パーミルに到着Ⅱ
挨拶もしっかり出来ない社会人としてどうなの?な俺の姿を見ていたジオールさんは、もうしばらくじっと俺を見た後、どういう訳かニッカリと笑いかけてきた。
「なんだい。
魔物を意のままに使うっていうから、どんなに恐ろしいお人かと思ってたけど、何処にでもいるボウズじゃないかい。」
もう坊主と呼ばれる歳でもないと思うんすけど!
…まあ何処にでもいるパンピーなのは否定しません。
「ちょっとヘタレな感じが、死んだうちのダンナに似ているねぇ。」
え、うそ、そんなに俺って、ヘタレ臭だしてる?
「まあ、アンタ悪いヤツじゃあなさそうだ!
こうみえて、あたしゃ人を見る目はあるつもりだよ。」
そう笑いながらジオールさんは、その(横に)大きな身体をぶつけるようにして、俺の肩に腕を回してきた。
そしてそのまま俺の耳元に、周りに聞こえないようにボソリと呟いてきた。
「アンタ、アンタはヒューマンだけどちゃんとミールのこと、(嫁として)考えてるんだろうねぇ?」
「(神前契約をどうにかするのは)当然でしょう!
ミールみたいな獣っ娘美少女は、不幸になったらイカンのですよ!
つーか、種族は関係ないすよね?」
獣っ娘の事ゆえ、アツくなってしまい急に饒舌になった俺に、おばさんは少し驚いた様子だった。
「んー、話がちょっと噛み合ってないような気がするけど、アンタがミールを大事に考えてるのは解ったよ。
…まあこうゆう(←どういう事だ?)事は慣れだしねっ!
よろしく頼むよ。
あのコらはあたしにとっちゃ、もう娘みたいなモンだからねっ!」
そう言って、俺の背中をバシバシ叩いてくる。
―俺達のやりとりに気を利かしてくれていたジョシュアさんが、ネスフさんとの会話を終えてこちらに向かって来る。
「色々とお話しがあるかと思いますが、貴方はわが主、パーミル公とお会いして頂きます。
お疲れかと思いますが、ご同行願いますか?」
まあ聞いていた話なので、異論はない。
それにミールの村の人達も、今から向かうパーミル公の城近くで保護されているらしい。(もちろんマーシャちゃんやジオールおばさんも一緒だ)
ミールが俺の方に付いてきたがったが、ジョシュアさんからやんわりと止められ、俺も終わったらすぐそちらへ行くからと言って、なんとか彼女を宥めた。
まあ城に入る直前までは皆、一緒だ。
さていざパーミルへ入る門を通り抜けようと、街の中へ視線を向ける。
その瞬間、視界の半分近くが、重なりあった文字で埋め尽くされた。
「おぅわっ!」
「どうかしましたか?」
不審な顔をしてジョシュアさんが、訊ねてきた。
「ちょ、ちょっとだけ待ってもらえますかっ?!」
俺は視線を急いで門の外に向ける。
あー、カーソルの事、すっかり忘れてたわ。
パーミルまでの道のりが緩やかなカーブを描いたものだったので、街の中を視界に入れるのがマーシャちゃん達と出会うギリギリまでなかったのだ。
彼女達と出会ってからも、ミールとの感動の再会等をみていて、街の中をあまり見る事がなかった。
俺は手早く【メニュー】、【ヘルプ】キーから【カーソルカスタマイズ】を選び、前に作成しておいたスロットの二つ目"市街地(平時)用"をタッチする。
恐る恐るパーミルの中へ視界を向ける。
すると先程の文字の乱舞はうそのように無くなり、名称とカーソルが出ているのは、ジョシュアさんに付き従ってきた衛兵さんだけとなった。
おもわず息を吐き出す。
「すいませんでした!
もう大丈夫です。」
そう言いながらジョシュアさん達に追い付く。
―いやー、それにしても事前に気が付いて、ウルティナ様に訊いておけて良かった!
うじゃうじゃ蠢く文字を見た途端、一瞬、平衡感覚を失うくらいの衝撃を受けた。
何百人(もしかしたら何千人)分もの人名が、大小とり混ぜて視界の1/3を(しかも丁度、視界の中央辺りを)占めるのだ。
それがどれだけ気持ちの悪い事か、解っているようで解っていなかった!
本当にもし【カーソルカスタマイズ】の事を知らずにいて、そのまま街で過ごさなければならなかったら、たぶんノイローゼにでもなってたんじゃないかな。
―そう考えると、改めてゾッとした。
やっと門をくぐり抜けて、パーミル市街に入れる事が出来た。
「おおー、ファンタジーやー!」
目の前のメインストリートには、多くの人々が闊歩している。
人波の多さでいうと、俺が生まれた街の駅前よりも賑やかだ。
だが歩いている人々がもう、ぜんぜん違う!
まず俺と同じヒューマン族が一番多いが、他の種族もかなり目に入ってくる。
まずエルフ・ビースト族の人達が比較的多く、その他にも背丈が俺達の半分くらいの種族、ドワーフやノーム(地人)、ハーフリング(小人)族の人達がちらほらと見える。
うほーっ!ドラゴニアン(竜人)族のおねーさん発見!
ドラゴニアンは竜の血をひいていると言われる種族で、ドラゴンの尻尾と翼に一部の皮膚が鱗状になっている。
おねーさんは、グラマラスな体型に肌を惜し気もなくさらしたビキニアーマーで、チラッとこちらを見た(うっわ、目があっちゃった?)後、道をノッシノッシと横切って行った。
そう!それに彼らが着ているモノだ!