村からパーミルへⅠ
「こらぁ!キミたち、何時まで寝てるニャー!」
「ふがっ?!」
いきなり扉がドバンッと開けられる。
そこには仁王立ちするミールがいた。
どうやらかなり寝坊をしてしまったらしい。
俺も久しぶりのベッドで眠れて、かなりディープに寝入ってしまっていたようだ。
ジェファーソンのオッサンは、いつも最後までぐーすか寝ていた人間なので言わずもがなである。
ミールに尻を叩かれつつ、顔を洗って村長さんの奥さんに苦笑されながら朝食をかっ込み、装備を整えて家を出れば、皆準備万端で待機してくれていた。
俺は恐縮して皆に謝っていたが、オッサンはまだあくびを噛み殺して、どこ吹く風だ。
「あれ?」
そこでやっと気が付いた。
出発を準備しているのが、ネスフさんとあと二人の冒険者さんだけなのだ。
「おう、こっからは暫くお別れだな。」
同じく鎧や剣等は装備しているが、それ以外の旅装は全くしていないジェファーソンのオッサンが肩を叩いてくる。
どうやら俺達はパーミルに向かうが、オッサンとバルストさん、それに冒険者さん達の残りはこのままこの村に留まり、フリード達を監視しながらパーミルからの応援を待つ事になっていたらしい。
その手配も含めての、ジョシュアさんの先行だったというわけだ。
パーミルに向かう道中で、俺達もその応援の人達に出会うはずなので、そこでウマをもらい一気にパーミルへという算段になっているらしい。
「またパーミルでな!」
「ひと段落したら、冒険者ギルドに寄ってくれ、今回の報酬の事もあるからな。
俺も暫くパーミルを中心に仕事をする予定だ。」
ジェファーソンのオッサンとバルストさんが、村の入口まで送ってくれる。
…ちょっと別れ際に村の外れの小屋に監禁している、フリードの様子を見ようと思ったが、どうやら俺はかなり寝坊したようだ。
太陽もずいぶん高く昇ってしまっている。
さらに俺のワガママで、時間をかけるのも気が引けるので、アイツについてはスルーする事にした。
なんだかんだと言っても、数日間一緒にいたヤツだ。
一言ぐらい、何か言ってやろうとも思ったんだがな…。
あ、でも別れ際にニヤリと含み笑いでもされたら、気になってしかたがないしな!
変なフラグの元になるような事はごめんです!
まあオッサンを含めた手練れの人達が残っているんだ、まず脱走など有り得ないだろう。
ミールと俺、それにネスフさんと冒険者の二人(先の戦いでも斥候で活躍したレンジャーさんだ)の五人で、街道筋まで戻り、そこからパーミル迄のくねくねと続く道をまた歩き始めた。
前日と同じく、"ビーファイター""レッサーデーモン"を上空偵察に出てもらい、地上の方は"アルラウネ""フェンサースプライト""シルバーウルフ"それに"アサシンシャドウ"を俺の影に潜んでもらう。
それ以外の者達は【カード一覧】の中だ。
これからは通りすがりの冒険者や商人達と出会うかもしれないので、いらぬ揉め事のタネはなるべく無くそうとの配慮だ。
さて歩きながらも、二つしなければならない事がある。
まずは今日の【一日一回無料召喚】だ。
《ゴッドブレス》の効果は、昨日で終わってしまっている。
ので、今日の召喚は普通のモノになっているはずだ。
クレイゴーレム N Lv 1
(魔導族/土属性/cost 6)
AT:220/220
DT:200/200
おお、一番最初に召喚してやられてしまった、"ロックゴーレム"の下位種だ。
何とか今度は"ロックゴーレム"まで【進化】させて、活躍させてやりたいな。
もう一つせねばならない事は、ウルティナ様への【フレンド会話】だ。
この前は何だかバタバタで話が終わってしまった。
一応周囲にモンスター等がいないことを確認して【フレンド会話】のキーを押すと、こちらが声をかける前に女神様の声が聞こえてきた。
「おはよぉさんどすぅ~。
お待ちしておりましたぇ~。」
「あ、おはようございます。
連絡が遅くなりまして、申し訳ありません。」
どうやらウルティナ様は、俺からの連絡を待ってくれていたようだ。
「よろしおすぅ。
うちも少し前に、一息つけた所どすゎ~。」
ウルティナ様の声に、少し疲れたようなモノを感じるのだが…。
「大丈夫すか?」
「ほほほ、地上のお方に心配されるとは、うちもまだまだどすなぁ。
大丈夫どすぇ。ちょっと久しぶりに夜更かししたさかい、少しばかり眠たいだけどすぇ。
気ぃ使ぉうてくれて、おおきにぇ。」
「お話しが終わりましたら、お休みさせてもらいますぅ。」と仰いましたので、手短にしよう。
…結局、先日の事は何が問題だったのか、また"機密事項"と言われるかもしれないが訊いてみる。
「詳しい事は言えまへんのやけど、あんさんの詳細なレベルや能力、現在はどこに居るんかといった情報は、うちら一部の神しか知ったらアカンのどすわ。」
"一部"というのが、どういう神々の事なのか、おそらく神様でも位の高い神達なのだろう。
「それをあのコはポロリと皆に喋ってもろたんどすゎ。」
あのコとはアルキエラさんの事だろう。
なかなかのドジッ娘さんぷりである。
でも俺の情報の漏洩が、そんなに大変な事なのだろうか?
「あんさん、まだ自分のお立場よぉ解ってられまへんやろ?」
さすが女神様、まるで俺の心を読んだようにきいてこられました。
「前にも言いましたケド、あんさんは『お方様』がいま一番注目してはるおヒトどすぅ。」
ああ、そんな事仰ってました。
「あ…、確かそれで、色んな神様が俺を狙ってるって…」
「そうどすぅ。
あの時はサラリと言うただけどしたけど、それはあんさんの情報が守られてるさかいやったんどすぅ。」
ウルティナ様がすまなさそうに言うには、アルキエラさん→アルピーニャさん三人娘→他のウルティナ様の従属神→他の神々の従属神→一般の神々と、俺の情報は広がっているらしい。
しかもさすが神様である、地球のネット社会なんぞ比べられない位のスピードで、絶賛拡散中なのだそうだ。
「位置情報までは出回ってへんかったんが、不幸中の幸いどしたわ。」
もし知れ渡っていれば、今ごろ神々が大挙して押し寄せ、しかもこの前のアルキエラさんのような、"降臨バージョン"で現れる者がボロボロと出てくる可能性が大とのこと。
「あんさん、考えておくれやす。
街のど真ん中で、いきなり神々がぎょおさん降臨くるんぇ?」
想像するまでもない、この前のアルキエラさんの時でさえ、いきなりバルストさん達の態度が急変したのだ。
それが何柱もの神々が降りて来るって、場合によっては身体や精神に変調をおこす人が出てくるかもしれない。
「しかもあんさんの気を引こうと、神の力を乱発なんぞしたら…」
―うわぁ!とんでもねー!!
「ここまで同じ事を言うて、アルキエラらも顔を真っ青にしはりましたわ。
あんさんも、同じ様な顔をしてはるんとちゃいますか?」
そう言って、ウルティナ様は乾いた笑いをなされました。