村からパーミルへⅣ
「ああ、パーミルが見えてきましたよ。」
「え?どこ?どこニャー?!」
いま俺達は、緩やかな小高い丘の頂上に、ウマの背に乗りつつ前方を見ている。
俺はウマを操るスキルなぞ、とーぜん持っていないので、ミールが操るウマに一緒に乗せてもらっている。
最初、誰と一緒に乗るかとなった時に、「ウチの後ろに乗ればいいニャ!」とミールが一番に挙手してくれたのだ。
小柄なミールと俺とであれば、他の者と乗るよりウマへの負担が一番少ないとの事から、誰も異存なく決定した。
当然、俺も野郎とのタンデムなんぞ考えたくもないので、全く異論は無かった。
ただ最初、俺自身は"シルバーウルフ"に乗っていけばいいじゃん、と言おうとした。
だがそこにミールから提案がでたので、思わず口から出る直前だったその言葉を飲み込んだのは秘密だ(笑)。
彼女が前で、俺がその後ろに乗っかる形になるわけだが、小柄なミールが俺の前に座ると、ちょうど彼女の頭のてっぺんが俺の鼻の辺りにくる。
すると俺の目前には、ピコピコとよく動く彼女のネコミミがっ!
鼻からは、彼女のえもいわれぬいい香りがっ!
視覚と嗅覚のダブルアタックに少しばかりトリップしてしまい、二回ばかりウマから落ちそうになってしまった。
しかもそのあと「もお、なにしてるニャ!しっかりウチに掴まってるニャ!」と言われ、無理やり彼女の腰に腕をまわされて密着度アップ!
俺との身体の間に挟まれたミールのネコシッポが、窮屈そうに動いて俺のいろんなトコを刺激するぅっ!
…その日はどの様に進んだか、ほとんど記憶にない。
夕方になり、街道沿いの夜営地でウマから崩れるように降りた所で、やっと我にかえった。
たぶんそれまで俺の表情は、この上もない満ち足りた&この上もないキモい顔をしていただろう。
前に座るミールが、振り返らなかったのが幸いである。(一度、レンジャーさんの一人が振り返って俺の顔を見て、ギョッとした顔をして急いで前を向いたのは覚えている。)
いやー、生まれてこのかた(転生前も含む)、女の子とこんなに密着した経験なんて無かったし、オマケに今回は獣っ娘美少女である!
まったく…、ミールは俺をドキ死にさせる気かっ!
―さて今は、ウルティナ様と【フレンド会話】をした翌日の午前中のまだ早い時間だ。
ミールとのタンデムも少しは慣れ、昨日よりかはマトモに乗れている。
パーミルからの応援部隊には、前日の夕方近くには出会っていたのだ。
ジョシュアさんがいるかなと思ったが、彼はパーミルで待っているそうだ。
ウマをもらってからも順調で、モンスターとのエンカウントは一度も無し。
まあ確かに街道でそんなにホイホイとモンスターに襲われていたら、いくらファンタジー世界でも流通が成り立たないだろう。
どうやら街道筋は定期的な討伐が行われているらしく、かなり安全なのだそうだ。
ただやはり街道から数10Km ほど離れると、モンスターの出現率はグンとあがるらしい。
つまり俺のような人間は、急ぎでもなければ荒野をうろついた方がいいというわけだ。
あと何度か名前のでている『ウマ』たが、地球の馬に体型や大きさもほぼ一緒なのだが、顔については馬というよりロバに近い。
あと頭部に2cm ばかりのツノが二本生えている。
まあツノといってもチョロっと出ている程度で、尖ってもいない。
この動物をこの世界では『ウマ』と呼んでいる。
(ちなみに『ウシ』と呼ばれる家畜もいるらしい。)
"アルラウネ"は、そのウマの頭の上に乗っかっている。
最初、ウマもかなりウザがって振り落とそうとしたが、さすがはHR のモンスターだ。
しっかりツノを握って、全然落ちる気配も無かった。
その内ウマの方が根負けして、いまは"アルラウネ"のなすがままになっている。("フェンサースプライト"は俺の頭の上に乗っかっている)
「あっ!あれニャーね!」
ミールが彼方の右斜め前方を指差す。
その方向、距離にして30km 位だろうか、前方に見えていた小山に隠れていた、パーミルの街らしきものが進むにつれ段々と姿を現してきた。
パーミルは周りを城壁でぐるりと囲み、形はここからならよく判るがほぼ真円だ。
中央よりやや左にずれた位置に、領主の居城らしき大きな建物が見える。
パーミルの城壁外、左側には、いま俺達のいる丘の下から緩やかにカーブしながら流れている大きな川がある。
街道はその川と右側にある小山の間を縫って、パーミルに続いていた。
「この調子なら、昼前どころかもっと早く着きますねぇ。」
ネスフさんがノンビリとした調子で話す。
「じゃあ俺が先に行って、ジョシュアさんに伝えてこよう。」
レンジャーさんの一人が、俺達にそう伝えてウマをとばして行った。
俺達もたぶん、あと2~3時間位で着くんじゃないかな。
「やっとマーシャやおばさん達に会えるニャーね!」
ミールの声もずいぶん弾んでいる。
そういえば妹のマーシャちゃんや村の人達は、パーミルのどこにいるんだろうか?
まあジョシュアさんにでも訊いたらわかるだろう。
丘を降りてパーミルに近づいてくるにつれ、パラパラとすれ違う人達がでてきた。
もっと多くの人が往き来しているかと思ったが、意外と少ない。
会う人は皆、巨大な"シルバーウルフ"を見てギョッとする顔をするか、呆けた表情をして俺達一行を街道脇から見つめるばかりだ。
そうこうしている内に、パーミルに入る大きな門の前にまでやって来れた。
その門の前でジョシュアさんと数名の衛兵らしき人、それにビースト族のおばさんと少女が、俺達の到着を待ってくれていた。
「おねーちゃんっ!」
本日の【一日一回無料召喚】を記入し忘れていましたので、こちらで書き込んでおきます。
オーク N Lv1