姫様と勝負~決着Ⅰ
「ちょっ、あなたっ…、どうして平気で立っていられますの…?」
「平気じゃないっすよ!
あっ!
ひゃー!血がでてるじゃん!」
姫様に切られた腰上あたりから、じんわり血がにじんでいるぅ!
おそるおそる、切られた所を見てみると、5cm ばかりスパッと切れていた。
さすが攻撃値3.000オーバーの切り攻撃は、パネェなっ!
「うっわっ!めっちゃ、火傷してるし!」
"ファイアリザート"の直撃を受けた腕や肩なんかに、2、3cm 位の火傷跡が残っている。
「え?…そ、それだけっ?!
普通だったら、即死ものの攻撃ですのよっ?!」
「いやいや!だったらその攻撃を躊躇いもなく、かましてきた姫様はどーなのよっ?」
「だっ、だって、あなたにはこれ位やらないと、行動不能には出来ないって聞かれてたから…」
……あー、まあ確かにそうなんだけどねー。
つーか、この程度で行動不能なると思っているとは、誰に聞いたかは知らんが、情報収集が足らんね(笑)。
ただそれを鵜呑みにして、攻撃してくるセレアル姫にはちょっとコワイものがあるわー。
…だって、その情報が間違ってて、俺が平均レベルの人間だったら、彼女自身が言っていた通り間違いなく即死している。
それをちょっとは、考えたりしたのかね、このドリル姫さんは!
「あ…、精霊達が…。」
隣のイスラさん(俺もそう心の中では呼ばさせてもらおう)が、右手のむこうを見て呟いた。
彼女の視線の先には、"レッサーデーモン"の【アイスジャベリン】を受け、光の粒となって消えていく最後の"ファイアリザート"がいた。
《BATTLE END 》
《YOU WIN! 》
晶貨23.990→24.590G
精霊石(小) × 3
精霊石(大) × 1
【ファイアリザート】HN Lv 1 × 4
最後の"ファイアリザート"が消えたあと、イスラさんと目が合う。
「あー、精霊は打ち止めですか?」
ダークエルフのおねーさんは、小さくため息をしたあと頷いた。
「イスラッ!
あなた、何を諦めているのっ?」
「…姫様…、もうこのあたりでお止めになられるべきです。」
「な、なにをっ!
大将である、わたくしはまだ、何の傷も負ってはいませんのよっ!」
「姫様っ!騎士団の者達を良くご覧になってください!
あの者達は、モンスターから何の傷も受けておりません。
モンスター使い殿は、誰一人傷付けずに、我が騎士団を退けたのです。」
「あ…。」
イスラさんの言葉に、姫様の勢いは失っていく。
…お?
これはギブアップですか?
だがその時、セレアル姫はふと場外へ視線を向ける。
俺もつられて、彼女の見ている方に目を向ける。
そこには申し訳なさそうな顔をした、騎士団の面々がいた。
「…そう…ですわっ!
わたくしが、この…わたくしがっ!
こんな屈辱的な負け方をしてはいけないのですわっ!」
―あちゃー!なんか変なスイッチ入っちゃった?
姫様は、イスラさんの制止に耳を貸す様子はもう無くなっており、再び剣をこっちに向けてきた。
「せめて、相討ち…、いえ、もう一太刀入れてみせますわっ!」
…なんかもう、悲壮な覚悟を背負ってらっしゃいます。
えーと、変に自己陶酔の世界に入ってません?
「無念に散った、騎士団の皆の為にもっ!」
騎士団、死んだことにされたっ?!
しかも姫様の瞳の端には、涙まで浮かべてるし…。
あーもー、邪魔くさい姫様だなっ!
こうなったら…。
「あ、スイマセン…俺、降伏しま~す!」
「なっ!ちょっと!
お待ちなさいっ!
どうしてあなたが、ここで負ける事になるんですのっ?」
「いやー、だって姫様、負け認めないじゃん。
だったら、俺が負けでいいかなーと…。」
なんせ当初の目的である、"ファイアリザート"はもうゲット出来たしね!
「……ど、どこまでわたくしを愚弄なさるのですか!
それはお互いの命を賭けた、この神聖な試合に泥を塗る事ですのよっ?」
「いやいや!命賭けてないから!
殺しちゃったら負けだからっ!
姫様、ちゃんとルール聞いてた?!」
「ルールなど些末なことですわっ!」
…うわー、こりゃアカンわ…。
「あーもー、俺の負けでいいでしょっ!
姫様のその気概に畏れをなしたとかで、さあ。」
「『とか』って言ってる時点で、畏れてないじゃあないですかっ!」
そうしている内にセレアル姫は、いいかげん俺の対応に頭にきて、目標をカードモンスター達に変えてきた!
「こうなれば、一匹でも多くのモンスターを道連れにするまでですわっ!」
そう言って、手近にいた"シルバーウルフ"に襲いかかる!
―おわっ!"シルバーウルフ"反撃しちゃだめだそっ!
つーか、逃げろっ!
俺は慌て、カードモンスター達を全て【カード一覧】に戻した。
「ムキー!わたくしとちゃんと勝負なさいっ!」
ええー?
俺は困って、イスラさんの方に助けを求める視線を送った。
だが彼女は、諦めきった表情を俺に返してきた。
その顔は少し前に見たジョシュアさんの苦々しい表情に、どことなく似ていた。
パーミル公爵の方を見てみる。
『ああ~!セレアル姫~、もうこれ以上止めて下され~!』ってな言葉を背後に背負ってらっしゃいます。
―こりゃ、こっちもダメだな…。
……仕方ない…。
「いいでしょうっ!
姫様!こうなったら、最後の勝負といたしましょう!」
「え?
そ、それでこそですわっ!
さあ!かかってらっしゃいませ!」