パーミル公爵謁見Ⅲ
「ふむ、そなたが『アルカナ使い』であるか。」
「は、はい…。」
俺は現在、謁見の間で、パーミル公爵を前に片膝をついて頭を下げた状態だ。
胸に手を当てるのはこの場合、臣下の礼になるのだそうで(事前にジョシュアさんからレクチャー済)、臣下ではない俺は片手を膝上に、もう一方は拳にして床についている。
「そう畏まらずともよい。
そなたは多くの者達の命を救ってくれたのだ。
面をあげられよ。」
俺はチラリとジョシュアさんの方を見て彼が小さく頷いたので、顔をあげた。
正面の段上にある、豪華な椅子に現パーミル公爵が座ってこちらを見ている。
こんな予想の遥か斜め上をゆく城を作っちゃったヒトなんだから、さぞかし容姿も予想を裏切ってくれると思っていたが、彼の容姿はかなりファンタジーにありがちなテンプレな王様像だった。
恰幅のよい身体に豪奢な衣服とマント、額には帯冠を身につけ、白髪の混じった髪と顎髭はグレーだ。
RPG ゲームで、『おお、勇者○○よ、死んでしまうとはなさけない!』とかいかにも言ってそうな感じだ。
まあこの方は公爵であって王様ではないのだが、日本人の俺からすれば大した差は無いような気がする。
準王様または地方版の王様みたいなモンと、俺はとらえている。
謁見の間はサッカー場をひと回り小さくした位の大きさで、一番奥が三段高くなっておりそこに公爵が座っている。
その段の下、左側にネスフさんが臨時の座席っぽい椅子に座っている。
またジョシュアさんは段下右側の少し前に立っている。
そしてこの広間の左右に臣下の方々が、片側で20名、両側合わせて4~50名ほど並んで立っておられます。
街の一般人と比べて、カラフルなお召し物を皆さん着ておられ、いかにも貴族!っというカンジである。
ただその中で三人はローブ姿に杖を持って、いかにも魔法使い!っという風にみえた。
皆、西欧風の顔立ちなので、俺に対して好意的なのかはたまたその逆なのか、ほとんど区別がつかない。
ただ俺が片膝をつくのに合わせて、カードモンスター達もピッタリとタイミングよく畏まると、「おおっ!」だの「ほおぉ!」といった感嘆の声が各所から聞こえた。
それとひとり、小太りでチョボ髭のおっさんだけがあからさまにブスっとしていて、オレンジ表示になっていた。
カードモンスターを警戒して、敵意を示しているようには見えない。
なんか俺に恨みでもあるように感じる…。
一応おっさんのステータスを確認しておく。
バンドゥ・アル・フェンズ Lv 19
(商人/ヒューマン/男/闇属性)
AT: 1.120/1.120
DT: 970/970(+1.100)
…闇属性というのがひっかかるが、別に闇属性=邪悪という訳ではない。
しかしムカつく人間なだけでは、オレンジ表示にはならない。
ちょっとあとでジョシュアさんに、あのおっさんが何者か訊いてみよう。
オレンジ表示といえば、実は現在俺はオレンジ表示のカーソルに、ぐるりと囲まれているのだ。
彼らは広間にある二階踊り場の影に隠れている。
彼らのステータスを確認すると、全員のクラス(職業)が"アーチャー(弓使い)"だった。
つまり俺が何か不埒な事をしようとした瞬間、周りから弓矢が飛んできて、ハリネズミみたいになっちゃうという仕組みだ。
その為、俺は指一本動かすにも、ジョシュアさんに目線でお伺いをたててる事態になっている。
本当にミールを連れて来なくて良かった!
ジョシュアさんが彼女の同行を止めたのは、この事が判っていたからだろう。
それと正直、先程の衛兵さん、アルドさんとの会話が救いになっている。
あの人が言ってくれた事で、こんなに気の滅入る状況でも何とか耐えていけてる。
今度お礼に行くとか言ってたけど、俺の方が礼を言いたいくらいだ。
さて公爵との謁見の方は、実に淡々と進んでいる。
公爵の質問に、「はい」「いいえ」「滅相もありません」「ありがとうございます」のいずれかで答えるだけなので、楽チンである(ジョシュアさんから、これもレクチャー済)。
…なんか落語のネタに、こんなのなかったっけ?
公爵様や周りの家臣の人達も、事前にジョシュアさんから俺についてかなり詳しく情報が行き渡っているのらしく、本当に基本的な質問しかしてこない。
「ふむ、ではそなたは、我が街に留まられるのかな?」
「は、はい。
もしお許し頂けるようでしたら、この街を拠点に色々としてみたいと思っております。」
「それは我も望む事である!
そなたが住みやすいよう、なるべく便宜を計ろう。
我が街はいま活気に溢れておる。
そなたのような英気溢れる若者には、特に住み心地が良かろう。」
「ありがとうございます。
公爵様のご厚意、深く感謝致します。」
「うむ。」
…ふっー!これで何とか終われそうだ!
コレ、もちろん俺が人前で、こんなにも饒舌に話せる訳がない。
この台詞も、ジョシュアさんから道中にてレクチャーを受けた結果なのだ。
要はパーミルとしては、俺のようなレアなクラスを持つものを、なるべく囲っておいて、出来ればそれを伝授してもらいたい、という訳なのだ。
これはジョシュアさんから、まんまそう言われた。
「んなこと、俺自身に言っちゃっていいんすか(笑)?」
と尋ねたら、
「貴方の様な方には、逆に隠しておいたほうが態度を硬化されると判断しました。
違いますか?」
と真面目に返されました。
マーシャちゃんやジオールおばさん達は、この街で暮らしていく事になるだろうし、そうなればミールを彼女達とあまり離ればなれにはしたくない。
となれば実際、俺の拠点はこの街からとなるので、色々とお上の方から便宜を計ってくれるなら、願ったり叶ったりである。
…まあカードマスターのクラスを一般の人達に伝授できるのかは、俺自身まだ把握出来ていないのに出来るワケないじゃんと思ったが、あえて声には出さなかった。
俺だって、カードマスターが増えた方が嬉しいのだ。
こういうカードゲームは、トレードが強化の早道なのだ。
だからトレードの出来る仲間が増えるほど、攻略がしやすくなる。
そういえばクラスチェンジって、どうやってするんだろう?
また後日、誰かに訊いてみよう。
さて公爵様達も、俺から一番訊きたかった事が訊けたので、これで謁見は終わりのはずだ。
「ではアルカナ使い殿よ。
何かあれば、気軽に我の所へ来るがよい。
我は、常にそなたを歓迎しよう。」
公爵様の社交辞令に言ってくれた言葉が、謁見の終わりをしめす。
俺は改めて礼を言って立ち上がる。
…やぁーと、ミール達の所へ帰れるよー!
―と思っていた俺の考えは甘かった。
ホッとした俺の背後で、ドバンッ!と扉が開く音がした。
「しばしお待ち下さいませ、叔父様!」