パーミル公爵謁見Ⅳ
「おお…、セレアルか…」
パーミル公爵がびみょーな顔をする。
家臣の方々も似たり寄ったりの表情だ。
俺も振り返ってみる。
セレアル=レスーレア・カレク・パーミル Lv 13
(フェンサー/ヒューマン/女/火属性)
AT: 1.470/1.470
DT: 2.590/2.590(+200)
スキル:【ダブルスラスト】
「おおー」
おもわず声が出てしまう。
声が出てしまった理由は、二つある。
まず一つは、今入ってきてツカツカとこっちに向かって来ている女の子せいだ。
彼女は真っ赤なフリフリのドレスに身を包み、そのドレスの豪華さだけで身分の高いのがわかる。
ステータスを見て名前に"パーミル"と付き、公爵を"叔父様"と呼んでいたからには、公爵家に連なるコなのは間違いないだろう。
だがそれよりも、彼女の容姿だ!
彼女は金髪碧眼で、ミールと同じ位の年頃にみえる。
ミールとはまた違った美少女だ。
『違った』とした所を説明しよう。
彼女の金髪だが、すっげー縦ロールなのである!
もうドリルかっ!ってなくらい縦ロールなのだ。
あんな髪型、実物で見たのはもちろん初めてだ。
その髪型が、気の強そうな顔の上に乗っかっている。
―つまり彼女のお姿は、典型的な『高飛車お姫様』なのだ!
公爵といい、パーミル公爵家の人達って、"お約束"が血筋なのかっ?!
これで「オーホッホホッ!」とか言っちゃったら完璧じゃん?!
そしてもう一つは、彼女の後ろに控えている女性をみたせいだ。
そのひとは20代前半の年頃に見える。
『見える』としたのは、彼女の耳が長く、後ろの方で尖っているからだ。
そう、彼女はネスフさんと同じエルフなのだ。
だがネスフさんと大きく違う所がある。
それは彼女の肌が濃い褐色をしている所だ。
彼女はダークエルフなのだ!
"ダークエルフ"といえばファンタジーものでは闇に魂を売り、光の側のエルフと敵対するのが多いが、この世界では大きく異なる。
まず闇の尖兵などではない。
この世界のダークエルフは、南方の砂漠や山岳地帯を住みかとし、肌の色はそれに起因する。
住みかが遠く離れている事や、信仰する神の違い、火の精霊を好んで使う事などから、リファーレンのエルフとはあまり交流がないが、別に敵対している訳ではない。
このダークエルフさん、もちろんエルフなので超美人でキラキラ光るストレートの銀髪、細面の顔には紫色の瞳をしている。
そしてアルミニウムみたいな光沢をした軽鎧(もしかしてあれがミスリルかっ?)を黒い服の上から着ているが、肌の露出度はかなり高い。
胸元なんかガバッとあいており、彼女のプロポーションの良さがよく判る。
彼女は金髪ドリルさんに仕えているひとなんだろう。
主より数歩下がった所に立っている。
その為、俺から5m以上離れてしまい、ステータスの詳細は見れない。
イスファーラ・アムド・ラジャスタナード Lv 23
そこまで読んだ所で金髪ドリルお嬢様が、俺の横に並ぶ。
並んだと思ったら俺をギヌロと睨み、プイッと前を向く。
「叔父様、別にこの様な出自もよく判らぬ賎しき者に、そこまで便宜を計る事はありませんわ!」
「いや、しかしだな、セレアルよ。
この者は、多くの臣民の命を獅子奮迅の活躍で救ったのだぞ!」
「それですわ、叔父様!
わたくしの配下の者が、苦労に苦労を重ねてやあーとあの森が怪しいと睨んでいた所に、それを何処からか嗅ぎ付けてわたくしの手柄を横から拐っていったのですわ!
そうでなければ、あの広い森からいきなりアジトなど、個人で見つけられる訳がありませんわ!」
「何を言うのだっ!
お主もジョシュアからの報告は見たであろう!」
「そんな物は、幾らでもこじつけられますわ!」
…あー、なるほどなー。
このドリルお嬢様は、自分の手柄になるはずだったのが、どこのどいつかもよく判らんヤツに横取りされて、キレていると…。
…うわー、ややこしい人に絡まれてしまったなー。
うんざりしている内にも、公爵様とドリルさんの舌戦は続いていた。
つか、俺自身の事なのに、本人はかやの外っすか?
「…しかし、この者の後ろに控えておるモンスター共を見よ!
ジョシュアからの報告から、このモンスター共がいかに精強か聞き及んでおろう?
かの様なモンスターを意のままに操る者を、手厚く保護するのは、国益に叶う事であるぞ!」
お嬢様は、俺のモンスターをチラリと見て少しビビったのか、半歩ほど横にずれた。
「ふ、ふん!
そう仰いますが、叔父様も本当に意のままに操れるのか、疑っておられたのでなくて?」
そう言って、階上のアーチャー達が隠れている方に視線を向ける。
「な、な、なにを申すっ!」
あああ、公爵様、めっちゃ動揺なさってる(笑)。
そういやカーソル表示については、ジョシュアさんに詳しく説明してねーわ。
公爵様が焦っているのに気を良くしたのか、ドリルお嬢様は矛先を家臣団へと向ける。
「それにこの汚らわしいモンスター共を、城内を歩かせて探りをいれると進言したのは、ジョッシュの言を信用していない証拠ではなくてっ?」
…なるほどねー。
わざわざカードモンスター達を呼び出したのは、そのせいでしたか。
ジョシュアさんも、立場上イヤとは言えなかった訳すかー。
…つか、コレ俺が聞いちゃいけないんじゃねっ?!
うわー、家臣の人達の何人かは、顔を真っ青にしているよ…。
つまりあの辺の方々が、今回俺を晒しモンにしたヤツらか。
よーく、覚えておきましょう。
しかもドリルお嬢様の爆弾は、まだ残っていた!
「だいたいこの者を留まらせたいのは、神様達とよしみを計りたいからでしょうっ?
それをもったいつけて、この者の技能が有益だなどと…」
「セレアルッ!」
公爵様が彼女の言葉を遮る、…が、ちょっと遅かったかなー。
ここにきて、自分がボロボロと暴露しまくってしまった事に気付くドリルさん。
あー、ジョシュアさんなんか、上を向いてこめかみを押さえてらっしゃいます。
うん、このねーちゃんを政治の場に出したらダメだ(笑)。
「……」
「……」
しばらく奇妙な沈黙が、広間を支配する。
そして顔を真っ赤にしたうっかりドリルさんが、目に涙を浮かべながらキッ!と俺を睨んだ。
「よくもわたくしに恥をかかせましたわねっ!
こうなれば、わたくしと勝負なさいっ!」
その瞬間視界の端にある金色のフラグの横に、新たなフラグがピコーンッ!と立ったのだった…。