パーミルに到着Ⅰ
迎えにいてくれた一行の中から、ビースト族の少女がこちらに向かって走ってくる。
「マーシャ!」
ミールがウマから飛び降りて、少女に駆け寄って抱き締めた。
俺は慌てミールが手放したウマの手綱を持つが、このウマ、できたヤツなのか、それとも"アルラウネ"との一連のやりとりで諦観してしまったのか、暴れる事もせず自分から勝手に止まってくれた。
俺はこのウマ君から降りて、手綱を引いてミール達の方へ向かう。
ウマの方も、素直についてきてくれた。
そこでミールも、ほっぽってしまった事に気付いたようだ。
すまなさそうに謝ろうとする彼女を手で制して、「大丈夫、大丈夫。」と伝える。
その瞬間、俺の胸にどかぁっとマーシャちゃんが飛び付いてきた!
「おにーちゃんっ!ありがとおっ!」
「ぶほっ!」
鳩尾の、なかなかイイ所に突っ込まれた。
マーシャちゃんの姿は、フリード共のアジトにいた時に遠目からチラッと見ただけだった。
なにしろあの時は少しでも早く動く事が必要だったのて、マーシャちゃんがどんな子か見ている時間は無かったのだ。
彼女はミールと同じネコミミ、ネコシッポタイプのビースト族で(姉妹なんだから当然か)、見た目小学校高学年か中学生くらいに見える。
髪はミールと同じ金髪だが、彼女よりずっと濃い色をしており、また彼女の癖っ毛とは異なり真っ直ぐな髪質のようだ。
それを後ろで縛って、ポニーテールにしている。
肌はミールと同じ健康的な小麦色をしている。
瞳もミールと同じ濃い碧眼で、くりっとして好奇心旺盛な目で俺を見上げてくれている。
「こーら!マーシャ!
急に飛び付いたらダメって、いつも言ってるニャーの!」
「えへへー、ごめんなさい!
でもおにーちゃんなら、大丈夫でしょ?」
マーシャちゃんは、俺にイタズラっ子そうな笑顔を向けて、また抱きついてきてくれた。
「え、えーと…、お、俺が『おにーちゃん』?」
「えー?だって、おにーちゃんはおにーちゃんでしょ?
…あ、おにーちゃんって、呼ばれるのいや?」
少し悲しそうに、上目つかいで俺に訊いてくる。
―ズキュゥゥーン!
「嫌なモンかっ!
よーし!コレから俺がマーシャのにーちゃんだっ!」
「やったぁっ!
マーシャにはミールおねーちゃんがいるけど、おにーちゃんもいたらなって思ってたの!
だから嬉しいっ!
ヨロシクねっ!おにーちゃん!」
―ダキュン!ズキュゥン!
…やべぇ…これが妹萌えというモノかっ!
マーシャちゃんは、やはりミールの妹だけあって、美少女である。
5年、いやあと3年もすれば、ビースト族の野郎共が群がってくるに違いない。
そんな可愛い子に『おにーちゃん』と呼ばれる破壊力がこれ程だったとはっ!
しかもトドメに獣っ娘だしっ!
いやこのコ、素でコレやってるのか、それとも小悪魔的に判ってやってるのか…、まー俺的にはどっちでもオッケーなんだけどねー!
「キミ…、もしかして、マーシャ位の歳のコがいいニャ…?」
ちょっ!「俺はロリコンちゃうわっ!
あくまでも、父兄的にズキュンとキタだけですっ!」
「ろりこんの意味は解らニャーけど、あんまり弁解になってニャーな気がするニャ!」
こんな会話をミールとしているところに、ジョシュアさんともう一人、ビースト族のおばさんがこっちにやって来た。
「あっ!おばさんっ!」
「ミール!」
ミールがおばさんと呼んだ人に抱きつく。
「ああ!無事で良かった!
怪我はしてないかい?
もうこの数日、本当に心配で…。
毎日、ウルティナ様にお祈りしてたんだよぉ!」
二人が抱き合っている間に、このおばさんのステータスを見てみる。
ジオール Lv 22
(ビースト族/女/コック/火属性)
AT: 1.280/1.280
DT: 1.650/1.650
スキル:【絶妙なる塩加減】
このジオールさんが、ミールの話に度々出てきた隣に住んでいたおばさんの事だろう。
この数日、ずっとマーシャちゃんの面倒を見ていてくれたんだと思う。
つーかこの人、ATやDT値は低いけど、レベルはバルストさんより高けーじゃん…。
彼女はミールとあまり変わらない背丈に恰幅のいい体型で、おそらくクマ系のビースト族なのだろう、短く切り揃えた茶髪から丸っこいクマミミが見える。
その彼女が、今度は俺をじっとそのハシバミ色の瞳で見つめてきた。
こ、これはちゃんとご挨拶しなければ!
「あ、あのっ!どうも!
初めまひて!
ミール、じゃなかった、ミールさん…」
…この後何て続ければいいんだ?
"お付き合いをさせてもらってます"→恋人かっ!
"お世話になっています"→仕事相手かっ!
あああ、ダメだ!ヤッパ俺、コミュニケーション能力が低すぎる~!
「おばさん、彼がウチらを助けたひとニャ!
このひとが、ウルティナ様が遣わしてくれたひとニャーよ!」
俺が続きの言葉を探してモゴモゴ言ってる内に、ミールが助けに入ってくれる。
うう、すまないねー。
「…まあ普段、初めて会うひとには、人見知りして上手く喋れニャーみたいだけどニャ!」
おっしゃる通りですー!