パーミルに到着Ⅲ
街の人達の多くは、質素ながらも清潔そうな服を着ている。
これは先日泊めさせてもらった村(後でファロット村という名前なのを教えてもらった)の人達にも言えるが、けっこうこの世界の縫製レベルは高くて、皆が普段着ている平服でも作りがしっかりしているのだ。
しかしそんな事はどうでもいい!
街の中を歩いている人々の内、半分近くがファンタジーなのだ!
なにがファンタジーやねん、と言われそうだが、つまるところ様々な鎧兜やいかにもな魔法使いのローブ!、腰や背中、それに肩に立てかけてた物騒に光る武器の数々!―そんなモノを装備した人々が普通に歩き回っているのだ!
こんな人が日本の街中にいたら、超リアルコスプレキター!って写メ撮られまくったあげくに、銃刀法違反で連行される事間違いなしである。
今までもバルストさん達一行の姿を見てきたが、こうも普通の街中で闊歩する人々を見るのと、やはり感動するわー!
特に女性の方達の肌色率がけっこう高けー!
さっきのドラゴニアンのおねーさんみたいな、際どい防具を装備している女性をわりかし見かけるのだ!
そーいや、ゲームの時でも女性のNPC達は、色っぽい装備をしている者が多かったが、ホント彼女達の防御力とかどうなってんだろ?
そんな感じで俺は、あっちをキョロキョロ、こっちをキョロキョロと完璧なおのぼりさん状態だ。
「おのぼりさんニャーねー!」「おにーちゃん、おのぼりさんだー!」
姉妹で言われてしまった!
…しかしキョロキョロしている内に気付いたのだが…。
「あのー、ジョシュアさん、やはり俺達かなり目立ってしまってません?」
…そうなのだ。
主に"シルバーウルフ"君のお陰なのだが、道行く人の殆どが俺達一行を見て、めちゃめちゃ驚いている。
目敏い人は"アルラウネ"や"フェンサースプライト"を指さす人もいる。
つまりかなり晒しモンになっているのだ。
「ええ、そうですね。」
そうですね、ってアンタ…それだけっすかっ?
実を言うとパーミルの門をくぐった所で、俺はカードモンスター達を【カード一覧】に戻そうとしたのだ。
だがそれを止めたのが、ジョシュアさんだった。
「大丈夫ですよ。
パーミルの中央通りは広いので、彼("シルバーウルフ"の事)くらいなら、全く邪魔になりませんよ。」
―いやいや、そーじゃなくてぇ!
…確かにパーミルのメインストリートの道幅は、かなり広い。
日本の片側三車線クラスの国道ぐらいはある。
馬車も悠々と行き交いしている。
だけどそんな事、気にしてるんじゃねーつうの!
だがそんな感じで、のらりくらりとはぐらかされてしまって、今に至ります。
…うーん、ジョシュアさんの事だから、意味も無くこんなことをさせている訳じゃあないとは思うが…。
せめて理由を教えてくれてもいいじゃん!
結局、ウマの歩みで30分位かけてパーミル城前に着いたのだが…。
「つ、疲れた…。」
体力面ではないです、精神面で、です。
城へ向かう道中、最初は皆さん普通にウマに乗って(俺はミールに乗せてもらって)進んでいたのだが、ジオールさんと一緒のウマに乗っていたマーシャちゃんが、"シルバーウルフ"に乗ってみたいと言い出したのだ。
きっかけはミールが道中で"シルバーウルフ"に乗ってた話に及んだ事だった。
マーシャちゃんも最初は"シルバーウルフ"のデカさにビビっていたが、慣れてくると大きさよりその毛並みの美しさとさわり心地に興味が移った。
ジオールおばさんに"シルバーウルフ"に近づけてもらい、その毛並みを触っている時に(ちなみにおばさんも、興味深げに触っていた)先のミールの話が出たのだ。
「わたしも乗ってみたい!ねえ、駄目?おにーちゃん?」
可愛い俺の妹がおねだりしているのだ。
駄目なはずがないではないか!
直ぐに"シルバーウルフ"の背に乗せてやりました。
―しかしそれが間違いだった!
意外と高い"シルバーウルフ"の背に、少し怖くなったマーシャちゃんが、俺も一緒に乗るよう言ってきたのだ!
…ただでさえ悪目立ちしているこの状況で、さらにその注目の的になっている"シルバーウルフ"の背に乗る。
しかも小さな少女と一緒にだ!
「おにーちゃん一緒に乗って!」
また可愛い妹の、おねだり攻撃だ!
俺は必死に思考を巡らせ、このピンチから逃れるすべを探す!
「そ、そうだっ!ミール!
君は一度乗っている経験者だから、君が乗ったらどうだい?」
「ウ、ウチはもういいニャ!そ、それにウチが乗ったらこのウマは誰が操るニャ?」
―くっ!そうきたか!
「じゃあ!ジオールさん!
さっきも随分コイツに興味があるようだったじゃないですかっ?」
「あ、あたしかいっ?
い、いやー、あたしは高いトコ苦手でねぇ。
それにあたしも、乗っちまったらこのウマがねぇ…。」
ううっ!二人とも乗ってしまえば晒し者になるのが判っているから、必死に逃げようとしている!
「おにーちゃん…」
ああっ!マーシャちゃんが、とうとう涙目にっ!
何とか助けが無いものか、ジョシュアさんやネスフさんに目で訴えかける。
だがその返答は、衛兵さんまで含めた全員が生暖かい視線で「はよー乗れ!」と答えていた…。
…そーいう訳で城に着くまでの約2~30分、"シルバーウルフ"の背で大喜びするマーシャちゃんを前に座らせ、俺は心を無の境地にしてこの苦行に耐えた。
「さあ着きました。
これがパーミル城です。」
ジョシュアさんが指し示す俺の正面には、数メートル幅の堀があり、そこに城へと続く橋が架かっていた。
そのまま俺の視線は、パーミル城を見上げようとした。
「なんじゃ、こりゃあ?」