パーミル公爵謁見Ⅰ
ファンタジーに出てくるお城と聞いて、どんなものを想像するだろうか。
沢山の尖塔を有し、天まで届けと高い石造りの建造物。
具体的には千葉県にある、世界的に有名な某ネズミさんの国にあるお城を思い浮かべるのではないだろうか?
間違っても名古屋城みたいなのは、中世ファンタジー世界には出てこない。
俺が想像したパーミル城も、そんなファンタジーなお城だった。
だからまず上の方を見上げてみた。
しかしそこにあったのは、今日もアッパレな晴れ具合の空だけであった。
不思議に思って、そのまま視線を下に向けていく。
そしてやっと見えてきたモノは、俺の予想の斜め上をいっていた。
「岩?」
「ウチも同じ事を言ったニャー。」
そう、そこにあったのは、とてつもねーデッカイ岩の塊だった。
…これをどう表現すればいいか…。
うーんと、まず普通のお城を想像してほしい。
そしてそのお城の上部2/3をとっぱらってくれ。
そしてとっぱらった所に、ラグビーボールを横に真っ二つにして、その切断面を上にした形の大岩を乗っけて欲しい。
または一つの岩で出来た小山を、ひっくり返してお城の一階部分に乗っけたモノと言えば解ってもらえるだろうか。
大きさはちょっとした総合体育館くらいはあるだろう。
「いかがですか?
パーミル自慢の浮遊城は?」
「うえぇぇっ!
アレ浮いてるんすかっ?」
―驚いた事にパーミル城は、南方諸島にある浮遊島のなかで、比較的小さめなヤツをここまで牽いてきて、そのままお城として使っていると言うのだ!
パーミルにつく少し前、近くの丘からこの街を見下ろした時、この城を『らしき』ものと俺は言っていたが、それは遠目から見てるとどうしても俺が想像する『城』に見えなかったからだ。
「まあどう見てもお城には見えないわな。」
岩肌の所々に、窓やらバルコニーらしきものはあるが、基本岩石をそのまま使用しているようだ。
ここら遥か西部、五王国よりも更に西に行くと、沿岸諸国にたどり着く。
ここにはこれまたファンタジーではお馴染みの、空に浮かぶ島々が存在する。
ゲーム『アルカナバースト!』で俺も何度か訪れた事があったが、天空に浮かぶ数百の大小様々な浮遊島が描かれたフィールドイラストは幻想的で美しかった。
確かにあの島々の中ではは、この城に使っているのは小さめの部類に入るが…。
沿岸諸国からここまで、いったい何百km あるんだろうか?
よく運んできたモンである。
「…やっぱり『災厄』対策ですか?」
ジョシュアさんは静かに頷く。
十六年前におきた『パーミルの災厄』。
突然、旧パーミル城下が陥没して巨大な穴にのみ込まれた、前代未聞の大事件を教訓に、地下からの攻撃に対して『浮く』という究極の防御方法を新生パーミルは考えついたのだ。
「あれ?
そう言えば、昔のパーミルの方はどうなったんです?」
それに対してジョシュアさんは、いま来た道の方を指さした。
「街を出て、少し南に行った所にあります。
来られた時、右手にあったレント山で見えなかったはずです。」
そう言えばパーミルもあの山で最初、隠れていたな。
「この城のもう一つの自慢である、空中庭園からだとよく見えます。
公爵様との謁見を終えられたら、ご案内しますよ。」
ジョシュアさんはそう言って、城内への橋へ俺を促した。
「んじゃ、ちょっと行ってきます。
終わったら、すぐそっちに向かうね。」
そう、ミールに伝える。
ミールはまだ不承なようだが、俺は苦笑しつつ肩を叩く。
「マーシャちゃんと久し振りなんだろ、ちょっと構ってあげなよ。」
「…わかったニャ。」
待っているジョシュアさんと、俺は城内へと入って行った。
「ああ、さすがに中ではシルバーウルフは手狭になりますね。」
…よかった、やっと【カード一覧】にもどせるわー。
今も門番の衛兵さんに、かなり厳しい視線を向けられていたのだ。
「代わりにあの巨大カマキリを出して頂けますか?
…そうですね、それにレッサーデーモンとあと、ああ、確かスケルトンウォーリアーもお願いします。」
ええぇっ!
「ちょっ!何ですかそれっ?
こんな城内で、カードモンスターを何でそんなに出さないといけないんすかっ?
いい加減、そろそろ教えて下さいよ!」
それに対して、ジョシュアさんの反応はいつものように薄い。
つーか、このヒト無表情だから判りにくいが、この状況をおもしろがってねーか?
「まあ後で説明致しますので、ここは私の言う通りにして頂けませんか?
悪いようには致しませんから。」
むー、納得できないが、とりあえずジョシュアさんの言う通りにしよう。
"シルバーウルフ"を【カード一覧】にもどし、"ジャイアントマンティス""レッサーデーモン""スケルトンウォーリアー"を呼び出す。
「とりあえず貴方は、大きく構えていてくれれば大丈夫です。
さあ謁見の間に向かいましょう。」