姫様と勝負Ⅲ
公爵様は、セレアル姫を心配そうに何度も見ながら、後ろに退いた。
そして最後に俺の方を見て、『どうか、どおーか、穏便にお願いしますぞぉ!』と、もう背後に台詞が見えるくらいの視線を送ってきた。
…そんなに心配になるなら、騎士団を集めてたときから反対しときなさいっ!
「かかれぇ!」
「「「オオオッッ!」」」
姫様騎士団が、号令のもと、俺に向かって走りかかって来る。
陣形や隊列もクソもない、運動会かっ!ってツッコミをいれたくなるようなバラバラの猛進だ。
バルストさん達の卓越した連携を見てきてしまっているので、ことさら彼らの幼稚さがよく解ってしまう。
一方、俺の方は、"アルラウネ""フェンサースプライト"と"アサシンシャドウ"しかまだ出していない。
そしてその状態で、俺はくるりと彼らに背を向け、ダッシュで逃げ出した!
「なっ?お、臆病者めっ!
皆、追え!追えぇっ!」
と言う声が、後ろから聞こえる。
…この時点で、こんな限られたフィールドで逃げるなんて、おかしいだろ!って考えるヤツが居ないのは、軍人としてどうかと思うヨ。
俺は猛ダッシュで姫様がいる所から一番離れたコーナー部分まで逃げて、そこで初めて、追いかけて来ている騎士団の面々に向き直る。
今回は相手がモンスターでは無いので、カードマスターのスキルは使えない。
だが、それもここまでだっ!(たぶんっ!)
俺は"アサシンシャドウ"に姫様を攻撃するように命じる。
そう!姫様の足元にいる、"アサシンシャドウ"にっ!
「ヒッ?キャアアッ!」
「姫様っ?!」
「ああっ?姫様がっ!」
フハハハッ!ドリルの姫さん!
あんたが準備が出来たか聞きに来たとき、俺は『今』準備出来たと言ったでしょっ!
あのとき俺は、自分の影から姫様の影へと"アサシンシャドウ"を移していたのだ!
戦いとは、火蓋がきられる前からすでに始まっているのだよっ!
フハハハッ!
…ホント言うと、ダークエルフさんに見破られるかと、ドキドキしていたんだけどねー!
「姫様ぁっ!」
ダークエルフさんが姫様を助けるべく、姫様の方へ戻ろうとする。
彼女は姫様と俺の中間点辺りにいて、騎士団の応援と姫様の守りの両方を兼ねようとしていたようだが、それが仇となった。
「行かせねぇっ!
"フェンサースプライト"!頼んだっ!」
「きゅっー!」
"フェンサースプライト"をダークエルフさんの進路に割り込ませる!
「くっ!」
"フェンサースプライト"には、あえて攻撃はぜす、防御と回避に集中するよう言ってある。
「くうっ!どけぇ!」
ダークエルフさんがシャムシールと呼ばれる曲刀を振るおうとする。
だが"フェンサースプライト"の身体から紫色のオーラが吹き出し、同時に彼女の姿が二重三重にブレはじめる!
回避力を上げる"フェンサースプライト"の防御スキル、【サイドステップⅡ】だ。
「くそぉ!ならばっ!」
ダークエルフさんが、数歩素早く退き、"フェンサースプライト"から間合いをあける。
そして祈るように手を組み、なにか呪文を唱えた。
すると最初は小さな火の玉が4つ現れたと思うと、みるみる大きくなって1mは優に越える、燃え盛るトカゲに変わった!
ファイアリザート HN Lv 5
(精霊族/火属性/cost 11)
AT:2.020/2.020
DT:1.570/1.570
【火精霊魔法/初級】
ヨォッシャァァッ!!
これを待っていましたぁっ!
さっきセレアル姫に近付いたダークエルフさんを、見たときの詳細ステータスがこれだ。
イスファーラ・アムド・ラジャスタナード Lv 23
(エレメンタラー/ダークエルフ/女/火属性)
AT:3.460/3.460(+600)
DT:3.920/3.920(+3.700)
スキル:【火精霊召喚/第二階位】【火精霊魔法/初級】
注目すべきは、【火精霊召喚/第二階位】だ!
これは火属性の精霊を召喚する、精霊使いの魔法だ。
第二階位とあるのは、呼び出せる精霊のレアリティーを示す。
【火精霊召喚】は基本、第五階位まであり、最高の第五階位ではSR の"イフリート"を召喚する事が出来る。
このダークエルフさんは第二階位なので、下から二番目まで、つまりNとHN の火精霊を召喚出来るのだ!
もうお分かりかと思うが、フリードの"スケルトン"に続いて、今度はこのダークエルフさんから火の精霊を絞りとってやろうという目論みなのだっ!
《BATTLE START? YES / NO 》
"ファイアリザート"が召喚された事により、カードバトル画面が使用できるようになる。
―もちろんYES だっ!
だがまず残りのカードモンスター達を呼び出す。
"ゴブリンシャーマン"と"ブラッディーソーン"を俺の直前に、"レッサーデーモン"と"ビーファイター"をダークエルフに向けて飛ばす。
そして"ヒルジャイアント"を向かって来ている騎士団の連中の脇へ出現させる!
「わぁっ!巨人だっ!」
セレアル姫様がモンスターに襲われているのに気付いた騎士団のボンボン達は、姫様の元へ戻ろうとする者、そのまま俺を攻撃しようと進む者とで意見が分かれ、足踏み状態になっていた。(つか、リーダーぐらい決めとけよ…)
そこへすぐ脇に"ヒルジャイアント"が現れて、更に混乱に拍車がかかる。
その混乱中に"ヒルジャイアント"を、俺とダークエルフさんの間にまわりこませる。
さあ、カードマスターとしての仕事をさせてもらいます!
今回は、数あるスキルリストから初めて使う、【パーフェクトガード】を選択する。
【パーフェクトガード】キーをタッチすると同時にカードモンスター達の姿が、全員薄く紫色に染まる!