姫様と勝負Ⅳ
前後に挟まれた形になった騎士団の連中から、何人かが【スラッシュⅠ】や【チャージ】のスキルを使ったり、直接"ヒルジャイアント"に斬りかかる者がでてくるが、モンスターへの攻撃は全て弾かれ、傷ひとつ付くことはなかった。
「くそっ!何か異様に硬いぞっ?!」
「バカな!私の魔法剣で、傷ひとつ付かないだとぉ?!」
またダークエルフさんが召喚した"ファイアリザート"四体が、【火精霊魔法/初級】の【炎の矢】で"フェンサースプライト"に攻撃する。
"ファイアリザート"の身体から【炎の矢】が飛び出し、"フェンサースプライト"に次々命中する。
―精霊魔法は普通魔法と異なり、自動追尾能力があるので必ず命中するのだ。(ゲームの公式設定より)
「なっ、なんて防御魔法なのっ?!」
全弾直撃の【炎の矢】が当たったあとには、腰に手をあててふんぞり返る"フェンサースプライト"がいた。
彼女の身体には、傷どころか焦げ目ひとつついていない。
…これらは俺のスキル【パーフェクトガード】の効果だ。
このスキルの能力は1ターン(この世界では約5分くらいか?)の間、一切の攻撃を無効化する。
それは通常攻撃から魔法、スキルといった全てにわたって無効化するのだ。
ただし自分のカードモンスター達も、一切の行動がキャンセルされる。
一見、スゴいスキルのように思えるが、なにせ自分のモンスターも何も出来ないのだ。
ただ1ターン、敵の攻撃をボケッと見てるだけとなる。
ボスモンスターの攻撃を一回、様子見してみるくらいしか用途が無さそうに思えるが、このスキルはプレイヤー同士の対戦に効果を発揮するのだ。
『アルカナバースト!』では、度々プレイヤー同士の対戦が行われたが、ゲームが配信された当初、その戦闘はかなり単純なものになってしまっていた。
つまり初っぱなに、互いに最大級の攻撃を打ち出すというものだ。
…何度か話にでているが、ゲームの『アルカナバースト!』では、カードモンスター達に指示を出す事は出来ない。
何回も戦闘を重ねる事でモンスター達は賢くなり、最も効果的な行動を学んでいくのだ。
だが実は、『一番最初に最大級の攻撃をする』という事を覚えるのは、比較的簡単であるのが解ってくる。
例えば『最初から全力攻撃』のより、『3ターン待ってから全力攻撃』というのでは、後者の方は『3ターン待って』という事を『全力攻撃』の前に、余計に覚えていかなければならないのだ。
ましてや互いのモンスターの連携などを計算にいれると、更に複雑な事になる。
そうなってくると、皆とにかく攻撃値の高かったり、破壊力のあるスキルを持つモンスターばかりを集め、それらに1ターン目から全力アタックをさせる事が横行した。
実際、この戦法は有効な攻撃手段ではあるのだ。
だがそれでは戦いが大味になってしまい、すぐ飽きてしまう。
そこで初めてのアップデートの時に、この【パーフェクトガード】が新たに加えられた。
その結果、"初ターン大砲主義"は一気に力を失い、より戦術的なデッキが求められるようになっていく。
んで、この【パーフェクトガード】をなぜ今使ったかというと…
「うおりゃぁぁぁっ!」
「これならどうだっ!」
「でぇぇいっ!」
…このボンボン騎士団達に、スキルを使い切らすためである。
なにせ何も考えずに突っ込んで来るような、猪野郎ばかりなのだ。
絶対、最初からトバしてくるに違いないと思った。
ただコイツらの装備による攻撃値はバカにできない。
そこで【パーフェクトガード】の出番という訳だ。
「ハアハア、くそっ!これでぇどぉだあっ!」
「ハヒィハァ、倒れろぉぉっ!」
…あんたら、俺が言うのもなんだが、も少し考えたらどうかなっ?
言ってるうちに、【パーフェクトガード】の効果が切れてきた。
騎士団のニーチャン達にはもう少し頑張って(←鬼かっ!)もらうのに、もう一回【パーフェクトガード】をかけ直す。
この【パーフェクトガード】、実は使用するスキルポイントがたった1ポイントでいいのだ。
だがそのせいで『アルカナバースト!』のプレイヤー対戦時に、お互いこのスキルを延々出しあうという事態がおこった。
そこで二回目のアップデートで、【パーフェクトガード】は連続使用は3ターンまでとなった。
再び俺を含めた皆に、【パーフェクトガード】の効果が復活する。
「ええい!ラチがあかん!」
騎士の一人が膠着状態になっている集団から抜け出し、セレアル姫の方に向かおうとする。
俺はとっさに"ヒルジャイアント"に、邪魔するように頼む。
"ヒルジャイアント"は両手を広げ、その騎士の行く手を邪魔する。
―え?動けるの?
頼んでおいて今さら気付いたが、【パーフェクトガード】発動中でもカードモンスター達は普通に動けるようだ。
俺はてっきり某国民的RPG の勇者が使うア○トロンのように、彫像みたいになって固まってしまうイメージでいたのだ。
考えてみれば俺自身もこの効果を受けているのに、何の違和感もなく動けている。
「おわぁっ!」
さっきの騎士が、"ヒルジャイアント"の腕をかいくぐろうとして、逆に"ヒルジャイアント"にぶつかって尻餅をついてしまう。
―ん?これは使えるんじゃね?
ひとつ面白い事を、おもいついた!
"ヒルジャイアント"にその旨を伝える。
―了解ダ!
俺の考えを理解した"ヒルジャイアント"は、すぐさま行動に移す。
まず両腕を更に広げ、ぐっと腰を低く落とす。
そしてその状態から、前屈みになる。
いわばお相撲さんが、"見合って"の形から両腕を広げたようなポーズになる。
「「「?」」」
騎士団の面々もいきなりモンスターが、変なポーズをとり始めたので、一瞬手を止めて怪訝な顔で"ヒルジャイアント"を見る。
「よっしゃ!いけっ!
ジャイアント・ショベルカー!!」
「ゴウゥッ!」
俺の掛け声と共に、"ヒルジャイアント"が、そのままの体勢で騎士団に突っ込む!
「ちょっ!待っ…」
「あぶっ!」
「うわっ!どいてくれっ!」
騎士団の連中は、まるでショベルカーに掻き出される土砂のごとく、団子状態になってグイグイと押されていく!
たまに必死になって"ヒルジャイアント"に剣を突き立てようとする者もいるが、もちろん【パーフェクトガード】の効果で傷ひとつ付かない。
そしてそのまま、線引きされていた対戦エリアの外へ、弾き出されてしまう。
「ああっ!」「しまったっ!」
まるでサッカーのラインマンような審判で、ネスフさんが騎士団に次々と『場外アウト』を宣告していく。
「うしっ!残りもうっちゃっちゃってしまえっ!」
―任セロッ!
三人、何とか弾き出されず難を逃れた者がいたが、これらも"ヒルジャイアント"のお相撲さんばりの"突っ張り"で、あっという間に場外となってしまった!