村に到着Ⅰ
着いた村は約20軒程度の規模で、周囲を高さ3mぐらいの木の杭で囲っている。
村の周りには、麦のような穂がついた作物の畑が広がっており、まだ青々としたそれが風になびいていた。
畑には数人の村人が野良仕事をしており、村に入ろうとする俺達を手を止めて見ていた。
小型のトラック位はある"シルバーウルフ"は、遠目からでもよく目立つが、彼らがコイツを見て騒いだり、逃げ出したりといった様子は見えない。
ただびっくりしたように、呆けてこちらを見ているだけだ。
村の入り口に差し掛かる。
入り口にはこれも3m位の高さの門があり、今は内側に開かれていた。
その入り口の奥に、三人の男性が俺達を迎えてくれていた。
男性の一人は白い髭を蓄えてかなり高齢に見えるが、背筋はしっかりとしている。
残り二人は若く、彼の左右に立っている。
三人の内、若者一人がビースト族で、あとの二人はヒューマン族だ。
村の中は中央をメインの通りとし、その左右に家々が建ち並んでおり、中央の通りの一番奥に、教会か集会所らしき一回り大きな石造りの建物が見えた。
また通りの中間点あたりに井戸汲み場がある。
家々は全て木造の平屋建てで、所謂丸太小屋というかログハウスぽい造りをしている。
ちょっと驚いたのだが、家々の窓には全てガラス(のようなもの?)が嵌め込まれている。
確か板ガラスの製造技術はけっこう難しく、大量生産が出来るのはある程度の技術力がいるんじゃなかったっけ?
俺がキョロキョロと周りを見回している間に、バルストさん達がその老人と話をしていた。
見た感じ、ジェファーソンのオッサンとは知り合いのようだ
俺も向かった方がよかったなと思ったが、まあ紹介されたらでいいだろう。
…って言ってる側から、ジェファーソンのオッサンに手招きされた。
"シルバーウルフ"は恐がらせてはと思い、その場におすわりさせておいて、ミールと共に老人達の方に向かった。
「村長、今言っていた彼が、この度の一番の功労者の『モンスター使い』とその従者だ。
例の賊共のほとんどは、彼が倒しちまったんだ。」
「いや、そんな…あ、どうもです。」
「ミールと申しますニャ。」
あああ、も少ししっかり挨拶しろよ俺!
年下のミールの方が、しっかり挨拶出来てるじゃん!
「ほうっ!いや、まさかこのようなお若い方が…
しかし、あの様な巨大で美しい狼を従えておられるのじゃからな…。
いやいや、見た目で判断してはいけませんな!
さあどうぞ、お疲れでしょう。
今晩はゆっくりなさってくだされ。」
そう言って村長のおじいさんは、俺達を村にいれてくれた。
―"グレイウルフ"君、キミいい仕事しているよっ!
どうやらこの村は、街道から森へ入る最後の拠点となるため、小さいながらも宿屋兼酒場があった。
ただ小さいものなので、全員は泊まれず、俺・ミール・バルストさん・ネスフさん・ジェファーソンのオッサンの五人は村長さんちに泊めてもらう。
ジョシュアさんの名前がでなかったのは、彼と他の二名で村からウマを借り、先行してパーミルに行ってもらう為である。
ウマなら、明日の昼前にはパーミルに着くそうだ。
この村の人口は100名を少しきるくらいか。
なぜ判るかというと、理由は簡単だ。
ぐるっと周囲を見回せば、村人達の名前とカーソルがズラリと見えるからだ。
なんせ壁であろうが何であろうが、これは無視して表示されるからな。
「さあここが我が家ですじゃ。
遠慮なく泊まっていって下さい。
いま湯あみの用意も、しとります。
しばらくお待ち下さい。」
―おおっ!やっと体か洗える~!
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「ふひ~!生き返ったー!」
もっかい転生した訳じゃあないよ(笑)。
いま俺は身体をきれいに洗えて、スッキリした所だ。
村長さんが用意してくれたのは、ちょうど幼児が遊ぶ子供用ミニプール位のタライに、お湯を入れたものだった。
これらを男は村長さんの家の裏庭に、ミールだけ屋内で使わさせてもらった。
この世界にはさすがに石鹸は無かったが、だがそれ以上にスバラシイものがあった。
それは『シィル』と呼ばれる植物の葉を乾燥させたあと粉末にしたものなのだが、この粉を水と混ぜ、緑色のドロリとさせたモノを身体中に塗りたくり、その後お湯で洗い流すのだ。
するとまるで石鹸で洗ったようにスッキリすべすべのお肌になり、なんだかハーブっぽい香りがするようになった。
いや、この香りがまたいいんだ!
この『シィル』という植物、けっこう簡単に栽培できるらしく、安価で何処でも手に入るし、粉状にしておけばずっと長持ちするので、長期の旅にも持って行って水で洗い流せばスッキリ出来ると、重宝がられている。
俺も長期のイベントで旅をする時は、ぜひ買っておかねば。
やっぱり屋外での探索には、色々と俺の知らないモノが必要になるなあ。
ミールやバルストさんに、後々教えてもらおう。
身体を洗ってサッパリした後は、村長さんの奥さんの手料理をご馳走になり(考えてみれば、これが転生してから初めて食べる"料理"と呼べるものだった!)、その時に色々と彼らと話をした。
どうやらこの村でも数人拐われているらしく、行方不明者がでているらしい。
今回の事で、拐われた人達の行方が判ればと、期待しているのだそうだ。
それに安心して外に出られる事が本当に助かっているらしく、随分と感謝されてしまった。
さてお腹一杯にご馳走になって、さあお休みになって下さい、と言われた時になって問題が発生した。
案内された小部屋にはベッドが一つしかなく、そこにミールと俺が案内されたのだっ!