死んでしまう』とまで言ってたので気になって、パーミル公爵の方に駆け寄る。
弱まったとはいえ、この《神威》の中で平気な顔をして動き回る俺に、また驚かれてしまった。
―皆の体調を訊ねたが、どうやら大丈夫そうだ。
ゲームの時ではこの従属神達、割りと頻繁に地上に降りて来る事があった。
だがこんな《神威》で人々が、畏れおののくシーンは無かった。(つーか、この《神威》の存在自体知らなかった)
それどころか、ガンとばしてケンカ吹っ掛けるヤツとか、出会った瞬間にナンパするヤツとか、とにかく神と人との垣根がずいぶん低かった。
しかし思い返してみると、こういったNPC 達はイベント、つまり物語に深く関わってくる者達ばかりで、本当の意味で一般人とは違っていた。
なんせゲームだから、普段の生活を表現するシーンなんて無かった。
まあ《神威》について、ゲーム的に省かれていたのか、それとも別の理由があるのかは解らない。
「…にしても、なんでまたこんなに大勢で?」
思わず呟いてしまう。
ゲームのイベントでも神族がNPCとして参加した時でも、大抵は二柱位までだった。
今回のような五柱以上って、滅多に無かったように覚えている。
「今回私達、五人が降りて来たのは、アンタのせいなんだからね!」
「ええー?」
俺の呟きを地獄耳で聞き付けたアルシェーナちゃんが、アルリエータさんとこっちにやって来た。
パーミル公爵以下の方々は、神族が近くに来たので更に畏まる。
「こーら、そんなふうに言わない!」
アルリエータさんに、アルシェーナちゃんがたしなめられる。
「えーとね、実は…」