パーミル公爵謁見Ⅱ
10メートル有るか無いか程度の橋を渡って、城内へ入る。
正面に石積みの壁と、大きな開かれた門がある。
その壁の数メートル上からいきなり巨大な岩石が、覆い被さるように存在している。
ドでかい質量が頭上にあると、なかなか強烈な圧迫感があるもんである。
入り口の左右に立つ衛兵さん達は、毎日ここに立っていて気が滅入らないか、要らぬ心配をしてしまった。
その入り口の門を抜け、建物の中へ入って行く。
中はホールになっており、一番奥にこの城本体である岩石内部に入っていく階段が見える。
さすがにこの辺りの頭上の岩は綺麗に彫刻がなされ、岩肌をモロに見せている所はほとんど無い。
屋内はかなり明るい。
各所にバレーボール位の丸いクリスタルが嵌め込まれており、それらが光を発している。
たしかクリスタルに下位の光精霊を封じ込めておき、光が弱くなってくれば一定の間太陽に当てておけばまた元の明るさになるという、ソーラー発電のファンタジー版みたいな仕組みになっているはずだ。
ゲームでの知識だが、どうやらこの時代でもちゃんと普及しているようだ。
ホールからこの岩の塊を貫くように、大階段が上へと続いている。
家の近所にあった神社とタメを張れるくらいの階段を登る。(たしか200段以上あったはずだ)
登りきった所で左右に別れ、俺達は右側の方に進んだ。
…それにしても、コレ何気にキツいわー。
というのも、要所要所に衛兵さん達が立っているのだが、彼らの視線がキツい!
そりゃーそうでしょー!
大切な公爵さんらを守るのが彼らの仕事だ。
そんな中に、いかにもヤバそうなモンスターを堂々と引き連れて彷徨かれるのだ。
いわばホワイトハウスの中に、ミサイルを神輿ににでも載せて練り歩いているようなものだ。
彼らは一様に剣の柄に手をかけ、いつでも抜けるようにしながら、俺の動きを厳しい視線で監視している。
ジョシュアさんから通達が出ているのだろう、直立不動の姿勢は崩さないが、もう場の空気はピリピリしている。
カーソルが『敵意有り』のオレンジ表示にならないだけマシである…って、思ったそばからオレンジ表示のヒトもいるぅっ!
たぶん心の中で葛藤があるのだろう。
オレンジ表示のカーソルが現れたり、消えたりしている!
もうこれは、『おめー、何か変な動きしてみやがれ、即ぶった切る!』みたいな感じでしょう…。
ジョシュアさんが『堂々としてればいい』って言ってたけど、…そんなん出来るかっ!
俺はなるべく身体を小さくして、周りの衛兵さんにヘコヘコしながらジョシュアさんの後ろについていく。
うう、ミールゥ!
もう帰りたいよー!
てな泣き言を心の中で叫びつつ、さらに100mほど左右に何度か曲がりながら進んだ。
道中、同じような厳しい視線を(オレンジ表示のヒトもあと三人いた)うけ、またたぶん探知関係の魔法だろう、俺やカードモンスター達に、何らかの魔法がかけられたのを感じた。
敵意ある魔法ではないはずだ。
【スリープ】のような直接ダメージの無い魔法でも、攻撃魔法と認知されれば、かけた相手は敵としてカーソルがレッド表示で現れるはずだからだ。
おそらくモンスター達が、幻影かとか邪悪な者かといった事を調べてるんじゃないだろうか?
…別に調べたかったら、幾らでも言ってくれればいいのに。
なんでそんな影からコソッとするんだろ?
そうこう進んでいくうちに、人の背丈の倍以上はある観音開きの大扉の前に到着した。
扉の左右には、がっちりプレートメイルを着こみ槍を装備した衛兵さんが立っている。
…もちろん俺達をガン無視して、正面の壁を睨んでいる。
「それでは私は先に入って到着を伝えてきます。
お呼びしますので、ここで暫くお待ち下さい。」
そうジョシュアさんは言って、俺の後ろにいたネスフさん(あれっ?このヒト、城内に入ってから一度も喋って無いな。)と一緒に扉の中に入って行った。
「……」
「……」
沈黙がツラいっ!
そりゃあ、こんなトコでべらべら喋るもんでもないけど…。
「おい…」
「ほひゃいっ!」
誰っ?誰が今言ったの?
びっくりして変な返事しちゃったよ!
俺は誰が言ったのか判らず、左右を見回してしまう。
「…俺だよ。」
恐る恐るその声の主に、目を向ける。
それは扉の番をしている衛兵さんの、右側の人からだった。
彼は、俺より頭まるまる一つ高い。
その顔を正面に向けたまま、視線を一瞬だけこちらに向け、ボソリとあまり周りに聞こえないような小さな声で話かけてきた。
「なあ、アンタが人さらいの賊共を、本当に一人で全滅させたのか?」
俺はまさか声をかけられると思いもしなかったので、少しキョドってしまった。
「い、い、いやー、俺つーか、コイツらが頑張ってくれたんすけど…。」
そう言って、後ろに控えているカードモンスター達を指さす。
その先には偉そうにふんぞり返る、"アルラウネ"以下のカードモンスター達がいた。
「いや、お前らもちょーしのんな!
ちゅーか、この中でもそんな態度すんなよ!
ただでさえ、なんかいい印象持たれて無さそうなんだから!
頼むよ、キミ達!」
そのやり取りに、衛兵さんは目だけで笑ったように思えた。
「…そうか、いや俺はアンタに礼を言いたかったんだ。」
「へ?」
「アンタが助けた者の中にな、俺の古くからの友人がいたんだ。」
「あ、そうなんすか…。」
「今までも行方不明になったヤツは一人として見つかっていなかったから、半ば諦めてたんだ。
…だから生きてて、帰ってきて本当に嬉しかった。
改めて礼を言うよ、ありがとう…。」
そう言ってサッとこちらを向き、深々と俺に頭を下げた。
「いやいやいや!頭を上げて下さい!
俺はただ、俺でも助けらそうだったからしたまでで…!
そんなにお礼を言われる事なんか…。
それにっ!俺だけじゃなくて、冒険者の人達もいたから何とかなったっすよ!」
おもわず少し声がデカくなってしまった。
チラッと左側の衛兵さんを見るが、こちらは全く俺達の話が聞こえてないように、正面を見据えている。
「いや、また今度落ち着いたら、そいつと一緒に伺わせてもらうよ。
ココには暫く居るんだろ?」
「はあ、まあ。」
そんな会話をしていたと思っていたら、彼は急にサッと正面を向き先程の直立不動に戻った。
金属のプレートメイルを着込んでいるはずなのに、一度もガチャリと音をたてなかった。見事なモンだ。
ひと呼吸空いて、扉が開いた。
扉からジョシュアさんが出てくる。
「お待たせしました。
どうぞお入りください。」
俺はジョシュアさんに続いて扉の中に入る。
入る時に衛兵さんのステータスを確認しておく。
アルド・シャイカー Lv 22
(騎士/ヒューマン/男/水属性)
AT: 3.490/3.490(+800)
DT: 3.880/3.880(+1.200)
スキル:【チャージ】
入る時に二人の衛兵さんに軽く頭を下げて、俺は扉の内側へと進んで行った。