姫様と勝負Ⅱ
ゲームでのイベント【冒険者ギルドの腕試し】では、相手もカード使いでのガチンコバトルだったのだが、今回のイベントではそこが大きく異なる。
「よいですか!
賊の討伐という誉れはあの者に(と言って、俺をビシッと指差す)に横取りされてしまいましたが、その栄誉を取り返すチャンスが来ました!
あの者を打ち倒せば、我々の方が強い事が証明されます。
すなわちあの者を倒せば、賊共を打ち倒したのと同じ事なのですっ!」
「「「オオオッッ!!」」」
「…なんでヤネン…。」
おもわずツッコミを呟いてしまう。
姫様の無理矢理な論法の激に、気勢をあげていらっしゃる彼らが、イベントに書かれていた騎士団の面々だろう。
既に彼らのステータスはオレンジになっており、ヤル気マンマンのようだ。
だがお陰で【カーソルカスタマイズ】を弄らなくても、彼らのステータス詳細が判った。
…結論から言うと、彼らのレベルは6~8でクラスは皆騎士、攻撃及び防御値は1.500前後で半分が【スラッシュⅠ】か【チャージ】を有しており、一人【ヒールⅠ】を使える者がいた。
まあこれだけ見れば、アジトにいた賊共に毛が生えた程度だが、彼らはそれだけではなかった!
彼らの装備がすごいのだ!
ステータスの数値の後ろ、(+○○)となっている所が、攻撃・防御共に+1.500~2.000といった数値が並んでいる。
こっからでも判るくらい、装備はピカピカに磨かれており、いかにも高級品そうな紋様が刻まれている。
―そう!彼らはカネにモノ言わして高品質な装備をガッチリ身に付けた、ボンボン騎士団だったのだ!
見ていて判ったのだが、彼らの周りには、それぞれお付きの者がおり、彼らの身支度を整えている。
そういう所を見ていれば、何となく彼らの顔つきも世間ずれしていない、坊っちゃんぽく見えてきた。(彼らはお姫様よりチョイ歳上程度の者ばかりだ)
「すみません、何だか予想外の事態になってしまいまして…。」
ジョシュアさんが俺に近づいて来て、すまなさそうに言った。
「ああ、気にしないで下さい。」
勝負を受けたのは、俺も目的があっての事だ。
「それと、これは大変言いにくい事なのですが…」
ジョシュアさんが、本当に言いにくそうに言葉を続けてくるが、俺はそれを遮る。
「ああ、解ってますよ。
なるべく彼らにはケガしないように務めます。」
「…本当に申し訳ない。」
ジョシュアさんの表情は、実に苦々しい顔だ。
普段、あまり感情を表情に出さないひとなのに、その彼にこんな表情をさせるとは、あのドリル姫様、かなりこの城でブイブイいわしているみたいだな(笑)。
公爵様をチラリと見ると、ハラハラと心配そうにドリル姫様を見ている。
また家臣団の中にも、同じ様な表情で騎士団の方を見ている者が何人かいる。
おそらく、自分の息子なんかなのだろう。
そんなのに重傷でも負わしたら、エライ恨みを買われてしまう事間違いなしだ。
まあ幾つか対策はあるので、大丈夫だろう。
最悪、サレンド(降伏)して、負けを認めればいいのだ。
そう、イベントの成功条件は、『戦闘を終了すること』だ。
別に勝たなくても、イベントとしては大丈夫なのである。
ゲームでの【冒険者ギルドの腕試し】でも、対戦者は中堅のカードマスターが相手で、普通にチュートリアルを進めていれば、まず勝てない相手だった。
これは場合によってはサレンドする事を、教える意味もあってのイベントであった。
向こうの用意が、整ったようだ。
姫様がこっちにやって来る。
「用意はよろしくて?」
「うん、俺も今、準備出来たっすよ。」
実際、敵が急襲してきたら、あの者らはどうすんだ?という位待たされた。
「では叔父様の合図で開始と致します。
よろしくて?」
「ええ、いいっすよ。」
ドリル姫様は、しばらく俺をじっと睨んでいたが、ふん!と言って騎士団の方へ戻って行った。
さて、ここで一応、この対戦のルールを説明しておこう。
①勝負は俺(とカードモンスター達)と、ドリル姫様本人を含む騎士団との模擬戦である。
模擬戦といっても、実剣を使用し、魔法・スキルの制限は無い。
②ただし相手を死亡させた場合は、即負けとなる。
ちなみに俺のカードモンスター達は、その中に含まれない。(召喚獣と同じ扱いだからだ)
③対戦者を行動不能にするか降伏させる、またはグランドに線引きされているエリアから出せばアウトとする。
④アイテムの使用は不可。
⑤対戦者が全員アウトになった時点で、勝敗が決まる。
この場合、俺の側の方は、俺自身がアウトになれば即負けにとなる。
また姫様の方も、大将である姫様がアウトになっても負けとする。
⑥審判は両者に公平なネスフさんが受け持つ。
試合場のグランド外には【ヒールⅡ】を使える神官さんが5人控えているので、まあ大概の外傷は一発で治してくれるはずだ。
問題は俺の方がオーバーキルっちゃって、死亡させちゃう事だ。
事前にカードモンスター達に、手加減できるか?と訊いてみたが、―手加減?ナニソレ?といった反応が返ってきた。
なんとか"アルラウネ"と"フェンサースプライト"が理解出来るようだが、それも『場合によってはヤッちゃうかも、てへ!』という位の意識しかない。
「るるー!」
「アソコをズドムってするのも、駄目ぇっ!」
…どうやら、カードモンスター達にとっては、"命"に対する感覚が随分軽いように思える。
そうこうしている内に、パーミル公爵が一歩前へ出てくる。
「…それでは、これより我が姪、セレアルと彼女に剣を捧げる騎士達と、アルカナ使い殿の勝負をいたす。
双方、力の限り戦い、悔いの残らぬ試合をいたせ。
またこの勝負は我れ、ルクベィト=アドニス・カレト・トアパーミルの名において行われる。
試合後に遺恨を残すような事は、我れが許さぬ。
双方、ゆめゆめ忘れる事なかれ。
…それでは…勝負、始めっ!」